医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


HIV/AIDS看護必携の1冊

HIV/AIDS看護ハンドブック
国立国際医療センター看護部5階南病棟 著

《書 評》木村 哲(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター)

HIV/AIDS看護を充実させるために

 日本では今でもHIV感染者/AIDS患者が増加していますが,HIV感染者は多くの面で悩みを抱えており,まだ社会の偏見と戦い,あるいはそれから避難せざるを得ないなど苦境に立たされることが多いのが現状です。これからの感染者/患者の増加を考えると,どこの医療機関でもスムーズに感染者/患者を受け入れられるよう体制を整えておく必要があります。
 医師向けのHIV感染症の診断・治療や合併する日和見感染症の診断・治療に関する解説はよく目にしますが,医師以上に患者さんとの接触が多く,患者さんの悩みの相談相手になる看護師向けの解説書はあまり多くありません。
 この「HIV/AIDS看護ハンドブック」は莫大な数の感染者/患者の方々を直接ケアしてこられた国立国際医療センターの看護師さんたちが専門病棟における豊富な経験をもとに書かれたものであり,HIV/AIDS看護の実践法が具体的かつ客観的に述べられていて大変優れた良書です。看護師さんの立場からのみならず医学的な側面も詳しく正確で,病気を理解し治療法を理解するのにも役立ちます。正しい看護の実践は病気を正しく理解し,患者さんを正しく理解することからはじまるという筆者の方々の考えが表現されているのでありましょう。
 HIV/AIDSの看護の充実のためには必読の書と思います。
A5・頁152 定価(本体2,400円+税)医学書院


生命活動への理解はいつの時代もケアの基本

《コアテキスト1》
人体の構造と機能

下 正宗,前田 環,村田哲也,森谷卓也 編

《書 評》川島みどり(日本赤十字看護大学教授・健和会臨床看護学研究所長)

身体機能別に人間を知る

 看護の視点は,人間を総合的にとらえるべきとの考え方が教育に根づいて久しく,日常の看護を展開する場合にも,そのことへの意識がケアプランに反映する。一方で,こうした看護の独自性の強調により,心理・社会面に偏りがちであるとの批判があることも事実である。本書はチーム医療を実践する医師たちが,看護師らのそうした傾向を憂う立場から,疾患理解を基盤にした看護の重要性を考え,「最低限このくらいの知識の共有を」と願って執筆された。
 本書は,ヒトの身体が生体としての自己を維持し,生命活動を営みながらどのような機能を統合して日常生活行動を継続していくのかを,臨床に引き寄せながら理解できるように,従来の医学体系とは異なった視点で構成されている。すなわち,人間の生きる姿のうちの「生きている状態」とはどのようなことかを,解剖生理学や生化学,病理学などの壁を取り除いて,身体機能別に融合させることを意図された点が,類書とは異なる本書の特徴である。
 このように,まず生命体としての人間の身体活動をしっかりとふまえたうえで,病んでいるその人の身体内部で起きている事象を組み立て理解することは,臨床の場においての個別ケアを実践するうえで欠かせないことである。また,看護実践能力や看護判断力を高める基礎教育の課題にも通じるものである。今後刊行を予定している本シリーズ全巻を通じて,「看護師国家試験出題基準」に準拠することをめざしていると聞けば,看護の基礎教育におおいに活用できるに違いない。

看護の視点からの「注文」

 ただ,不満がないわけではない。本書は看護だけのものではなく,リハビリや薬学,臨床検査など広範囲の専門職を対象にしたコアテキストという位置づけでもあるので,看護の立場からのみ注文をつけるのに躊躇がないわけではないが,あえて意見を述べさせてもらうと,各領域における用語の概念を踏まえたうえでの検討をしてもらいたかったと思う。
 たとえば,6章の生活行動を支える運動系に目を向けた場合,まず「生活行動」という用語の概念を抜きにはできない。看護におけるそれは,「生命維持のために行なう日常的・習慣的営み」をいい,かなり広範な意味を持たせている。しかも,いわゆる看護本来の専門性をその行動の援助においている。
 ところがここでの運動は,静止姿勢から各関節運動と連動した筋肉の収縮など,文字通り従来の運動の範疇であり,必ずしも生活行動を支える運動とは言えないのではないだろうか。もし看護の立場で考えるとするなら,4章の神経性調節と刺激の受容の中で触れられている回路別に見た神経系と,この6章の内容との組み合わせによってはじめて,個々の生活行動が自立して支障なく営まれるのではないかと思えた。
 つまり,過去の教科の配列とは異なった,人間の行動に焦点を当てた解剖・生理学や生化学の知識のまとまりが,このような形でまとめられたらどんなによかっただろうかと,看護の立場で考えた次第である。とはいえ,本書全体のスタンスへの共感はいささかも揺らぐものではない。個別ケアの基礎となる人間へのケアの基本は生命活動である。その最新の知識を効率的に学ぶうえで,豊富な工夫されたイラストは読者を助けることであろう。ともすると断片的になりやすい知識を統合する際の貴重なテキストとして,看護教育の場はもちろん,臨床での活用をおすすめする。
B5・頁352 定価(本体3,000円+税)医学書院


事例を教材に新人教育を考える1冊

別冊「看護教育」
「安全管理」の授業
看護事故防止を中心に

「看護教育」編集室 編

《書 評》村上節子(鳥取赤十字病院看護部長)

現場の事故防止教育にも役立つ

 臨床現場における看護事故防止についての著書はよく目にする。本書は看護基礎教育の中で「安全な看護についてどんな授業展開をするか」について述べたものである。1章から6章にわたり授業・演習・実習の具体例が並ぶ。また,看護業務の法的位置づけ,学生の臨地実習中の事故における責任の所在についての明確な見解が識者によって述べられている。臨床の立場で読むと非常に参考になる。
 春になると新人を迎え,研修プログラムに看護事故防止についてどう組み入れるか毎年工夫しているところである。この2,3年,新人にこれまでと違った傾向がみられるようになって,戸惑っている。院内,院外を問わず,看護管理者が集まると「最近の新人たちは,学生の時に安全についてどんな学習をしてきたのだろうか」と議論することが多い。端的に言えば,看護技術の未熟さが目立ち,新人の自信のなさが頼りないのだ。
 厳しい臨床の現実の中で,新人も葛藤,先輩も葛藤しながら現場教育が進んでいく。喜びもあるがお互いのエネルギーは大変なものである。教育する側と臨床現場でうまくキャッチボールができれば理想的であるが,実際は多種多様の新人を受け入れる現状では実際のところ無理である。
 しかし,本書から学生の具体的学習を情報としてキャッチし,新人教育に参考にすることは可能である。そして,新人理解の面でも役にたつ。
 卒後教育では,基礎教育を受けとめそれにつなげるべきことを明確にし,専門職業人として育てなければならない。筆者が勤務している病院は併設していた看護学校が今年3月,88年間続いた看護教育の幕を閉じた。来年度からは多種多様の教育を受けた新人を採用し教育していかなければならない。本書を読むと「安全管理」教育の必要性がひしひしと伝わってきた。当院にとっても今後いかに活用していくかが鍵である。

事例からの学びは学生も看護師も同様

 当院看護部において,平成14年度は安全管理担当の看護副部長が欠員であった。そこで,看護師長を推進委員長とし各セクションに事故防止委員をおき輪番制で毎月のインシデントレポートの集計をした。定例会では,集計を担当した委員が事例を選び,その要因分析,対策などについてディスカッションを積み重ねてきた。
 その時,委員の苦労は並大抵ではなかったようだ。レポートを読んでも事実がつかめない,そうなった理由も不明確である。そのレポートを理解して集計し,委員会に事例を提案するまでが大変なプロセスであった。
 しかし,各セクションの事例から改めて日々の看護業務の中に危険な要素が多いことが再認識された。いつもトップダウンで事故防止を叫んでいたが,自分自身も事故発生の当事者となりうること,人とエラー発生との関連性について,実践的な教育につながった。これらの事例検討会を通して,トップダウンとボトムアップのバランスの大切さを感じた。
 やはり事例からの学びは大きい。本書は事例をどう発展させ生きた教材にしていくか,その具体的なすすめ方も教えてくれる。教育する側,新人を受け入れる側が事故防止のための継続的な取り組みをし続けていく必要性を思いながら本書を読んだ。
B5・頁248 定価(本体2,600円+税)医学書院