医学界新聞

 

Vol.18 No.7 for Students & Residents

医学生・研修医版 2003. Sep

〔特集〕「家庭医」という選択



 「あなたはどんな医師になりたいですか?」こんな質問に「家庭医になりたい」と答える医学生が増えている。毎年夏に日本家庭医療学会の学生・研修医部会が開催する「家庭医療学夏期セミナー」にも,ここ数年は定員の150名を大きく超える医学生・研修医の参加応募があり,主催者らはうれしい悲鳴を上げている。
 ところが,日本の医師養成は各専門領域を持つ医局講座を中心として行なわれてきたという歴史・背景もあり,「病気や臓器の専門家」ではなく,「患者1人ひとりを継続して丸ごとみる専門家」である家庭医のあり方に確立されたものがあるとはいえない。また,その養成をどう行なっていくかという議論もむしろこれからだといえる。「家庭医になりたい」と思っても,「どうしたらいいの?」と思う学生や研修医も少なくない。
 そこで,本紙では「家庭医」という選択について注目。「今後,家庭医療はどうなるのか?」,「家庭医をめざすとは,どういうことか?」をテーマの中心に据え,特集を組んでみた。


家庭医療学夏期セミナー

 さる8月9-11日の3日間,長野県の長野県社会福祉総合センター他で,医学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナーが開催された。参加者は医学生・研修医が150名,講師役や学生との交流のために訪れた医師らも50人以上にのぼった。本セミナーの大きな特徴は,全国の医学部から集まった学生スタッフたちが,企画から運営までを担当すること。したがって,3日間にわたって組まれるプログラムも,学生・研修医本位の魅力的な企画が並ぶ。
 本セミナーは,家庭医として活躍する先輩医師たちに,家庭医療の実際や家庭医人生について直接会って話をすることができる貴重な機会であり,毎晩懇親会も開かれるなど,家庭医療に関心を持つ学生が情報の収集や交換を行なうには最適の場だ。

2年後の不安

 「今後,どう研修を行なっていったらよいのか」そんな悩みを持つ学生を今年のセミナーではよく見かけた。来年から初期研修が必修化されるが,むしろ悩みの中心は,「初期研修が終わった後に,どうしたらよいか?」というあたりに集中している点が興味深い。
 「家庭医になりたい,と思っていても,初期研修が終わり,後期研修に入る時に,その受け皿になるようなプログラムは少ないのではないか?」,「どうしたら,その時自分は採用してもらえるのだろうか」そんな声が聞こえてきた。
 最終日に開かれた,あるセッションでは,そのような学生たちの不安に先輩医師たちが答えた。
 同セミナーをサポートしてきた前野哲博氏(筑波大)は「間違いなく家庭医のニーズは拡大していく。今は初期研修の改革に目が奪われがちだが,家庭医を養成する後期研修にも間違いなく追い風が吹いていくことだろう。モチベーションさえなくさなければ受け皿の心配はいらない」と力説した。また,三瀬順一氏(自治医大)は家庭医をめざす以上,「どんな研修をやりたいかも大切だが,患者・住民の真のニーズに合った研修を行なう必要があるわけで,それを考えることも大切だ」と問題提起をした。
 一方,後期研修などを行なう若手の医師からは,「どんな経験をしても家庭医の仕事には役立つ」(亀田総合病院 田頭弘子氏),「口を開けて待っている研修ではなく,自ら考え,自分のためのオーダーメイドの研修をつくることもできる。医師の人生は長い」(船橋二和病院 松岡角英氏)などの意見が出た他,フロアから「2年後のことを考えて研修先を決める必要はない。2年後には,その時やりたいことを大事にすればいい」との声も出て,あまり焦らないように学生たちに助言していた。