医学界新聞

 

消化器領域の展望を語る

DDW-Japan2003開催される


 第11回日本消化器関連学会週間(DDW-Japan2003)が中澤三郎議長,寺野彰運営委員長(獨協大)のもと,さる10月15-18日の4日間にわたって大阪市の大阪国際会議場,他において開催され,第45回日本消化器病学会(会長=寺野彰氏),第66回日本消化器内視鏡学会(会長=日大 荒川泰行氏),第7回日本肝臓学会(会長=愛知医大 各務伸一氏),第41回日本消化器集団検診学会(会長=朝日大村上記念病院井田和徳氏),第34回日本消化吸収学会(駿河台日大病院 岩崎有良氏)の5学会が一堂に会した。  各領域の最新知見を集めた各学会の合同シンポジウムやコンセンサスミーティングの他,偉大な業績を遺した先人を記念したDDW特別企画「世界に誇る,日本の癌病理学者 山極勝三郎生誕140周年&吉田富三生誕100周年記念シンポジウム」や,来年度から必修化される臨床研修を取り上げた医療研修会「卒後臨床研修必修化の理念と対応」といったプログラムも組まれ,関心を集めた。


H. pylori 除菌療法の新展開

保険認可から3年

 H. pylori (以下,HP)除菌の保険認可から3年が経過した。消化器病学会,消化器内視鏡学会,消化器集団検診学会の合同シンポジウム「H. pylori 除菌療法の総括と新しい展開-適応・診断・治療」(司会=大分医大 藤岡利生氏,北大 浅香正博氏)では,2002年に作成され,保険認可に大きな役割を果たした日本ヘリコバクター学会によるHP診断と治療のガイドラインが,同学会ガイドライン作成委員会(委員長=浅香正博氏)によって本(2003)年2月に改定されたことを受け,新ガイドラインをベースとした議論がなされた。
 まず登壇した菅野健太郎氏(自治医大)は,主にHP除菌の適応拡大について発言。エビデンスに基づき,必ずしも保険に縛られずに適応を考える必要があるとした新ガイドラインでは,HP除菌が勧められる疾患(A=胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃MALTリンパ腫),HP除菌が望ましい疾患(B=早期胃がんに対する内視鏡的粘膜切除術後胃,萎縮性胃炎,胃過形成性ポリープ),HP除菌の意義が検討されている疾患(C=逆流性食道炎,他)の3段階を設けたと説明した。従来,適応が明確にされてこなかった疾患についても除菌を推奨する方向になったことになる。これらの除菌適応疾患はHP胃炎を有していることを踏まえ,氏は「HP胃炎を感染症として治療できること」を今後のHP除菌適応拡大の目標としてあげた。
 また,中村常哉氏(愛知県がんセンター病院)は,胃MALTリンパ腫において染色体転座によって生ずるキメラ遺伝子の有無と除菌に対する反応性によって,胃MALTリンパ腫は3群に分けられると報告。今後は遺伝子転座がなく,かつ除菌に不応である群についての遺伝子異常の解明が課題であるとした。
 鎌田智有氏(川崎医大)は,若年HP感染者について言及。若年者のHP感染例は減ってきているものの,HP陽性者では加齢とともに萎縮性胃炎が増えるとの観点から,若年者のHP陽性例に対しては,症状の有無にかかわらず除菌を行なうべきと提言した。
 福田能啓氏(兵庫医大),樋口和秀氏(阪市大),加藤元嗣氏(北大)はそれぞれ,HP感染診断法の問題点と対策について提言。この中で福田氏は,尿素呼気試験(UBT)について,CO2濃度が低いと赤外分光計と質量分析計の測定値に誤差が生じることから,10秒間息を止めて呼気をとることによりCO2濃度を上げることや,口腔内ウレアーゼ産生菌の影響を避けるために尿素服用後のうがいを行なうことの他,尿素錠剤の服用,経鼻的呼気採取といった対策の方法を示した。また,プロトンポンプ阻害剤投与時に生じる可能性のある偽陰性への対策として,便中HP抗原測定の効果を指摘した。

除菌療法の問題点

 村上和成氏(大分医大),間部克裕氏(山形県立中央病院),金井昌代氏(福井赤十字病院),古田隆久氏(浜松医大)は,HP除菌療法の現状と問題点について発言。この中で村上氏は除菌治療の副作用について,下痢,味覚異常,口内炎,皮疹の他,まれに出血性腸炎,咽頭浮腫などといった重篤なものもあると指摘した。また,HPのクラリスロマイシン(CAM)耐性株への対策が課題になると述べ,現在HPの薬剤耐性の現状を把握するためのサーベイランスが進行中であるとした。現在推奨されているHPの一次除菌法は,プロトンポンプ阻害剤(PPI)にCAMとアモキシシリン(AMPC)の3剤を併用する方法であり,これにより約80%の除菌が可能とされているが,CAM耐性菌感染例では除菌効率が著明に下がることが明らかにされているという。この現状から,除菌失敗例に対しての二次除菌法としては,PPI,抗原虫薬であるメトロニダゾール(MNZ),AMPCの3剤によるものが効果的とされているが,MNZが抗原虫薬であることや,発がん作用の報告があることが問題になっていると説明した。この問題について,司会の藤岡氏は,MNZの有効性を示しながら一次除菌に使用する抗菌薬のガイドラインをCAMからMNZに変えて作成していく考えを示した。

■これからの医療リスクマネジメント

先端医療には学会主導で対応

 弁護士としての一面も持つ寺野彰氏による消化器病学会長講演「消化器領域のリスクマネジメント」では,医療の現状を踏まえた提言がなされた。
 先端医療の急速な進展が見られる現在の学会のあり方について,先の慈恵医大における内視鏡手術を例に問題点を指摘したうえで,(1)知識のみならず技術も含めた真の専門医制度の確立,(2)患者の安全確保に関するカリキュラムを開発し,研修と資格認定の用件に組み入れる,(3)認定指導施設制度の厳格化,(4)先端技術については施行できる施設や医師を限定すべき,の4点について提言。特に先端医療については,学会主導のトレーニングシステムの構築が求められるとした。
 また,医療事故については,「事故は個人の問題ではなく,システムの問題」と指摘したうえで,(1)制裁を伴わない事故報告制度の構築,(2)重大かつ悪質な事故に対しては,国民の納得する厳正な処置をとる,(3)安全面に問題ある医療従事者を発見し,処置を講ずる方法の開発,医療事故の刑事化には慎重に対処,の4点を提言した。また,医師免許更新制度,医師や医療施設に対する段階的な免許システム,国家的無過失賠償責任制度の導入,といった新しいシステムの必要性についても言及した。加えて,ロースクールの開設による法曹人口の急激な増加が医療事故の将来のあり方に影響を与える可能性があることも示唆した。
 最後に寺野氏は今後の医療の展望について「“For the Patient”を医療サイドから」という言葉にまとめ,講演を締めくくった。