医学界新聞

 

連載(22)

    新医学教育学入門

教育者中心から  
学習者中心へ
  

クリニカル・クラークシップの考え方(前編)

  
大西弘高 国際医学大学(マレーシア)・医学教育研究室上級講師


(前回2559号

 赤瀬先生は,米国で教官として臨床教育にも携わった経験が豊富であり,創立5年しか経たない私立医療科学大附属病院の院長として米国流のクリニカル・クラークシップを何とか根づかせたいと考えています。黒田先生は,長年有名臨床研修指定病院の総合診療部部長を務めていましたが,このたび医療科学大に新しく設置された医学教育管理室の室長として招かれました。赤瀬先生から黒田先生に与えられた使命は,「日本一,いや世界一のクラークシップを構築すること」です。

カリキュラムの現状調査

 黒田先生は,まず医療科学大のカリキュラムの現状調査を行ないました。それまでクラークシップは5年の9月から6年の7月という期間で行なわれていましたが,時間的に少なすぎるという問題がありそうでした。しかし,医師国家試験が3月に行なわれるため,できれば6年の12月には全カリキュラムを終えてほしいという学生の要望があるとも聞きました。よって,従来のように卒業試験に2か月もかけず,もっと質の高い方法を考えることにしました。
 次いで,黒田先生は4年から5年にかけてのカリキュラムや評価について眺めてみました。4年の2月には共用試験とOSCEがあり,そのための準備教育も必要です。そして,この準備教育が臨床医としての最低限の知識やスキルを身につけられるものであるならば,5年の4月にはクラークシップを開始できると思われました。ただ,基本的な臨床スキル,例えば医療面接や身体診察に対して米国では,1-2年に200-300時間という時間を割いているのに対し,医療科学大では4年のみたった80時間でした。残りの100-200時間を,現状のカリキュラムから抽出しなければならないというのは大きな課題だと思えました。
 さらに,現状のクラークシップの内容について,まずカリキュラムレベルで眺めてみました。クラークシップはコア・クラークシップと言えるような内容が定まっておらず,第1-第4内科も,眼科や脳神経外科も,同じように2週間ずつの実習をしていました。2週間では,各病棟の看護師の顔,動きを十分つかめませんし,研修医から教えてもらうにも,カンファレンスや回診の時間帯を予測して効率的に動くこともできません。最初の実習はできれば,同じ場所に3か月ほど動かずに滞在できるようにすべきと感じました。
 クラークシップ中の学生を観察し,意見を聞いてみると,学生は研修医が担当している患者を診ており,自分の聞いた病歴や診察して得た所見を患者の問題解決に結びつけていく必要は感じていないようでした。また,研修医も自分たちが臨床経験を積んで学習したいという気持ちが強いため,学生に学習機会を回すような余裕はないと思われました。現状では,医学生の臨床実習で,どの医行為が許されるか否かといった議論の必要性は低そうです。

実施を踏まえた枠組みづくり

 黒田先生は,まず,卒業試験期間を減らす方針とし,MCQ(Multiple choice questions)3日間,OSCE1日間,6年の臨床実習時にまとめたポートフォリオの内容について口頭で質問する評価3日間とし,準備を含めて年明けの2週間で済ませることにしました。
 5年の実習期間を計算すると,2004年の場合4月5日から7月23日で16週です。クラークシップを「実際に患者を受け持つ実習」と位置づけると,実習期間が休みをまたがないほうがよく,この16週を1ブロックとしました。夏休みは卒後研修先を選ぶ期間として従来よりも重要となったため,6週間きちんと休み,9月6日から新たな16週の実習がはじまり12月24日で終了します。この2回にわたる16週の実習は6年でも同じ時期にあり,大学病院では内科,外科,産婦人科で6年生が5年生をリードして働くことになります(図)。ただ,6年生は半数のみが大学病院以外の病院ローテーションとなるため,大学病院での5年生と6年生の人数比率は2:1です。

 1月10日からの8週間は,4週間がプライマリ・ケア(診療所)医への派遣,4週間は4年生の臨床技能(clinical skill)指導や4年,6年のOSCEの手伝い(有給)か,院外,海外などでの実習が可能です。6年次に,よりcommon diseaseを多く診ることができる一般病院を計16週実習します。6年では皮膚科,眼科,放射線科,麻酔科から,2つの専門科を選択して実習します。6年時の大学病院実習では週1回夜間当直も担当し,救急部の担当医や各科の当直医が指導,バックアップをします。6年では4週間研究プロジェクト期間も設けられ,5年の2月末までに希望の指導教官を選び,12000字程度の学士論文を執筆します。