医学界新聞

 

がん治療ガイドライン作成へ

第41回日本癌治療学会開催




 さる10月22-24日の3日間にわたり,第41回日本癌治療学会が,工藤隆一会長(札幌医大)のもと,札幌市の札幌コンベンションセンターにおいて開催された。  現在,日本癌治療学会では「臨床腫瘍データベース委員会」を設置,癌治療の標準化を目的とした治療ガイドラインや重要文献データベースの作成を行なっている。23日のシンポジウム「本邦におけるデータベースの在り方と問題点-日本癌治療学会が目指すもの」(座長=佐治重豊氏・岐阜大名誉教授,佐々木常雄氏・都立駒込病院)では,データベース作成の課題と今後について各シンポジストが提言を行なった。


ガイドライン作成のポイント

 最初に平田公一氏(日本癌治療学会臨床腫瘍データベース委員会)は,基調講演として臨床腫瘍データベース委員会の活動を紹介,ガイドライン作成の方針について「われわれが学会主導型で行政と協力し合い,社会情勢なども考慮したうえで,国民へ提供していく」と述べた。
 福井次矢氏(京大)はガイドライン評価のポイントとして「どれくらいガイドラインにのっとった診療が行なわれるのか」,「患者アウトカムがどの程度改善するのか」をあげた。また,わが国においてエビデンスレベルの高い臨床研究が少なく,EBMの普及や研究者の育成といった研究環境の醸成が必要であると強調した。
 続いて佐伯俊昭氏(国立病院四国がんセンター)は,海外のガイドラインを参考にする際には臨床試験のエビデンス,医療行政,専門医不足などの日本の実地医療の現状を考慮する必要があることを指摘。乳がんのガイドライン作成に関して「乳がん化学療法の専門医の間ではすでに海外のレジメン,至適用量に近い形で治療が行なわれており,薬物療法に関する項だけでも早く作成する必要がある」と述べた。

抗がん剤の適正使用

 続いて登壇した有吉寛氏(県立愛知病院)ならびに後藤伸之氏(福井医大)は抗がん剤適正使用ガイドライン,また臨床腫瘍データベース委員会に設置された医薬品プロフィール分科会について講演を行なった。
 有吉氏は抗がん剤適正使用ガイドラインが必要となる背景について,がん化学療法は専門性が必要であるにもかかわらず,日本では臨床腫瘍学の専門教育がなく,抗がん剤は誰でも使用できる現状にあることを指摘した。
 さらに,ガイドラインで標準的治療とされる抗がん剤が保険医療では使用できない場合があること,わが国での抗がん剤使用実態は極めて多様性が強く,ガイドラインに使用量や投与方法の記載が難しいことをあげ,データベース化にあたっては米国のNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のあり方を参考にすべきであると提言した。
 後藤氏は,抗ウイルス剤のソリブジンと5-FU系抗がん剤の併用による副作用で患者が死亡した事例を紹介,医薬品情報が正確に伝わっていない可能性を指摘した。
 そして,「医師だけでなく,がん治療に携わる多くの医療従事者に活用される情報提供をめざす」ことを医薬品プロフィール分科会の目的とし,「現在も新しい治療法に関する臨床研究の数は多く,医薬品添付文書の改訂もたびたび行なわれている。情報を効率よく更新していくシステム構築を考える必要がある」と述べた。

治療ガイドラインのあり方

 笹子三津留氏(国立がんセンター中央病院)は,「すでに各学会のがん治療ガイドラインがいくつか発表され,厚生労働省でもガイドライン作成を目的とした研究組織を作っている。多くのガイドラインができてしまうと,現場の臨床医だけでなく患者も混乱する可能性がある」と指摘した。
 そして,そのために「既存のガイドラインがある分野ではガイドラインを作成しない」,「日本語の構造化抄録を付けた論文リストをsystematic reviewの形式にまとめ,内容に整合性をもたせる」ことをあげた。
 最後に「特別発言」として登壇した日本癌治療学会理事長の北島正樹氏(慶大)は,「近年,がん医療の分野においてもEBMの概念に基づいた治療の体系化が各臓器別に進んでいる。本学会としては各がん関連学会と協力して治療ガイドライン,重要文献を集積し,より信頼性の高い医療情報を学会,医師,国民に向けて発信することが責務である」と締めくくった。