医学界新聞

 

〔覆面座談会〕 参加者がホンネで語る――――

マッチングの光と影

花田春夫(仮名)
私立○○大学医学部6年
風間夏樹(仮名)
私立□○大学医学部6年
鳥山秋人(仮名)
国立○□大学医学部6年
月島冬子(仮名)
私立□□大学医学部6年


マッチングの結果は……

――覆面座談会ということで,今年医学部6年生の皆さんにお集まりいただきました。さっそく皆さんのマッチングの結果から教えてください。
花田 第1希望だった市中病院の内科系のプログラムにマッチしました。本格的に病院見学をはじめたのは6年生に入ってからで,特に5月から夏にかけてですね。11の病院を見学して,8つを順位表に書きました。母校の大学病院も受験したのですが,順位としては希望する市中病院を上に書きました。
鳥山 第2希望に書いた市中病院に決まりました。母校の大学病院ももちろん受けたんですが,花田さんと同じように,順位は下のほうに書きました。
 病院見学は5年の冬からはじめて,その春休みと6年の夏までの前半に,かためて見て回りました。大学の実習があったり,夏前には試験があったりで,日程的に難しい点はありましたね。7つぐらい見学に行って,受けたのは母校も含めて5つでした。
風間 僕は見学したところが3つで,受験したところのもその3つですね。第2希望の市中病院にマッチしました。
月島 私は皆さんとはちょっと違って,母校の大学病院一本で受験し,マッチングは第1希望の内科系プログラムでマッチしました。病院見学は,マッチングとは関係なく行った2つです。

実習に行くと有利?

――採用試験の準備についてお聞きします。希望病院の実習には行かれましたか?
花田 第1希望の病院の実習には行ったのですが,病院側は,「採用試験には関係ない」と言っていました。ただ,結果的に実習が採用試験にどれだけリンクしているかというのは,一概にはいえないと思うんです。病院によって,そのスタンスが違いましたから。実習に来ていないと話にならない病院もあったし,実習はあまり関係ないという姿勢のところもありましたし,実習のことには触れずにいたけれども,実習の期間も使って学生を見ている病院もありました。
 ただ,多くの場合は――断言はできませんが――やっぱり行っておいたほうが採用の時にはいろいろ役立つのかなとは思います。「この病院のどこがいいと思いましたか」と聞かれた時に,実際に見に行ってないと答えられないということもあるので,そういう意味でも,実習に行ったほうがいいと思います。
鳥山 採用試験の準備に関しては,僕も特にやっていません。おそらく,いちばん重視されるのは面接だと思うので,特に勉強のようなことはしていないですね。
 実習に行くかどうかに関しては,やはり,自分が将来,少なくとも2年,長ければもっといることになる病院ですから,ぜひ見ておくべきだと思います。
風間 僕も採用試験についての準備は,国家試験の勉強と同じでいいかなと思っていたので,特にしていませんでした。面接や実習については,鳥山さんが言われたとおり,1回は自分の働く場所を見ておくという意味でも,現場の先生に会えるという意味でも有用だと思います。

中間公表をどう見るか

花田 中間公表はどうなんでしょう? そこの病院を書いた人が何人いるのかというのを出さないで第1希望だけを公表するのには,あまり意味がないと思いますが。
鳥山 あれは,たぶんやってみたかっただけなんじゃないですか(笑)。
――ただ,「あの中間公表が効きましたね」と言う先生方もいます。最終的なマッチ率が95%までいったのは,これを見て危機感を持った学生が,数多く順位表に書いたせいではないかというのですが。
風間 逆に,滑り止めの病院を受けるなら,作戦として中間公表以降のほうがよいかもしれませんね。
花田 ただ中間公表のあとに採用試験があること自体が矛盾している気もしますよね。皆さんは中間公表を見て考えを変えたり,順位を変えたりしましたか?
鳥山 考えを少し変えましたね。順位は変えませんでしたが。
花田 僕も倍率を見て順位を変えるということはしませんでした。第1希望,第2希望を決めるのはけっこう簡単ですよね。誰しも「ここへ行きたいな」と思える病院は1つ,2つある。その他に「まあ,ここでもいい研修が受けられるかな」と思う病院がいくつかあって,そういったところはどこも一長一短であることが多いですよね。それで迷って,期間中に順位を変えることはありました。

正直者は損をする?

風間 滑り止めを受けないと危ないかなと思って,9月くらいに面接試験に行った病院があったんですが,そこで「うちを1位に書いてくれるなら」という約束で内定をもらったですね。実際には第3希望でしたけど。そうしたら,面接の後に,何回も電話がかかってきて「本当に第1希望に書いたのか」って。もちろん,「大丈夫です」と答えました(笑)。
花田 「第1希望に書いてください」と言うところや,逆に学生に面接で「うちは第1希望ですか」って聞くところもあるみたいですね。その時に第1希望でなくても「はい」と言う学生が,実際には多いと思います。
風間 言わざるを得ないですよね。
花田 学生に順位を聞くことが許されるのなら,逆に「じゃあ,僕は希望順位の何位に書いてくれますか」と聞いていいということになりますよね。そう聞かれて困るのであれば,学生に聞いてはいけないと思います。
風間 僕は,意味のない会話だと思うんです。「それを聞いてどうするんだろう?」と。あるいは,この質問はスクリーニングだと思うんですよ。就職するという目的を達成するにはどう答えればよいかという状況判断ができるか否か,という。
鳥山 僕が受けた病院では,そういうことは聞かれなかったです。ただ,「ほかにどこを受けた?」という質問はどこでもありました。どこの病院も,それは気になるみたいで……。でも,もし順位を聞かれたら,「ここが第1希望です」と答えたんじゃないかと思います。
月島 私は母校一本だったのでそうした苦労はなかったのですが,アンマッチになった場合にどうするかということは常に不安としてありました。噂では,一本にしぼるとアンマッチになる確率が高いということを聞いていたので。
――大学病院の側から,うちを第1希望と書いてくれということはないんですか。
月島 来年度以降のマッチングのことを考えると,特に私立では学内の学生が多いと問題になります。そのためか,むしろ「なるべく第1希望に書くな。外に行きたいと思うのならどんどん受けろ」というふうに言われました。

内定はすべり止め?

――「内定」というのもずいぶん話題になりましたね。
花田 大学病院に関して言えば概ねそうだと思うのですが,囲い込みのつもりで内定めいたものを出しているのが,学生にとっては逆に都合のよいすべり止めになっているという実態があったと思います。そのあたりの意識のズレが,大学病院と学生側にあったのかもしれません。
風間 内定を出す意味は,とりあえず自分の病院のことを意識していてほしいというアピールですよね。そういうことでは意味があるのかもしれないけれども,その病院の格というか,人気度にもよるでしょうね。
月島 私の大学では内定というのはなかったんですが,なければないで逆にストレスもありましたよ。思ったよりも中間発表の順位がよかったみたいで,大学側も強気になって「内定を出したら,おまえら,安心して外に出ないだろう。内定は出さないから,とっとと他を受けてこい」みたいなことを言われて,それはそれで非常につらかったです。だから内定を出さないほうがいいのかは,わからないですね。結局,うちの大学ではアンマッチもけっこう多かったので。
花田 多かったんですか。
月島 ええ。試験の内容も,学内であるとか成績などはまったく加味しないもので,実際,大波乱だったんです。
風間 どんな試験だったんですか。
月島 学内生は,「まあ,学内だし,面接と普通の試験なんだろう」という感じで臨んだんですが,いざ行ってみたらOSCE状態だったんですね。
風間 それは怖い!(笑)
月島 たぶん学内生がいちばんびっくりしたと思います。「面接と小論文だろう」という噂だったんですが,その面接が医療面接だったので動揺した人もかなりいたようです。成績がよくても医療面接は苦手,という人はアンマッチになっていたりしましたね。

マッチングを振り返って

――マッチングを振り返ってどうでしょう。
花田 やってみた結果,たぶん,不公平な制度だったと感じる人は少ないんじゃないでしょうか。内定の話があったり,個人のレベルで「それはおかしい」という話は聞いたりしましたけど,マッチング制度のシステム自体が不公平な印象を与えるかというと「これはよくない」と言い切れる人は少ないと思うんですよね。結果を見ても,比較的全国にうまく散らばって東京一極集中を避けることができているようなので,学生をうまく振り分けるという意味でも,システム自体は悪いものではなかったと思います。
 ただ,いかんせんいろいろな情報が提示されるのが後手後手に回ってしまい,決まるまでに時間がかかり,医学生を振り回しているだけなのではないかという印象がついてしまったという感じは受けました。
月島 そうですね。とにかく,準備する時間が圧倒的に足りなかったというのと,いま言ってもしょうがないですけれど,これだけ大きな制度改革をするのであれば入学する年に言ってほしかったなと思います。大学の入学を最終的にどこの大学を選ぶかという時に,附属病院のことや学費のことなどを考えたということもありましたから,「いまさら?」という驚きがありました。
 ただ,いろいろな病院を見る機会を提供する意味では,すごくいいのではないかと思います。学生側の意識は,だいぶ変わりましたよね。私も,たぶん大学にこのまま普通に残るのであれば,エスカレーターみたいな感じを持っていたと思うんですけれども,マッチングという機会があったということで,改めて「自分は,卒後どうしたいのか」と考えるようになりました。受動的に残るのではなく,能動的に「大学に残りたいのか,外へ出たいのか」と。そういうふうに考える,いい機会にはなったと思います。
風間 今年に限っていえば,個人個人の生き残り能力がすごく試される年で,勉強ができても,体力が弱い人はどんどん振り落とされていくような印象があります。やっぱり,最終的に強い人だけがいい病院に入っていたりするんじゃないでしょうか。
 マッチングのシステムについては,周りの友人たちを見ていると,学生を順位づけするという点ではうまくいっていると思います。
 来年以降は,たぶん自分に対しての準備をコツコツと,4年,5年の時から積み上げていった人が勝っていくんじゃないのかなと予想しています。
鳥山 今年は,全体的に時間がなかったので,特に情報という点で偏りがあったと思います。うちの大学はマッチングに関しても,ほかの大学より情報がちょっと早かったような気がするんですよ。特に地方の大学の方と話していると,マッチングがどうなるのか,どういうふうに準備をしていったらいいのかの情報が不足している感じを受けました。こうした情報の格差ができてしまったのは,ちょっと問題なんじゃないかと思います。
 それと,おそらく病院側も時間がなかったと思うんですよ。母校の大学病院も定員割れをしていまして,最終的にどうなるかわからないんですけど,その定員割れが埋まるにしても,例年に比べれば1年目の研修医の数はずいぶん減ってしまうわけで,そうなるとたぶん仕事が回らなくなるというのを,大学側はいちばん心配していると思います。だから,準備期間が足りなかったという意味でも,今年のマッチング実施というのは少し早かったのではないかと思います。
花田 母校の大学病院一本だったり,他の大学病院,あるいは市中病院を受けたりと,選択肢はさまざまあるわけですが,要は3年目以降の自分のキャリアプランを考えたうえで,それと初期研修をうまくリンクさせられるように研修病院を選ぶべきだと思うんですよ。倍率から病院のランク付けなどがなされていましたが,そういった視点から,例えば高倍率の研修病院にマッチしたのが「勝ち組」で,定員割れした大学病院で研修を受ける人が「負け組」という発想をするのは非常に誤っていると思いますね。
 ただ,今年に関して言えば,それを検討する時間がやはり少なかったという気がします。その結果,なんとなく皆が外の病院を受けているから,自分も受けたほうがいいような気がして,半ばパニックみたいにいろいろなところの面接や実習に殺到してしまった,ということが起こったのではないでしょうか。だから,この制度自体をうまく生かすためにも,できればもっと早い段階から準備ができれば,研修を選ぶ僕らとしても,よりよいものになったんじゃないかと思います。
――ありがとうございました。
(おわり)