医学界新聞

 

「21世紀健康へのかけ橋」をテーマに

第26回日本プライマリ・ケア学会開催


 第26回日本プライマリ・ケア学会(6月21-22日)が,飯塚弘志会頭(北海道医師会長)のもと,「21世紀健康へのかけ橋-情報社会のプライマリ・ケア」をメインテーマに,札幌コンベンションセンターで開催された。傷ついた野生動物を保護し,手当てをして野生に帰す活動を続けてきた,北海道在住の竹田津実氏(獣医師・エッセイスト)による講演にはじまり,特別講演3題,教育講演3題,シンポジウム13題など,盛りだくさんのプログラムとなった(関連記事)。また,本学会総会において,小松真氏(東京都日野市小松医院長)が学会長に選任された。


国民ニーズに沿った医療提供を

 特別講演「わが国の医療制度の行方」では,青柳俊氏(日本医師会)が,「医療の課題は,最大の難関に差しかかっている」として,小泉政権と財務省を批判。医師会のめざす医療改革の方向性ならびに私案を述べた。
 氏は,既存の調査結果を年齢階層別にまとめた資料を提示。国民の医療ニーズの高かった項目として,救急やアレルギー疾患,メンタルヘルス・ケアなどをあげ,「これらの大部分はプライマリ・ケアのなかで対応しなければならないものだ。プライマリ・ケア医が国民のニーズにあったかたちで医療を提供しているか,自問自答しなければならない」と主張。特に,メンタルヘルス・ケアに関しては,「各種疾患に伴う心の問題を,日常の診療で解き明かす努力をしているのだろうか」と,プライマリ・ケア医に対して,当事者意識を促した。
 また,医療の質を高める方策として,IT化の促進による事務処理の簡素化や安全性の確保をあげたほか,生涯教育制度の充実については,「医師会主導で,中・長期的視野に入れて考えていく」と述べた。公立病院の役割については,一定の意義は認めながらも,地域で足りない機能を付加して存続させるか民間に移行するなどして,私立病院との差別化をしていく必要性を説いた。
 最後に,2004年度の診療報酬改定における課題として,(1)2002年度には前年比減が見込まれる全体医療費の是正,(2)サラリーマン3割負担による受診抑制の影響を受けた中小病院と外来医療の経営改善,などを列挙。一方で,「医療費をあげれば,これだけ国民にメリットがあるという説得力も必要」と今後の取り組みへの決意を述べて,特別講演を締めくくった。


電子カルテ導入への道険し


電子カルテ導入に8割が消極的
課題は費用面

 シンポジウム「電子カルテは医療の現場でどのように役に立つのか」(座長=大橋産科・婦人科 大橋克洋氏,札幌医大 三谷正信氏)では,三谷氏から電子カルテ導入に関する意識調査の結果が発表され,導入に消極的な診療所が多い現実が明らかになった。
 調査は,無記名アンケート形式で道内の医療施設管理者を対象に行なわれた。回収数は約半分の約1,600。報告によれば,電子カルテの稼動状況に関する質問項目で,「導入の予定なし」との回答が78.2%にも昇った。三谷氏はこの結果について,「予想外で驚いている。導入予定のない施設は診療所に多い」と分析。導入に際しての問題を答える項目では,「導入費用が高額である」と答えた人が約6割であったという。

普及を急ぐか,質を高めるか?

 本シンポジウムでは三谷氏の調査報告の他に,電子カルテを導入した3つの診療所と1つのシステム会社による報告があった。その後の討議では,「現場でどう役に立つのかピンと来なかったので残念」と,会場から電子カルテ導入を疑問視する意見が出て,「本当に患者のための電子化になっているのか工夫が必要」「患者情報を共有する際に,個人情報の点で危惧を感じる」と問題提起がなされた。
 「患者のための電子カルテになっているのか」という批判は,平易な形式で記録を電子化し,互換性を高めて他の医療機関との情報の共有化を重視した実践報告に向けられたもの。この意見を受けて,座長の大橋氏は,「ポイントを地域の中の医療連携に置いているから,シンプルな形式になっているのではないか」と付け加え,基盤整備ができた後に患者中心主義やセキュリティなどの改善段階に入る考え方にも,一理あるとの見解を示した。
 さらに氏は,東京都医師会で地域医療の電子カルテプロジェクトにかかわる立場での悩みとして,「医師会の先生からは初心者でも使えるものをつくらないと広まらないと言われる。ただ,開発の経験から言うと,初心者向けものをつくって質を落とせば,プロの道具としては使えない程度のものと判断されてしまう」と開発普及に伴うジレンマを語った。患者中心の電子カルテシステムを開発し,カルテ内容の患者への公開を進める是永迪夫氏(エンゼルクリニック)も,「シンプルにつくらなければ,誰も使ってくれない。共有化を急ぐのか,私のように患者の視点でやるのか」と,電子カルテには2通りの方向性があることを説明し,「私は共有化をあまり考えていない」と,自身の考えを述べた。また,「これまでほとんどなかった医師からの意見が,こうやって出るのは大歓迎」と,ユーザーの意見によってシステムの利便性も向上するとした。

普及のために大切なこと

 石川眞樹夫氏(新逗子クリニック)は,「電子カルテを使うようになって,最初は確かに時間がかかったが,慣れてくると,3時間待ちの3分診療が,1時間待ちの10分診療くらいまで可能になった」と実体験を報告。「導入によるメリットが出てくれば,自然と電子カルテも普及する。まずは実践すること」とした。また,普及の大きな壁となっているキーボード入力については,音声入力がまもなく実現の段階に入るとの見方を示した。
 一方で,三谷氏によるアンケート結果からは,電子カルテの使用をやめる理由として「キーボードを見てたら患者を診る時間がなくなった」という意見が多く出た。この点に関して,「書きながら診療するのは間違い」(石川氏),「キーボード入力は,患者を診る前後」(大橋氏)と,医師による電子カルテの使い方にも再考を促す意見が出た。
 本シンポジウムの最後には,電子カルテの共有化によるセキュリティの問題について議論された。ネットワークにおける厳密な意味でのセキュリティはないとの認識のうえで,情報の共有化は「患者の選択を重視するのが第一」との意見が,シンポジストのうちの多数を占めた。