医学界新聞

 

〔井戸端会議〕 看護学生が語る先生のこと,将来のこと

「親にも話したくなる授業です」


――「解剖学の授業は学生が興味を持たない」とよく言われるのですが,上野先生の授業は非常におもしろくて学生にも人気がある。なぜでしょう。
学生 まずは先生の人柄だと思います。
学生 そう,温かさを感じる。
上野 近づくと触っちゃうからな(一同笑)。
学生 (真面目に答えて)先生は,次の世代の人たちにいろんな呼びかけをしているのが魅力だと思います。
上野 単に解剖学の講義だけではなくて,ぼくの人生観を伝えて,看護師はこうでなければいけないという哲学を教えるようにしている。それが教育だと思うね。
学生 キャリアを持っていらっしゃるから,私たちが聞いても説得力もあります。
学生 解剖学の授業が楽しくなって,親にも授業で習ったことを教えています。(他の学生も「話したくなる授業だよね」と一様に同調)。
上野 それはいいことだね。自分が得た知識を人に伝える場合は,自分が理解していないとできないから。
学生 先生のおかげで,自分がきちんとした知識を得て,患者さんに伝えられるナースになりたいと思いました。

「ぐっと来た」話の数々

――授業のなかで印象的な話は,どのようなものがありましたか?
学生 死んで脳が飛び出してしまっている赤ちゃんでも,お母さんは「もう一度ママと言って」と,ずっと抱きしめているという話を聞いた時に,親子ってすごいなあと思いました。
上野 医学的に脳心肺の機能が止まっても,人類にとって死とは必ずしも言えない。私たち(医療職)は,死とは何かというのを1人ひとりが考えて患者に接しないといけない。医療は商売ではないのです。「医は仁術なり」と言われるように,真心が伝わらないと,本当の医療とは言えない。
学生 あの話を聞いて,脳死と臓器移植についても考えるきっかけになりました。
学生 私は,「ためらい傷」の話が印象的でした。自殺死体のスライドの時に,「自殺する人は必ずためらう。だからこうして,ためらい傷(自傷行為,リスト・カッティング)ができる。その時に親身になって相談できる人がいれば,この人は死ななかった」という先生の言葉,あれはぐっと来た。
上野 それは,看護の心だね。
学生 私は,「メッタ刺しの犯人は残忍な性格だとマスコミでは言われるけど,本当はそうじゃない」と聞いた時,第一印象で人を判断しちゃいけないと思いました。
上野 中途半端な傷だと起きあがってくるから何回も刺さないと安心できない。結果として惨殺になるけど,むごい性格ではないんだというモノの見方ね。

教科書といっしょに知識まで閉じない

――授業を見学して,とてもメリハリがあると感じました。
上野 講義が終わった時に,知識まで教科書の中に閉じたら駄目なんだよ。知識を自分のものにしないといけない。
学生 先生は口癖のようにそうおっしゃいますね。先生が身ぶり手ぶりも使って一生懸命授業してくれるから,授業中は教科書を読む暇もないほどになる。だから,自然と教科書から飛び出して学習するようになりました。
学生 先生が私たちをあてて質問に答える。すると,自分たちが答えを導き出している感じがする。
学生 そう,口に出すと確実に覚える。
学生 すごく頭を使ったかも。「なんで?」と聞かれて,「なんでだろう」と。
上野 ぼくが一方的に講義して終わるのではなくて,みんなが授業に参加するんだよね。寝てるやつは起こさない。寝てたほうが健康にいいと思ってね(笑)。だけどしゃべってるやつは他に迷惑かけるから「出てけ」って怒るね。

臨床の経験を授業で語ってほしい

――他の授業だと,教科書の棒読みが多いですか?
学生 以前の仕事(スポーツインストラクター)で,解剖学を勉強していましたが,「覚えろ,覚えろ」で叩きこみの授業でした。今回の授業で,人体のしくみがわかって,(知識と知識の)パズルが埋まったような感じです。
学生 教科書どおりの授業だとおもしろくない。他には,チューブとかレントゲン写真みたいな現場で使うものをみせてくれる先生がいて,そういう授業は楽しいです。
学生 先生の「楽しくしよう」という思いやりがなければ,楽しくならないかな。
学生 先生は自分たちより長い時間を生きて,臨床でいろんな経験しているはずなんですけど,なかなかそれが聞けない。経験を語る授業なら,自然と耳がいきます。
学生 上野先生のようにご高齢で,忙しい中で授業もきちんとやって,いつまでも活発な方は,私みたことがない。それで尊敬の気持ちを抱くようになりました。私も新しい目標をつくり続けて,充実した人生にしたいです。先生がいい見本になりました。
上野 ぼくは消極的な生き方はしないんだよ。常に挑戦。
学生 だから授業中,積極的にこう……(と,ジェスチャーが入る)。
上野 そうそう,触っちゃうんだよ(一同笑)。最後まで完全燃焼して生きていきたいなあと思っている。
(了)



上野氏を囲んで,座談会に参加してくれた看護学生のみなさん
左下から時計回りに,渡邊朱里さん,小林亜紀子さん,内藤かおるさん,大塚愛さん,山口智加さん,渡邉容子さん,長島藍さん。