医学界新聞

 

国の権限,検疫対策を強化――感染症法改正される

厚労省担当課長が学会で講演




 さる10月10日,感染症法および検疫法の改正案が参議院本会議において可決,成立した。改正法は11月上旬に施行されることになる。同日より開催されていた第44回日本熱帯医学会・第18回日本国際保健医療学会合同大会において教育講演を行なった牛尾光宏氏(厚労省健康局結核感染症課長)が,講演の中で改正感染症法について発言した。以下にその概要を報告する。

感染症対策における国の権限強化

 感染症対策は基本的に都道府県が主体となって行なうが,緊急の事態に際しては,国も積極的疫学調査を行なうことができるようになった。都道府県が策定する予防計画についても,緊急時にはより具体的な行動計画の策定を国が指示できる。また,これまで規定のなかった,広域にわたる感染の恐れがある場合の自治体間の調整も,国が行なえることになる。懸念されている第1種感染症指定医療機関の確保については,現段階では29の都道府県について整備される予定になっているが,残る都道府県については今後の整備に向け,国がより強力な指導を行なうことになる。

感染症法対象疾患の拡大

 感染症法の対象疾患としては新たに1類に天然痘,SARSが指定された他,A型肝炎,E型肝炎,トリ型インフルエンザ,サル痘,ニパウィルス感染症,レプトスピラ症,VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)感染症,RSウィルス感染症などが追加された。類型にも新たに4類感染症(消毒,ねずみ等の駆除,物件にかかわる措置,媒介動物の輸入規制が可能),5類感染症(発生動向のみ調査)が設置された。なお,今回1類に分類されたSARSについては,医学的知見に基づいて今後2年ごとに分類を見直すとしている。

検疫体制の強化と動物由来感染症対策

 検疫所における医師の診察や検査の対象疾患を1類感染症,コレラ,黄熱以外にも拡大。また,SARSの感染が疑われる者に限って入国後に一定期間,健康状態の報告を義務づけることとされた。出国時検疫については,現時点では感染が発覚しても出国を制限する措置をとるのは難しいとして,引き続き検討を要するとされた。
 また,多くの新興感染症が含まれる動物由来感染症対策については,動物の輸入に際して,輸出国側政府による,感染症に罹患していないことを示す証明書の添付と,輸入する数の報告も義務付けられる。

 この他,感染症にかかわる人材育成について氏は,直接法改正につながるものではないとしながら,より多くの人材育成のためには,文部科学省その他の行政機関の協力や,予算の措置も不可欠と発言。さらに国立感染症研究所に設置されている,FETP(Field Epidemiology Training Program=実地疫学専門家養成プログラム)を,感染症アウトブレイク時に迅速に実態把握や原因究明にあたり,平常時にも質の高い感染症サーベイランス体制の維持・改善に貢献できる専門家を養成していると紹介し,より多くの人材がこうした専門的な場において教育されることを望む考えを示した。