医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児医療における初診のポイントがみえる,必読の1冊

《総合診療ブックス》
外来小児科初診の心得21か条

五十嵐正絋 監修
絹巻 宏,熊谷直樹 編集

《書 評》別所文雄(杏林大教授・小児科学)

 本書は,総合診療ブックスシリーズの1つで,「こどもを上手にみるためのルール20」の続編として刊行されたものである。
 その構成は以下のようになっている。総論としての第1条にはじまり,第2条から第14条までは発熱,咳,発疹など子どもによく見られる主要な11の症状についての初診の心得に当てられ,続いて第15条から第18条では小児保健に関する心得について,第19条,第20条では外来で容易にでき,また行なうべき検査について論じられている。さらに付録としてよく出会う子どものウイルス性疾患への初診時の対応という座談会の記録が掲載されている。

見逃してはいけない病気を見きわめる

 このような構成からも想像されるように本書は実地医療に基づいたきわめてプラクティカルな内容を有し,小児医療に携わる医師,特に小児科を専門にしない医師にとって大変有用な1冊である。特筆すべき点の1つは,第1条に述べられている,「大部分はあまり問題なく対処できる『ありふれた病気』『ありふれた症状や訴え』であるが,その蔭に必ず少数の「見逃してはいけない病気」が隠れている。その見きわめこそが「初診の心得」の最大のポイントである」という観点が全体を貫いていることである。書評をしている私自身は,小児の血液・腫瘍を専門にしているが,専門外の先生方に向かって書いたり話をしたりする機会があれば必ず同じことを述べることにしている。
 これは必ずしも,一生に一度出会うかどうかわからないような疾患の話しかできないことの言い訳ではなく,ありふれた症状の中に潜んでいる重大な疾患を見逃さないことはまさに医療の基本と考えるからであるし,その見逃しとしか思えない例を数多くみているからである。このような観点から,緒言で述べられている「私たちはかぜっぴきの医者だ」は名言であり,子どもを診る医師は特定疾患の専門家かどうかにかかわらずそのような自覚が必要であると思う。

診療のポイントをていねいに解説

 それではどのようにしたら重大な疾患を見逃さずにすむか。これが問題である。教科書的に言えば鑑別診断をしっかり行なえばよいことになる。しかし診断学の教科書に載っている鑑別診断の表にある疾患をすべてあげるのは現実離れしたことである。本書では,各条にまずチェックポイントがあげられており,それらのチェックの結果何を考えるか,そして初期診療をどのように進めるかがていねいに解説されている。そして,随所に症例が呈示され,著者らがそれらの症例から得た教訓が述べられている。
 さらに,「メール・アドバイス」としてQ&Aが掲げられており,これらを総合的に利用することによってどのような診療を心がけるべきかを学ぶことができる。
 すでに述べたように,本書は小児医療に携わる医師,特に小児科を専門にしない医師にとって大変有用な1冊であり,是非一読をお薦めしたい。
A5・頁240 定価(本体4,000円+税)医学書院


クリティカルパスは導入しやすい整形外科の診療から

整形外科のクリティカルパス
佛淵孝夫,野村一俊,千田治道 編集

《書 評》井上 一(岡山大教授・整形外科学)

クリティカルパスを育て上げる努力が問われている

 整形外科診療,殊に手術的治療においては,クリティカルパスがもっとも導入しやすいと言われる。また,大学病院を中心とした特定機能病院における包括評価支払い制度(DPC)はこの春からはじまっており,医療の効率化のためには,こうした手段の活用なしにはなし得ないと言われる。クリティカルパスの活用には,なお問題点を含んでいるとはいえ,絶えず現場を中心に改変し,より良いツールとして育て上げていく努力も問われている。
 本書の編者である佛淵,野村,千田の三氏は整形外科医療の現場でもっとも早く,また多くの臨床例からパスを実践し,十分にその意義と展望を熟知しておられる方々であるので,本書の解説によって個々の現場でその利点を運用していっていただきたい。
 われわれの施設でも,1988年頃よりクリティカルパスを導入しているが,本書に書かれているとおり,(1)臨床アウトカム,(2)満足度,(3)在院日数,(4)財政のアウトカムと,医療の総合的な取り組みに改革をもたらしている。この中でも(2)の満足度の充実がもっとも顕著と考えている。特に医療従事者ばかりでなく,患者や家族の方々と医療の内容,作業から退院に至るすべてをよく理解していただき,十分なインフォームド・コンセントの上に安心した医療を提供していく喜びをすべての人が共有している充実感は,これまでに考えられなかった1つの医療革新と言ってよい。また,卒前・卒後の教育上もクリティカルパスは優れた威力を発揮する。1つひとつの医療行為ばかりでなく,治療の過程で起こってくるさまざまなバリアンスも,医療サイドの技術ばかりでなく患者サイドの変化を具体的に呈示してくれ,こうしたことに対する対応も適宜かつ正確に行なえるようになってくる。

医療の品質管理,効率化をめざして

 最近では医療の対費用効果が喧しく言われるが,確かにこれまでやってきた医療現場の無駄を分析し,より確かで効率的医療を開発していくうえでも,本法の導入は欠かすことができない。どの病院においても,制度,人事,財務システムの改変が急ピッチで進められつつある。しかし,医療の現場では「安心して満足のいく医療」を期待される。これには医療が絶えずその品質を管理し向上させ,なおかつ効率的な医療を実践していくことであることは言うまでもない。クリティカルパスは工業や経営工学の中から育ってきた手法とはいえ,われわれは限られた財源の中で,絶えず良質の医療提供者として,国民の皆さんから信頼され,またすべての医療も情報開示されていくものである。したがって,職業人としてのわれわれの医療行為も絶えず評価され,それが制度のうえで生かされてくるようでなければならない。こうした点からみても,クリティカルパスの導入は,21世紀における円滑なシステム改変をもたらしてくれるように思われる。
 われわれのクリティカルパスを用いた整形外科診療を通して,全診療科への取り込みの弾みとしたいものである。このことは必ずや近未来の明るい医療発展をもたらすものと言える。
A4・頁194 定価(本体3,400円+税)医学書院


とても刺激的な自由空間。超音波診断のおもしろさがみえる

ケースレビュー超音波診断
William D. Middleton 著
久 直史,大熊 潔 監訳

《書 評》石田秀明(秋田赤十字病院消化器科)

自由奔放な症例提示で実力をつける個性的なクイズ集

 世に広く流布している金太郎飴的超音波ガイドブックではなく,とても個性的な超音波クイズ集だ。手にし一読二読。書評作成に苦慮,だが強く惹かれた。一言でいうなら,本当の超音波好きならたちまち夢中になるが,超音波診断を渋々やっている診断医や狭いセクタリズムに固守する方はかかわらないほうがいい代物だ。天馬が大空を駆けるがごとく,腹部,整形,表在,超音波の原理,と自由に飛び回り支離滅裂気味。しかし,この(一見)まとまりの悪さこそが,この本の著者William D. Middleton氏の,そしてケースレビューシリーズ全体の編者DM Yousemのねらいで,各症例の提示こそ自由奔放だが,その解説は大変ていねいで,この方法を通じて,時間的,領域的に脈絡なく診断医を襲ってくる多彩な疾患に臨機応変立ち向かえる幅広い実力を養成してくれる。
 この本の具体的利用法は主に2つである。1)ビギナー(といっても超音波全体の基礎トレーニングが終わったレベルの)が自分の成長を実感するための物差しとして,そして,2)マンネリ化し目に輝きを失った中堅-ベテランが自分のネジを締め直すための鏡として。後者は特に重要である。人間,高いポストにつくと,自分の力を直視できず過大評価してしまうようになる。自らこれを諌め,裸の王様にならないためにもこの本は有効だ。

グローバリゼーションの波

 欧米では超音波診断は主に放射線科医が担当し,守備範囲はほぼ全領域である。超音波専門医が全領域の超音波診断を施行するフルコース型がよいか,各科の医師が自分の専門分野の超音波診断を施行する単品注文型がよいか,一概には断定できないが,アメリカ盲従のわが国が,超音波診断の分野においても,米国型グローバリゼーションの波に飲み込まれるのは時間の問題。実質エコーの粒だちや腫瘍の境界エコーの違いも含め,今からこの異文化に親しんでおくのも悪いことではない。
 訳文も含め大きな不満はない。全カラー写真がカラープレートにまとめられているため,問題ページとそれを交互にめくる煩雑さはあるが,これも値段を考慮するとやむをえない。最後に大変なご苦労をなさった著者と訳者に感謝。
A4変・頁280 定価(本体6,800円+税)MEDSi


「健診大国」のこれからを考えるための道しるべ

EBM健康診断 第2版
矢野栄二,小林廉毅,山岡和枝 編集

《書 評》和田 攻(東大名誉教授/埼玉産業保健推進センター所長)

EBMによる評価は必然

 本書は,1999年に出版された『Evidence Based Medicineによる健康診断』の全面改訂版であり,初版には含まれていなかった視力検査,聴力検査,および問診,さらには女性の健康診断にもEBMの光をあて,事業場で行なわれている一般定期健康診断項目のすべてについて論じ,かつ提言を行なっている,予防医学・公衆衛生学・社会医学分野では初めてのEBM書である。
 わが国は「健診大国」であり,健診はこれら上記の分野での重要な事業で,職域だけでも毎年数千万人の人が健診を受け,その費用も極めて膨大となっている。他の医学分野で取り入れられつつあるEBMにより,健診のあり方,すなわち健診の有用性・有効性,および医療経済面からの評価を受けることは必然である。さらに受診者への情報提供の面で,また,現在健診目的の変換(成人病の早期発見から生活習慣病の一次予防へ)が必須となっている面からも,すべての保健関係者が,自らの立場で健診のあり方を考える道しるべとして,繙くべき必読の書である。
 これからの健康診断のあり方は,まず第一にEBMに基づいた健診であること,さらに結果(アウトカム)から出発し,かつ事後措置に結びつくこと,個別的健診(テイラーメイド健診)をめざすこと,個々人(受診者)の自主努力のもとに行なわれること,予防から健康増進へと前向きの健診であること,などが優先されるべきものとされており,これらの内容は,プライバシーの保護のさらなる重要性を指している。米国のように,“自分の欠点を曝すことは止めてくれ”という要求が出されるかも知れない。EBMはこれらすべてをカバーするものともなり,今後,最も重視すべき1つの指針である。
 もちろんEBMに対しては,「総論賛成・各論反対」の空気も強い。と言うのも,もともとEBMは臨床疫学から出発している。臨床医学が原理・原因を重視し,介入(診療)はそれに理論的に合わせて行なわれるのに対し,疫学では,発想的な介入によって,結果がどうなったかが重視される。原理や真の原因は誤っていても,誤った理論に由来する介入でも,結果が良ければよいということで,高木兼寛の麦と動物性蛋白補給による海軍の脚気対策の成功など,歴史的にも疫学の成果は大きい。
 本書では健診の項目の大部分が“Cグレード,すなわち健診に含めるには適しない”と厳しいが,その根拠は,エビデンスが示されていないというわけで,医学の進歩やエビデンスの提供によっては,グレードアップすることも,本書では尿蛋白の検査などでみられる。現時点での評価が絶対ということではない。EBMは著者らも述べているように,“医学技術の詳細かつ段階的な評価”であるということである。
 本書の構成は第Ⅰ部は総論,第Ⅱ部は,すべての健診項目についてEBMの立場から論じ,私たちが今まで無意識のうちに信じてきた有用性をバタバタと切り捨てる痛快な科学的内容となっており,第Ⅲ部は,歴史と今後の方向性が述べられている。第Ⅰ部の医療経済評価の章は手法の導入上重要である。
 本書は,今後の健診に関する先がけと同時に基本となる本で,すべての保健関係者が一読し,さらには熟読すべき,この方面でのわが国唯一の成書である。日常の健診実施にも,新しい眼が開けるものである。心から推薦したい。
B5・頁240 定価(本体2,800円+税)医学書院


消化器外科臨床の「現時点での結論」

消化器外科のエビデンス 気になるテーマ30
安達洋祐 著

《書 評》兼松隆之(長崎大教授・移植・消化器外科)

教育への情熱を基盤に

 私は著者の安達洋祐氏を,彼の学生時代から知る者である。彼はサッカー部の主将を務め,チームをまとめるのに抜群の才能を有することは当時から定評があった。縁あって私と同じ教室で外科を学ぶことになったが,研修医の頃から,勉強会でも,スポーツでも,また夜の宴会においても,常にグループのまとめ役,けん引役であり,後輩ながらとても頼りになる男であった。
 そのような安達氏が大学で責任のある地位について,教育に並々ならぬ情熱を傾けていることは風聞耳にしていた。大分医科大学へ着任後3年目から,とくに研修医教育に力を入れて取り組まれたようである。
 まず研修プログラムを作り,次の年からは病院のゴミの処理や給食部の食事と残飯など,医療を支える現場での模擬実習をはじめたという,それは彼らしいユニークなものであった。もちろん,手術手技についての教育も組み込まれているし,定期的に研修医と指導医がそれぞれを評価し合うシステムを作って,研修医のみならず指導医の育成にも視点がおかれている。安達氏は言う。「教えることは学ぶ態度を身につけさせることである。したがって,学習者が主役・中心であり,指導者はその脇役・介助だ」。
 その安達洋祐氏がこの度,『消化器外科のエビデンス-気になるテーマ30』を上梓した。この本は,安達氏が今まで実践してきた外科医の指導や研修医の教育に基盤を置いて制作にあたったものである。具体的にはスモールグループで毎週勉強会を開き,1回1つのテーマについて担当者が文献を収集して,お互いに情報交換を行なった成果の積み重ねを基としている。“これまでにどこまで明らかになっているか?”,“いま未解決の問題は何か?”といったことを事細かくチェックしていき,エビデンスのレベルを明確にしていったとのことである。
 本書では現在,外科臨床の実地で迷うことの多い30のテーマを取り上げ,どのように考えたらよいかの指針が示されている。例をあげれば,「胃癌の手術でリンパ節廓清は生存率を高めるか?」,「切除不能な膵癌に予防的胃空腸吻合は必要か?」「手術患者のドパミン投与は腎不全を減少させるか?」などの話題が取り上げられている。
 この本をまとめるにあたって,安達氏は自ら図書館に足を運び,あるいはコンピュータのキーを叩いて関連の文献を渉猟し直し,内外の最新かつ質の高い論文を参酌して,現時点での「結論」をここに凝集した。その中身は採れたての“みかん”をギュッと絞って得られたばかりの果汁のごとく新鮮で,味も濃厚である。本書は安達氏の単独執筆であるがゆえに,統一性もとれている。従来の分担執筆の著書で時に見受けられる各章ごとのちぐはぐな違和感はまったくない。その際の落とし穴となりがちな著者の独りよがりの意見,立場を脱却するため,問題を客観的にとらえている配慮が随所にみられるのも本書の特徴である。たとえば,自分なりの結論を明確にした上で,わが国でもその道の第一人者である方々に,各テーマに関する考えを“My Opinion”という形でまとめてもらい,それが掲載されている。最終的には読者の判断をも仰ぐといった手法は見事という他はない。
 最近の医学書の中には,残念ながらどこかで見たことのあるような内容の焼き直し本に遭遇することもある。しかし,本書はアイディアと企画力に富み,オリジナリティも高い。「これは面白い。すぐに病棟で役に立つ情報がここにある・」というのが私の印象である。疑いもなく,ここに安達洋祐氏の医学教育の集大成があり,かつこれは渾身の作である。
B5・頁360 定価(本体6,500円+税)医学書院


腰痛治療における「サイエンスとアートの融合」

腰痛
菊地臣一 著

《書 評》守屋秀繁(千葉大教授・整形外科学)

不明な点が多い腰痛治療

 本年5月末,医学書院の方から菊地臣一教授著『腰痛』の書評を依頼されました。私の恩師である井上駿一教授が菊地教授の業績を高く評価されていた関係もあり,私は菊地教授とは長年にわたり親しくさせて頂いております。言うまでもなく菊地臣一教授は世界的な脊椎外科医であり,腰痛疾患についての造詣は極めて深いことは十分に承知していましたので,私は本書を拝見する前に,すぐに書評を書くことをお引き受けしました。
 本書を最初に開いた時,今までにない斬新な内容構成に驚かされました。従来の教科書の多くは,腰椎の解剖,生理などからはじまり,各種腰痛疾患の病態,診断,治療を個々に解説するという形をとっています。また,内容の多くが既知の事実として語られています。ところが,本書では冒頭から「腰痛」にはいかに多くの不明な点や曖昧な点が残されているかが広い視野で語られています。
 さらに読み進めますと,目立つキーワードは「病態」です。「医療は病態を解明してはじめてサイエンスとして成立し,適切な治療が確立される」という先生のお考えに基づき,腰痛に関し科学的な立場から「今現在,何がわかり何がわかっていない」のかが詳細に述べられます。

「知る」のではなく「どう考えるか」

 一方,これらのサイエンスとしての立場に加え,「診療に際しての留意点」の章では医療のアートとしての面が述べられています。さらに診断,検査へと進み,「誤診例と治療難航例からみた診療のポイント」の章では自ら経験された症例を提示されています。一般に成功したとする症例報告よりも難渋した報告の方が示唆に富み教えられることが多いように思います。しかし,誤診例と治療難航例を報告することには抵抗感を抱くものです。この章をみてもご自身の経験を他の人に率直に伝えようとする真摯な態度と医療に対する確固たる信念がうかがえます。
 先生は序の中で本書を「腰痛を知るための本ではなく,腰痛をどう考えるかを提示したもの」と述べておられますが,まさにその目的が達せられた名著であると思います。本書は菊地先生の研究成果,経験された症例に基づき構成されており,全体を通じて医療におけるサイエンスとアートの融合という先生の哲学が貫かれています。
 脊椎外科,腰椎疾患に携わる方,あるいは広く医療関係者にお勧めしたい名著です。また,内容の深さから,時に応じて各章を熟読吟味することをお勧めします。本書をひとりでも多くの方に読んでいただくことにより,腰痛に興味をもつ人が1人でも増えてほしいという,本書執筆にあたっての菊地臣一教授の目的が達せられることを願っております。
B5・頁344 定価(本体8,500円+税)医学書院