不妊治療の最先端を紹介
第5回不妊・生殖医療国際会議(A-PART)開催
さる10月23-25日の3日間にわたり,東京都渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルにおいて第5回不妊・生殖医療国際会議(A-PART)が開催された。
この国際会議は1998年に不妊治療に携わる民間機関および施設の国際団体として創設され,アジア・オセアニア地域で初めての開催となった今回は,世界の生殖および不妊治療分野の第一線で活躍する研究者40名が講演を行なった。
核移植技術がもたらす可能性

また,患者の体細胞を他人の卵子に核移植し,人工的な受精刺激を与えることで第2減数分裂を誘起,半数体化させて卵子を作出する研究を報告。現段階では完全な半数体化は難しいが,マウスの実験では一部の胚が発生する可能性を示したという。
最後に氏は「こうした手法はヒトクローンに類似したものと映るかもしれないが,作出した卵子が胎児になるには父方の配偶子が必要不可欠」と述べ,核移植技術が将来,高齢女性の不妊治療における1つの選択肢になり得る可能性を示唆した。
原因不明不妊に対するアプローチ
ヒト白血病抑制因子(LIF:Leukemia Inhibitory Factor)は,子宮内膜において胚の着床時期に増加することが知られており,原因不明の不妊,または胚移植が不成功の女性では子宮内膜でのLIFの濃度が有意に低いことがわかっている。Peter R. Brinsden氏(Bourn Hall Clinic)はイギリスで行なわれた,遺伝子組み換え型ヒトLIF(r-hLIF)の投与による着床率向上の治験を紹介した。
過去最低3回,胚移植が不成功だった患者に,移植前1週間からr-hLIFを皮下投与。通常の精子注入またはICSI法によって受精した胚を移植した結果,33人中11人が妊娠に成功,出産に至ったという。
氏は「この治験はr-hLIFの皮下投与が効果的かつ安全であり,胚移植後の臨床妊娠率の向上に貢献するというpreliminary evidenceを示した」と述べ,より大規模な概念実証試験に備えて,体外受精を必要とする患者群を対象にr-hLIFの効果を評価する計画が策定中であることを報告した。
今回議長を務めた加藤修氏(加藤レディースクリニック)は最後に登壇,「一般的に不妊治療での採卵にはホルモンなどが用いられるが,卵巣刺激ホルモンの多量投与などによる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や反復刺激による卵巣機能不全といった危険性がある」と指摘,患者に負担をかけない,より自然な手法による不妊治療技術の開発の必要性を強調した。
氏のクリニックに来院する外来初診患者の多くは,Post Coital Test(PCT)などの不妊検査の結果が正常であるにもかかわらず,自然には妊娠が成立しないという。
氏は「このことは,正常な卵ができているのに体内で精子と出会えていないことを意味する」と述べ,卵巣刺激を行なわず,クロミフェンによる自然周期法で得られた卵子を性交後に体内で受精させる卵子子宮内移植(OUT:Oocyte intra-Uterine Transfer)を紹介した。
現在までに,この方法により原因不明の不妊患者193人中15例が妊娠,6例において出産に成功したという。
氏は「卵巣へのホルモン刺激や体外受精などを用いずに,きわめて簡易で自然な治療法として患者に適応できる可能性が示唆された」と述べ,今後の臨床応用化に向けてさらなる効率化をめざしていく,と締めくくった。