医学界新聞

 

〔寄稿〕

自殺防止に向けた日本医師会の取り組み

西島英利(日本医師会常任理事)


 1999年の精神保健福祉法の改正にあたり,5月19日に開催された衆議院厚生委員会において日本医師会を代表して参考人陳述をした私は,1997年の自殺者が約2万4000人(1998年度警察白書)に達していることを踏まえて,うつ病治療の重要性をはじめとした自殺防止に向けての対策の必要性を指摘した。
 日本医師会では,世界保健機関(WHO)の2001年のテーマ・標語が,「精神保健:相互理解を深めよう みんなで一緒にケアしよう」であったことから,世界保健デーである4月7日に,市民公開講座「こころの健康 21世紀の課題」を開催するなど,こころの健康問題を正しく理解してもらうよう普及啓発に努めてきた。
 1998年に約3万2000人と急増した自殺者は,2002年においても,ほぼ同数であり,5年連続で3万人を超えている。厚生労働省もやっと重い腰を上げ,2002年12月には,「自殺防止対策有識者懇談会」の提言がとりまとめられ,最近では,「地域におけるうつ対策検討会」を設置して検討を開始したが,自殺防止対策への取り組みは,まだ十分ではない。
 このような状況を踏まえて,日本医師会では,「一般医療機関における自殺防止マニュアル うつ状態,うつ病の早期発見とその対応」の作成に着手している。来年2月には,約16万人の会員と卒業する医学生に配付する予定である。自殺の原因は,統計上,健康問題,経済・生活問題,家庭問題等が上位を占めているが,その多くは,こころの健康問題を抱えていたと言われている。自殺の防止には,うつ病を中心とした,こころの病気の予防,治療が必要である。こころの健康問題を抱えると身体症状が出ることが多いため,まずかかりつけ医を受診することが多い。したがって,マニュアルでは,(1)うつ状態,うつ病の早期発見の必要性,(2)うつ病とはどんな病気なのか,(3)うつ病の治療,(4)専門医へ紹介するタイミング,(5)自殺企図があった時の具体的な対応等を盛り込む予定にしている。
 また,2004年度の日本医師会の社会保険指導者講習会のテーマを,「精神障害の臨床」として,精神障害の科学的アプローチの到達点,精神症状の捉らえ方の基本の理解,精神疾患に対する正しい初期的対応と治療法の実際,デイケアなどの社会復帰や地域支援態勢の理解などを主眼としたテキストを作成中である。医師への啓発に全力をあげるつもりである。
 うつ病自殺の心理で,重要なのは孤立である。家族内人間関係をはじめとした人間関係を健全に保つことが必要であるが,今後は,一人ひとりの国民が孤立しない社会ネットワークづくりに向けて取り組まなければならないと考えている。