医学界新聞

 

連載(23)

    新医学教育学入門

教育者中心から  
学習者中心へ
  

クリニカル・クラークシップの考え方(後編)

  
大西弘高 国際医学大学(マレーシア)・医学教育研究室上級講師


2560号よりつづく)

大学病院の病棟での体制

 この枠組みで実習を組むと,100人のクラスを16のグループに分けることになります。内科を回るのは,5年が4グループ,6年が2グループ,計35-40名です。内科の200床は,4病棟,8つの診療チームで構成されており,各グループに5年が3名,6年が1-2名配置されます。この学生たちを直接指導するのはチームに1-2名いる2年目研修医たちで,チームに2-3名の1年目研修医も補佐的な役回りをします。
 患者は,これらのチームが直接担当しますが,独立して専門内科も担当しています。学生と研修医の診療チームは病棟単位,専門内科は疾患別で患者を診ており,別々の組織構造をなしています。各診療チームには,指導責任者がおり,研修医2年目が務めるチームリーダーや専門内科医と常に連絡を取り合い,問題が起こらないよう目を光らせています。また,夜間や休日の当番は,6年生と研修医1年目の回り持ちです。連続して16時間以上は働かないように,チームリーダーや指導責任者が配慮しています。ただ,夏期休暇や年末から3月末にかけての期間は学生がおらず,人手が少なくなるため,1-2年目研修医がなるべく病棟内でのローテートをするよう働きかける,チームリーダーに3-5年目の者を据えるといった工夫がなされる予定です。
 学生は,回診以外に,専門医との週2回の症例検討カンファレンス,週1回の臨床トピックスのミニレクチャーを受けます。学生の評価システムに関しては,現在チームリーダー,指導責任者,看護師長の間で話し合いが行なわれています。

学生の準備状態

 現状では,5年生が現場に出て,診察やカルテ記載をすることは難しいと思われました。そこで,4年の1-2月の8週間ずつを診察技能訓練にあてることになりました。全身診察,医療面接,学生同士で実施したりシミュレータを用いたりする各種処置や手技,症例問題による臨床問題解決演習,診療録記載が5年生有志の協力の下で行なわれます。模擬患者の育成が遅れたためこの形式を採用しましたが,5年生にとって教えることが復習になりますし,6年になった時に一緒のチームで働く面々なので,いい教育的作用があるようです。

実施時の困難さ

 これらの改革により,大きな影響を受けるのは3年目以降の医師たちです。今まで,1-2年目の時にはあまり自らの臨床判断によって患者を診ていなかったため,3年目ぐらいになってようやく独り立ちして研修している印象がありました。しかし,今後,この時期の医師は最前線から離れる可能性が強くなり,過渡期にどのような立場を担ってもらうべきかを大学や大学病院として検討することになりました。
 最もこのカリキュラムに抵抗しそうなのは,医学生と実習で触れ合う機会がなくなった心臓外科や脳神経外科といった超スペシャリストたちです。この点については,院長が診療圏調査を行ない,専門学会との話し合いにより今後育成する医師数をどのようにコントロールするかを踏まえて,説得にあたることになりました。
 実際にカリキュラムを運営して学生の苦情が出そうなのは,クラークシップとは名ばかりで往々にして見学のみとなり働き手として実践的な経験を積むのが難しいこと,特に,一般病院やプライマリ・ケア医に学生を派遣した時は,この点について学生からのフィードバックが指導医に届きにくいことだと思われました。
 しかし,このような問題点については,黒田先生が実施段階で何を重視しているかをよく理解している運営担当秘書が力を発揮しそうです。元看護教員であるこの秘書はこのような実習の運営に長けており,実習先との連絡を密にとること,挨拶状や礼状の管理をすること,問題が起こった時にはすぐに現地に向かって解決を図ることを早速目標に掲げているようです。