医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


「お互いを尊重しつつも自己主張できるナース」を育てる本

ビー・アサーティブ!
現場に活かすトレーニングの実際

勝原裕美子 著

《書 評》藤原久仁子(三木市立三木市民病院看護部長)

日本人のための「アサーティブ・トレーニング」

 人間関係のストレスが多い看護職にとって,アサーティブネスはぜひ身につけたいコミュニケーション能力である。しかしながら,アメリカで生まれたアサーティブネスの概念は日本の文化にしっくりこないため,身につけることをあきらめかけている看護職が多いのではないかと思う。そんな方に朗報だ。本書には,日本の看護職に染み透るように理解してもらえるアサーティブ・トレーニングを作りたいという著者が,その強い思いから,日本の社会や文化に合ったアサーティブネスを模索し,独自に開発したプログラムが掲載されているのである。

「実況中継」的な構成

 プログラムは「Step0トレーニングを始める前に」から始まり「Step9トレーニングの効果」で終了する。Step2の「あなたのアサーティブネス傾向/ノンアサーティブネス傾向を測ってみよう」では,測定ツールで自分の傾向を測りレーダーチャートを作るのである。一目瞭然に自分の傾向がわかりけっこう楽しい。Step4の「アサーティブネスで用いる権利とは」では,日本人にとって比較的とっつきにくい権利の概念と,アサーティブに関連する9つの権利についてわかりやすく述べられている。Step8の「ロールプレイを行う」では,実際の演技がイラストにしてありとてもわかりやすい。講義を聞いているようにすらすらと頭に入り,楽しくレッスンを受けている間にアサーティブネス度が高まっていく。また,各Stepには「トレーナーへの一言アドバイス」があるため誰でもトレーナーになれる点も重要である。

人を育てる立場にあるすべての人へ

 著者は次の2点を強く意識してトレーニングプログラムを開発している。第1点は院内教育や継続教育の中で簡便に使うことができること,第2点は,どの保健医療福祉施設でも使えるということである。
 私は実際にこのトレーニングプログラムを体験し,その後も看護課長会でトレーニングを進めていった。さらに月1回,事例を持ち寄りロールプレイをすることで,権利の行使やアサーティブな表現,行動について考えた。実際,何回か事例検討をする中で,看護課長たちのアサーティブ・スキルのアップを経験しているので,トレーニングを企画する教育担当者や管理者,そして人間関係上のストレスを軽減させ自尊心を高めたいと思っている多くの看護職に,本書をぜひ勧めたい。
 最後に著者からのメッセージをお伝えしよう。 As nurses let's be assertive!
B5・頁112 定価(本体2,400円+税)医学書院


事故防止に心強い味方となる一冊

ヒヤリ・ハット11,000事例による
エラーマップ完全本

川村治子 著

《書 評》宮本敦史(大阪大学大学院病態制御外科学/前厚生労働省医療安全推進室)

 医療を取り巻く環境は,この数年間で大きく変化してきた。特に,医療事故をめぐっては,多くの事例が報道され,社会の信頼が揺らぎかねない状況に陥っている。
 かつて医療界では,「事故は起こらないもの」,あるいは,「事故は起こした当事者の問題」という意識があった。しかしながら,単に当事者の問題として片づけるのではなく,すべての関係者が共同で問題点の解決に当たる必要があるとの認識が広がりつつある。そのような状況の中,医療機関におけるリスクマネジメントの一環として,ヒヤリ・ハット事例の収集も盛んに行なわれるようになったが,一方で,「事例は集まったが分析が進まない」という声をよく耳にする。

現場に即した分析方法

 事例分析の手法としては,発生頻度などをみる定量的分析と,個々の事例を深く掘り下げて原因を追究する定性的分析が考えられるが,それぞれに一長一短がある。すなわち,定量的分析では全体的な傾向が把握できるかわりに詳細な要因分析ができない,一方,定性的分析のみでは全体が見えてこない。
 本書における11,000事例の分析では,個々の事例を掘り下げたうえで,さらに,それらを類型化することによって全体を鳥瞰することが可能となっており,まさに両者の長所を取り入れたものであると言えよう。この手法によって,全体的な傾向を把握したうえでそれぞれの事象の原因を把握することが可能となっている。特に,発生頻度が高い内服薬・注射薬に関連した事例や転倒・転落に関連した事例に関しては,事例の整理方法から詳細に説明されており,読者が実際の事例を分析していくうえでも大いに参考になるであろう。

すぐに使える事例集

 一般に,事故はいくつかの事象が連鎖し,複数の要因が重なることによって発生すると考えられるため,同じ内容の事例について,各々の要因を分析した結果を集めてみると,どの事例にも共通した要因が見えてくる可能性がある。例えば,「誤嚥」に関する項目をみると,パンによる窒息が多いことが示されている。ある施設においてパンを誤嚥するという事例が発生しても,単にその事例のみではパンが誤嚥の危険性の高い食品であると認識することは困難であるが,多くの事例を収集することによって同様の事例が多数発生していることがわかれば,パンを危険な食品として認識することが可能になる。これが多数の事例を収集・分析することの重要性のひとつである。
 本書では,11,000にも及ぶ事例の分析により,さまざまな場面で発生する事例がパターン化され,どのような要因でどのような事例が発生するかを認識することが可能となっている。さらに,単に要因分析に止まらず,各々の事例に対する対策まで検討されている点が本書の特徴である。現実に即した内容となっており,すぐにでも実際の医療現場での事故防止対策に活用できるものと思われる。
 また,事例の発生場面,発生要因および対策が項目別に整理されており,事故防止対策への活用のみならず,新人職員等への教育用ツールとしての利用価値も高いであろう。

事故予防のために

 個々の医療機関でのヒヤリ・ハット事例の分析は重要であるが,それ自体は問題が発生したことに対するreactiveな対応である。一方,多数の事例の分析に基づいてパターン化された内容を知ることにより,事例が発生する前にproactiveに対応することが可能となる。事故予防の観点からみれば,これは一歩進んだ段階と考えることができる。このようなproactiveな対応,一歩進んだ対応を取るにあたり,本書は大いに参考となるであろう。
A4・頁132 定価(本体2,800円+税)医学書院


質的研究入門に最適の一冊

保健医療職のための質的研究入門
キャロル・ガービッチ 著
上田礼子,上田 敏,今西康子 訳

《書 評》村嶋幸代(東京大学大学院教授・地域看護学)

質的研究を体系的に学ぶために

 訳者代表の上田礼子先生は乳幼児の発達研究の第一人者である。日本版デンバー式発達スクリーニング検査の仕事(翻訳・改訂・標準化)はよく知られており,現在も活用されている。乳幼児の家庭環境評価法の開発という仕事もある。その上田礼子先生と「質的研究」とは直接的には結びつきにくい。しかし「人間の行動とその変容」にかかわる学問としての発達研究には,量的研究の側面と同時に質的研究としての側面があるのであろう。質的研究は量的研究の限界を感じる者にとっては魅力的なアプローチの1つであり,近年特に発展してきた。
 しかし,質的研究をはじめるには,しっかりとした教科書が見当たりにくいのも事実である。とくに体系的に知識を得ることが難しい。また,具体的な研究手法を身につけることも難しい。その意味で,この本は大変参考になる。というのは,「なぜ質的研究が必要か? 質的研究の意味・歴史,質的研究に存在するアプローチの違いとそれらの利用法,妥当性と信頼性,客観性と主観性」など素朴な疑問に答える理論から導入し,質的研究の資料収集,方法論,データの解釈分析,提示の仕方などの実践までを取り扱っているからである。また,引用されている事例は看護並びに保健医療関係の実践でも日々直面する事柄が多く,身近な健康上の問題の解決するに際して質的研究法を利用できることを学ぶことができる。

読みやすい構成でよく理解できる

 本書は4部11章から成り立っており,第1部から第4部まで,通常の研究プロセスの順に論じられている。第1部「理論とデザイン」では,さまざまな理論的・概念的枠組みについて述べ,これらが研究デザインにどうかかわってくるのかを述べている。第2部「データ収集と技法」と第3部「方法論的アプローチ」は,データ収集に用いられる主要な技法や最近開発された技法について検討し,こうした技法を特徴づける方法論的アプローチがますます多様化している点について論じられている。第4部「データの解釈と分析,発表」では,データ収集の段階に入ってからの,データの分析の方法や適切な解釈の仕方について検討されている。また,発表・呈示という最後の重要な課題も取り上げられている。必ずしも順序立てなくても,どの部から読みはじめてもよい。
 翻訳は読みやすく,質的研究の位置づけに戻って基本から学びたい方,すでに保健医療関係職者としてこれらの領域で働いておられる方々に役に立つだろう。また,人間の行動とその変容にかかわる学問,看護学のみならず教育学,心理学,社会学,人類学などの学問領域で学びつつある学生や大学院生にお薦めできる本である。
B5・頁272 定価(本体3,200円+税)医学書院