医学界新聞

 

グループワークを看護に活かす

第128回医学書院看護学セミナーより




 さる8月7日,金沢市のMROホールにおいて医学書院看護学セミナーが開催された。128回目を迎える今回は,武井麻子氏(日赤看護大)が「看護とグループ」と題し,臨床および教育の場で行なわれる看護のグループワークについて講演を行なった。

“治療共同体”

 氏は著書『感情と看護』(医学書院)などを通じて,看護における感情の重要性を強調しているが,その背景には精神病院でのグループワークの体験があったという。
 氏の勤務していた精神病院では,医師の指導により治療共同体という試みが行なわれていた。これは生活や治療上の問題が生じた際に,関係する医師や看護師といった医療スタッフと患者が同じ立場で互いの意見を述べ合うというもの。
 こうした臨床現場における問題解決を目的としたグループワークについて,氏は「一方的に医療者に依存するのではなく,患者が自分自身に責任を持って治療に取り組むきっかけになる」と述べ,食事や清掃といった病院内の環境改善,患者同士あるいは患者とスタッフ間におけるトラブルの解決に効果があったと述べた。

結果よりも過程を

 一方,教育の目的で行なうグループワークにおいては,発表するのがうまいだけの学生が評価されてしまいがちなことに触れ,「発表だけを評価するようではグループワークをしたことにならない。成果ではなく,そこに至るまでにどんなプロセスがあったのか,どんな人間関係があったのかを見なければならない」と指摘した。
 また,「グループワークの際に自分の感情について話したところ,教官から『発表の場に個人的な問題を持ち出さないように』と注意を受けた」という学生の話を紹介し,教員の側が学生の感情的な問題をあまり重視しない傾向があることについて「感情は知性に先行する。感情について聞くことが実習には必要で,知的理解のうえでも多いに役立つ」と強調した。

自然なやり取りが大事

 最後に氏はグループワークのあり方について,「みんなが活発に意見交換をし合い,盛り上がるグループワークが“よいグループワーク”と思われがちだが,意図して盛り上げようとするのは間違い」と指摘した。
 そして,「よく“ポジティブフィードバックをしたほうがよい”と言われるが,これは本来『変化を促進する』という意味で,単に拍手したり誉めたりすることではない。ネガティブな発言をしてもいいと思う。時には拍手し,時には異議を申し立てる。そういったことがグループの中で自然なやりとりを生み出すことにつながる」と述べ,「グループワークの場では,自分の思ったことが率直に言えるのが大前提で,発言内容に関して,後でとがめられるようなことがない環境を作らなければならない」と結んだ。