医学界新聞

 

変化する米国臨床留学制度

2003年日米医学医療交流セミナーの話題から


 さる10月26日,順天堂大学有山記念館において,日米医学医療交流セミナーが開催され,米国臨床留学に関心を持つ医師・医学生ら200人以上が全国から集った。2004年6月からUSMLE,ECFMGのシステム変更が行なわれることもあり,午前午後にわたる長時間のプログラムの中,熱心にメモを取る参加者の姿が数多く見られた。


米国臨床研修に必要な資格に変化

 午前中は第1部「米国臨床研修に必要な準備」と題して,Kaplan Educational Center Japan(以下,KECJ)のスタッフが中心となり,米国臨床研修に何が必要かということについて,実技試験の実演を交えつつ,解説した。
 まず,平間健治氏(KECJ Executive Director)が,2004年6月からの変更点なども踏まえつつ,USMLEなどの米国臨床留学に必要な試験について解説した(記事・図参照)。平間氏は大きな変更点として,(1)TOEFLの受験が不要になったこと,(2)CSAがなくなったかわりにUSMLEのStep2のCK(Clinical knowledge)とCS(Clinical skills)の2つのサブジェクトが設けられ,CSが従来のCSAの機能を果たすこととなったこと,(3)CSAの有効期限が3年から無期限となったこと(2001年6月以降に取得の者も同様に無期限となる)をあげた。ただし,Step1もしくは2合格からECFMG Certificate取得までの期限は従来どおり7年であり,2004年4月16日までは従来のCSA受験が可能であることを補足した。
 続いてCSA(2004年6月からはCS)の実際について,壇上で実演が行なわれた(写真)。実際にCSAを経験した医師が模擬患者を相手に英語で問診。講師の平間氏は,一般的な日本人とは違って次々と自分の希望を訴えてくる患者に対し,何とか診察を続けるべく,英語でコミュニケーションした実演のチェックポイントに触れ,「実際のCSAでここまでうまくできる人はなかなかいないと思うが,米国で臨床に立つことになればこれが日常になる。がんばって学習してほしい」と述べた。

日米医学・医療の良いところ悪いところ

 午後に行なわれたパネルディスカッションでは「日米医学・医療:良いところ悪いところ」と題して,伴信太郎氏(日米医学医療交流財団)の司会のもと,米国臨床研修の経験を持つパネリストたちが個々の体験を披露した。
 まず西元慶治氏(東京海上メディカルサービス)は,米国の医学について「ティーチングが非常に発達した国である」と述べ,学んだことをすぐに後輩に教え,それによって自身も学んでいくといった教育的な習慣が浸透していることは米国の医学教育の非常に優れた点であるとした。
 赤津晴子氏(ピッツバーグ大)は「(大学から米国だったので)日本で医学教育を受けた経験がないために比較はできないが,教育者も学習者も楽しんでいる点が,米国医学教育の特徴であろう」と述べ,日本人にとってそうした環境での体験は非常に貴重なものとなるだろうと語った。
 これを受けた生坂政臣氏(千葉大附属病院)は「アメリカ人は楽しく学ぶ,ということは私も強く感じた」と述べ,米国は教育にエンタテイメントが融合した「エデュテイメント」が浸透した国であると指摘。一方で氏は「医学はともかく,医療については日本が圧倒的に上」と指摘。乳幼児死亡率の低さ,健康到達度,健康平均寿命などのWHOが出す指標で世界1位を達成しているにもかかわらず,対GDPの医療費率は世界18位と,低コストで質の高い医療を実現していることをあげ「医者をやるなら迷わず日本を選ぶ」と述べた。
 続いて伊藤澄信氏(日米医学医療交流財団)は,年功序列の観念の違いに言及。「年長者と若者が,同じ土俵で議論を戦わせなくてはいけないのは,若者には魅力的かもしれないが,年長者にとっては少しつらい。日本のほうがいいなあ,と感じるのが正直なところだった」と述べ,ともかく米国臨床留学ではそうした母国と異なるストレス状況に耐えられるだけの前向きな気持ちが大切だとした。
 星寿和氏(滋賀医大)は,アメリカ医療が高い水準を保っている理由は,アメリカ人がハイレベルであるというよりは,徹底したチェック機構が存在しているからではないかとした。チェック機構が厳しいがゆえに,それだけ医師も勉強を続けていく必要があり,それをパスしていくことによって自信が生じる。そうしたシステムが日本には存在しないと述べた。

卒後すぐの臨床留学は難しい

 パネルディスカッションの後半では会場からは多くの質問が寄せられた。「日本で研修を受けずに直接米国でレジデントに行くという選択肢はありうるか」という質問に対しては,臨床能力の問題などから,ほとんどのパネリストが難色を示した。西元氏は,過去に1人だけ,日本での臨床経験なしに米国臨床留学を希望し,成功した例を紹介しながらも,「前例がないわけではないから,possibilityという意味では“可能”であるといえる。ただし,“probability"という意味では限りなく難しいと考えていいと思う」と述べた。
 また生坂氏は,日本の優れた医療を支えているのは,実は一見不合理に見えるものであり,不合理な部分が有効に機能することによって,よいシステムとなっている部分があるとしたうえで,「医師としての初めての臨床を,アメリカの合理的で透明性の高い医療で体験してしまうと,帰国した時,日本の”不合理な医療”にはとまどいを覚えると思う。将来日本に帰ってくるつもりであれば,まずは日本の医療を経験したほうがよいのではないか」と述べた。
 ディスカッションの最後に司会の伴氏からコメントを求められたパネリストたちは,米国臨床留学について「難しい,ということであきらめるようではだめでしょう。常に自己改革して前に進んでください」(星氏)「行けば少なくとも世界を見る目は変わると思います。チャレンジしてください」(伊藤氏),「一度限りの人生だから,後悔のないようにしてほしい」(赤津氏)など,海外に思いを馳せる参加者にエールを送った。




米国臨床留学の基礎知識


米国臨床留学に必要な資格
 米国での臨床留学にはECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)Certificateという証明書が必要となる。このECFMG取得には米国の医師国家試験にあたるUSMLE(The United States Medical Licensing Examination)合格が必要となるが,2004年6月からは図のように,若干システムが変更されるので注意が必要である。

米国臨床留学への応募の流れ
 米国の研修制度では,今年からわが国でも開始されたマッチングシステムによって研修先が決定される。ECFMGを取得した外国人の臨床留学希望者も,米国人とまったく同じ条件でマッチングに参加することとなる。
 研修希望者はまず希望の研修プログラムを選び,プログラム毎に必要書類を送付する。送付の際には,インターネットを用いて希望施設すべてに一括で送付するERAS(Electronic Residency Application Service)というシステムが用いられる。その後,書類選考が行われた後,合格者には各施設ごとの面接(interview)が行なわれる。
 この段階が終了すると,学生側は自分の行きたいプログラム,施設側は受け入れたい学生に順位をつけたリストを作成し,NRMP(National Residency Matching Program)に送付する。これらのリストをもとにコンピューターが最善の組み合わせを決定し,最終的にそれぞれの研修先が決まることになる。