医学界新聞

 

分子標的治療薬の効果を予測

第62回日本癌学会フォーラムの話題より


遺伝子発現の違いがカギ

 遺伝子解析技術の進歩により多面的ながんの分子機構が解明されつつある中で,遺伝子診断や分子標的治療薬への期待が高まっている。さる9月26日に名古屋市の名古屋国際会議場において行なわれた講演では,中村祐輔氏(東大)が「ゲノム研究からがんの診断・治療へ」と題し,臨床に迫りつつあるゲノム研究の成果を報告した。
 氏はまず「正常細胞とがん細胞での遺伝子発現を比較することによって,がん細胞に特異的に発現している遺伝子がわかり,抗がん剤感受性予測法,および分子標的治療薬やペプチドワクチンの開発が可能になる」と述べ,現在行なっている抗がん剤や抗体薬開発のための分子標的候補の同定について説明した。また,「すでに20種類以上の候補が見つかっており,ペプチドワクチンにおいても臨床研究を開始する段階まできている」とし,臨床応用への可能性を示唆した。

新しい抗がん剤使用の形

 さらに,患者個別的に抗がん剤の効果を予測できる感受性予測法について「抗がん剤が効く患者と効かない患者での,がん組織における遺伝子発現の違いを解析し,遺伝子発現プロファイルを作成した」と述べ,実際に,分子標的治療薬「グリベック」の効果が異なる慢性骨髄性白血病(CML)の患者から79の遺伝子において発現パターンの違いが確認されたことを報告した。そして,それらの中から有意性の高いものを絞ることで,グリベックの効果を予測するシステムを開発したという。
 氏は「グリベックの場合,比較的患者を問わず有効性が高いため,このようなシステムに対して疑問を持つかもしれないが,抗がん剤の感受性予測法を確立することは今後,他の抗がん剤の使用において意義がある」と述べ,すでに膀胱がんにおけるM-VAC(4剤併用治療),また肺がんにおけるイレッサの有効性を予測するシステムの開発もすすんでいることを報告した。
 質疑応答では,会場からは「イレッサの副作用を予測することができるのか」という質問があり,これに対して氏は「これはあくまでがん細胞にその抗がん剤が効くのかを予測するものであって,副作用に関してはSNP解析をしないとわからない。しかし,この両者を併用することによって,より理想的なかたちで患者に抗がん剤を提供できるだろう」と答えた。
 最後に氏は「ゲノムというのは非常に多くの情報を提供してくれる。それをもとにいろいろな角度から診断・治療に応用する研究が広がりつつある」とし,講演をまとめた。