医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

クスリやりますか?-ふつうの言葉と感覚

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 OSCEの医療面接でSPをすると,実にさまざまな出会いがあります。緊張のあまり最初の言葉に詰まる学生さんには患者役を務めるのが申し訳ないような気になります。また,「いらっしゃいませ!本日はどんなご用件で?」と威勢良く声をかけられると,あまりにもそぐわない雰囲気に戸惑うこともあります。
 また,テレビの影響でしょうか,形容詞や副詞がどんどん新しくなっています。
 「心臓バクバクします? マジっすか? ていうか,患者さんテキには……」
 と,聞きなれない表現に一瞬ひるみますと,とても意外な顔をされることがあります。ふだんの生活では当り前に使う言葉なのでしょう。むしろ通じない相手がいるのが不思議であったようです。
 中にはもっと恐ろしい質問があります。
 「個人的なことをお聞きしますが」
 との前置きがあって,何だろうと身構えていますと
 「タバコやお酒はやりますか?」
 やれやれ,個人的なことと言われるから病気とは無関係な質問と思ったら,代表的なOSCE質問です。ところがその次に
 「クスリはやりますか?」
 と続きました。
 毎日何か薬を飲む習慣があるかと聞いているのだろうか,いや「やりますか?」という言い方は嗜好するか,という意味で使うのだから,快楽のためにクスリをやる,ということか??? どう見ても,中年のおばさんで麻薬をやるとは思えないのですが……。結局,ドギマギして答えにつまっていたら
 「覚醒剤などを使っている人が増えているので,念のためにおききします」
 とていねいに説明されました。

患者はなぜ困惑するのか?

 噂には聞いていましたが,それほどヤクが深刻になっているのか,と役を離れた頭の中でびっくりです。しかし患者役の気持ちとしては「なんて失礼な!」。不躾で唐突な質問に感じてしまいました。聞いておかねばならないから,という理由で
 「遺伝病や精神病の方がおられますか?」
 「癌で亡くなられたご家族は?」
 「今までに感染症にかかったことは?」
 といった質問が初対面の面接で,いとも平然と投げかけられます。質問して何が悪い? 早く答えろ,といった圧力さえ感じることも少なくありません。病院に新しい患者さんを迎える時の危機管理として必要なこともあるのでしょう。
 しかし,待ってください。今起こっている具合悪さについては,ほとんど話を聴いてもらっていないのに,周辺の取り調べを先にするというのは本末転倒ではありませんか? こちらの気持ちはさておき,聞かねばならないことを聞くのは「信頼関係を構築する」とか「一緒に考えていく」という姿勢がそもそもないと言っては言い過ぎでしょうか? SPがその質問で困惑した,と感想を述べると
 「聞けと教えられているから」
 と医師役の学生さんはムッとした顔をしました。
 OSCEや医療面接教育が盛んになってきたと言っても,SP,あるいは患者さんの気持ちや言葉を聴ける人はまだ少ないのでしょうか。まだまだ患者ヤクはやめられそうもありません。