医学界新聞

 

〔特別寄稿〕

「透析療法指導看護師」制度発足

新制度の狙いと,透析看護の今後について

宇田 有希(医療法人眞仁会顧問・日本腎不全看護学会理事長) 


はじめに

 1960年代にはじまった透析療法は,末期腎不全患者の治療法として定着し,延命はもとより患者の生活の質向上に貢献してきた。わが国の透析患者の生存率は世界的水準に達しているといわれるが,2003年4月に医療費が改定されたことにより,透析医療のこれまで誇ってきた高い治療レベルを維持できるかどうかが危惧されている。
 透析療法が今日のような著しい発展を遂げた背景には,黎明期から多くの看護師がこの治療を高度な専門知識と技術の習得が必要な分野として捉え,技術的側面,患者教育やスタッフ教育,精神的側面からの患者支援,合併症への対応など,手探りで試行錯誤しつつこの医療を支えてきた紛れもない事実がある。しかしながら,人工腎臓によって生きるということは,人工臓器としての不完全さがもたらすさまざまな合併症を克服できないまま生活するということであり,長期維持透析患者にとっては,心身ともに辛い日々を強いられる状況が今も続いている。
 看護の専門分化が進み,透析看護が資格制度として公的に認定されるようになった現在,患者の生命の安全・安寧を守り,良質の看護サービスが提供できるよう,全国の透析施設に,新制度によって認定された専門看護師が存在することをめざさなければならない。

認定制度発足の目的

 透析看護を取り巻く社会状況として,高齢者の増加,経済の低迷,医療費の削減など,医療に対するニーズは増える一方であるにもかかわらず,活用できる資源は増えていないという現実がある。これらを通して考えられることは,有能な人材,すなわち専門性を持った「できる看護師」が求められている時代だということであろう。
 いまや透析患者は23万人に達しようとしている。しかしながら,透析医療のこれまでの道程には人工臓器を用いた先端技術に対する偏見と差別によるさまざまな障害があった。中でも,医療スタッフの育成の問題は最も大きな障害の1つだったといえる。
 生涯を器械・器具・装置に依拠して生きる患者のケアには,看護師の主体性と継続性が不可欠であるにもかかわらず,ローテーションによってケアの継続性が断たれる場合が多く,患者に不安と危機感を抱かせる結果となっている。失われた信頼関係を再構築するための新たなエネルギー,多忙な業務に割かれる現任教育のロスタイム,モチベーションの低下がもたらすスタッフの仕事への不満など,目に見えない経済的な損失は計りしれないものがあろう。
 このように問題が山積する状況を改善すべく,日本腎不全看護学会は,「透析療法指導看護師」認定の目的を次のように表現している。「目的:透析療法の臨床看護の質向上に主体的に取り組める看護師の育成を通して透析看護の充実を目指す」。

透析療法指導看護師に期待される能力

 日本看護協会に認定看護分野特定申請書を提出するにあたり,透析室に働く看護師および透析患者を対象にニーズ調査を行なった。ここでは透析患者が認定看護師に期待する役割についての調査結果を述べる。対象は全国腎臓病連絡協議会の役員ほか100名(複数回答)である。回答の多い順にあげると,
1)専門知識の提供22.1%
2)合併症の予防とケア19.7%
3)安全管理16.6%
4)カウンセリング機能11.4%
5)自己管理支援11.0%
6)特殊技術の提供10.7%
7)家族支援3.8%
となっていた。
 日本腎不全看護学会ではこの期待に応えるよう,透析療法指導看護師に期待される能力として,次の5項目を掲げている。

1)透析療法において個別的ケアの実践と評価ができる
2)腎不全療法に関する知識と技術を知り,安全で安楽な治療環境を提供できる
3)患者の長期療養生活を効果的に支援できる
4)実践的モデルを示すことによって,医療チームに対して指導ができる
5)職場の臨床看護の質向上に主体的に取り組める

おわりに

 この制度において重要な点は,5年後の更新時に学会参加などで交付される認定点数「70ポイント」を必要としていることである。現在のように配置交代が頻繁に行なわれる事態が続く場合には,継続することすら危ぶまれるのに,こうした更新時のハードルがあると資格を維持するのはとても困難ではないかとよく質問を受ける。
 しかしまさに主体性が問われるのはその時である。ローテーションによって交代されれば,関心も示さず興味も失って当然という職場環境が問題ともされない現状があるが,「資格取得」とは,取得した瞬間から本当の意味での責任を持った専門職者としての出発点に立つのだということを忘れてはならない。

日本腎不全看護学会・日本透析医学会・日本腎臓学会(3学会)認定

日本透析療法指導看護師認定試験のお知らせ

 日本腎不全看護学会は,透析看護現場における看護ケアの質の向上を図ることを目的とし,熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護実践のできる透析療法指導看護師を養成するために,2003年度より「日本透析療法指導看護師」認定制度を導入する。
 日本腎不全看護学会は毎年1回,日本透析療法指導看護師認定試験を行ない,合格者に日本透析療法指導看護師として3学会合同で認定証を交付する。認定証の有効期間は交付の日から5年とし,更新制度とする。
 なお受験資格・更新制度の詳細は日本腎不全看護学会のホームページ
http://www11.ocn.ne.jp/~jann1/)を参照のこと。

●受験資格
1)日本国の看護師の免許を有すること。
2)日本腎不全看護学会正会員歴が通算3年以上あること。
 ※第1回受験者については,平成10年度-平成13年度入会者で,平成15年度までの年会費納入の済んでいる会員
3)腎不全看護領域実務経験が通算3年以上あること。
4)看護実務経験が通算5年以上あること。
 ※腎不全看護領域実務経験 3年以上を含む
5)透析看護領域(血液透析・腹膜透析)実践報告を3例提出すること。
 ※導入期看護・維持期看護・長期透析看護・高齢者看護・在宅看護から3例選択
6)受験資格ポイントが30ポイント以上取得できていること。
●ポイント配分
・3学会学会参加5ポイント
 筆頭発表者3ポイント
 共同研究者1ポイント
 学会誌論文掲載筆頭研究者5ポイント
 共同研究者2ポイント
・日本腎不全看護学会教育セミナー1講座1ポイント
・透析技術認定士3ポイント
・透析医療従事者研修受講終了者2ポイント
・その他の透析関連研究会(地方の研究会を含む)
 参加・発表・論文掲載各1ポイント
●第1回試験実施予定
日時:平成16年(2004年)1月18日(日)
場所:千里ライフサイエンスセンター(大阪・豊中市)
   上大岡ウィリング横浜(横浜市)
問合せ先:日本腎不全看護学会 TEL:045-253-1532