医学界新聞

 

〔寄稿〕

日本理学療法士協会長を14年間務めて

奈良 勲(広島大学医学部保健学科教授)




 社団法人日本理学療法士協会(以下,本会)は昭和41年に創立され,今年で38年目になります。
 私は,昭和48年度から本会の理事を16年間務めました。その間,主に学術・教育関係と倫理規定の作成などの仕事を行ないました。また,昭和48年には東京で開催された第8回全国研修会(テーマ:疼痛)の研修会長,そして昭和59年には金沢で開催された第19回日本理学療法士学会(テーマ:理学療法“学”の確立)の学会長を務めました。
 平成元年度から平成14年度までの14年間,本会の会長を務め,長野で開催された第38回日本理学療法学術大会(第36回より,日本理学療法士学会から名称変更)が閉会した時点(平成15年5月24日)でその職を退任しました。

山積みする課題をマスタープランとして提示

 通常,歴史のある組織などの会長は,60歳を超えた人が就任することが多いのですが,本会の歴史が短いこともあり,私が本会長に就任したのは47歳の時でした。これはたまたま,クリントン前米国大統領の就任年齢と同じです。
 会長選挙の前に,会長になりたいという思いではなく,会長になったら何ができるか? という意識で,それまでの本会の活動状況を分析しました。すると,当然のことですが,なすべき事柄が山積しており,それらの到達課題を短期,中期,長期に分類してマスタープランとして整理しました。もし,会長になったとしたら,このマスタープランを会員に提示し,会員と到達課題を共有して事業を展開すれば,小さな組織でも大きな力を産みだせるはずだとの仮説を立てました。現在の会員数は2万9,000名弱ですが,当時はわずか6,800名弱でした。
 また,会員の1人ひとりが,“もし,自分自身が会長(リーダー)であったとしたら,いかなる根拠に基づいていかなる事業を展開するか”について考えてほしいとお願いしたこともたびたびありました。そのようなこともあり,協会ニュースには毎回「メッセージ」を掲載してきました。

課題が着々と実現するなか,多忙で好きなテニスもできず……

 マスタープランに掲げた到達課題の中で,世界理学療法連盟(WCPT)学術大会の開催,各都道府県理学療法士会の法人化の推進(現時点で29士会),専門領域研究会を含む生涯学習システム,学術研究団体としての承認(日本学術会議),会館建設,理学療法週間の展開,本会の社会・学術活動の機能整備,理学療法学の英語版の発行(年1回),4年制大学や大学院における理学療法の実現など,70―80%は実現したと感じています。
 しかし,理学療法士法の見直し,理学療法士代表を国会議員として送り込むなどの課題はまだ実現していません。
 時代の流れの中で常に新たな課題が派生することから,今後,本会が力をつけることで,これらの課題は実現できるものと思います。また,超高齢社会を迎えているわが国の保健・医療・福祉を支える専門職の1つとして理学療法士の役割は今後ますます重要になると確信しています。
 会長職に就いている時には,苦しいことやうれしいことなど種々の出来事がありました。大変であったことの1つは週末に開催される各都道府県の行事に参加することで,多くの週末が潰れることでした。14年間で47都道府県のすべてを行脚しました。そのため好きなテニスをする機会が少なくなり,運動不足で体重が増え,ズボンなどを買い換える羽目になりましたが,本会では必要経費としては認めてもらえませんでした。

忘れがたい「御進講」

 会長に就任中に実現した大きな事業は,何といっても,私が学術大会長として平成11年に第13回WCPT学術大会(テーマ「文化を超えて」)を横浜で開催したことでした。
 本会は昭和48年にWCPTの会員国になり,国際的水準に到達することも大きな課題の1つでした。ですから,4年に1回開催されるWCPT学術大会を開催することは,わが国の理学療法水準を海外にアピールするよい機会となりました。
 しかも,開会式には天皇皇后両陛下にご臨席をいただき,「おことば」を賜る幸運を得たことはこのうえもなく光栄な出来事でした。さらに,WCPT学術大会が開催される1か月前に皇居に出向いて「御進講」(天皇皇后陛下にWCPTに関連して説明すること)を体験したことはきわめて印象的でした。
 今年の6月中旬にバルセロナで開催された第14回WCPT学術大会に参加してきました。すると,横浜大会に参加していた方々が,今でも当時の楽しい想い出が残像していると私に伝えてくれ,うれしく思いました。

協会発展のために大切なこと

 ともかく,私が14年間の会長職を何とか果たせたのも,本会の役員や会員諸氏をはじめ,他の団体や関係省庁の支援があったからだと思います。そして,私に1人の人間・理学療法士として成長する機会を与えていただいたことに,心より感謝しています。
 どの時代になっても,新たな課題が派生してきます。したがいまして,国民の真の要請が何であるのかということを常に認識し,それに応える力量を育成し続けることが本来の専門職であることを忘れることなく,本会が発展し続けることを祈念してやみません。
 長い間,たいへんお世話になりました。