医学界新聞

 

患者のQOL向上をめざして

第40回日本リハビリテーション医学会開催


 第40回日本リハビリテーション医学会が,眞野行生会長(北大)のもと,さる6月18-20日の3日間にわたり,札幌の札幌コンベンションセンターにおいて開催された。40回という節目にあたる今学会では,「リハ医学の挑戦的な研究とリハ医療の積極的な展開」をテーマとし,第20回学会の会長を務めた祖父江逸郎氏(名大・愛知医大名誉教授),ならびに第24回学会長の上田敏氏(日本障害者リハビリテーション協会・国際生活機能分類日本協力センター)が記念講演を行なった(関連記事)。


随意運動の重要性

 会長講演では,眞野氏が「随意運動の制御とリハビリテーション」と題し,随意運動の制御に関するさまざまなアプローチを最新の知見や豊富な症例を交えて紹介した。
 氏は,「リハビリテーションの目標とは患者が日常生活や社会参加を行なえることであり,そのために随意運動はきわめて大切な要素である」と述べ,その制御は「発動,プログラム作成,実行,フィードバック,継続」の5つの過程に分けることができ,それぞれの過程での傷害における回復方法が,医学の発達とともに,リハビリテーション技術として向上してきたと指摘した。
 また,近年行なわれているボツリヌス毒素を用いた選択的神経枝ブロック法,中枢性筋力低下における電気刺激法,またうつ状態に対するセロトニンを介したrTMS(連続経頭蓋磁気刺激法)について言及,新しいリハビリテーション技術の可能性を示唆した。
 最後に氏は「われわれの体は非常にダイナミックに動いており,そのためには訓練をいかにうまく成功させるか,訓練を行ないやすいシチュエーションをいかにつくるかが重要である」と述べ,会長講演とした。

学会の歩みと今後の課題

 祖父江氏は,「リハビリテーション医学,医療の新しい視点-これまでの40年の学会活動をふり返って」と題し,第1回大会が開催された1964年から今日までの40年間,社会の変化とともにリハビリテーション医学のあり方がどう変わってきたかを,学会の活動を通して講演した。
 また,現代の高齢者リハビリテーション医学における重点対象として痴呆や認知障害に代表される脳障害,心肺機能障害,骨関節障害をあげ,「高齢化社会の到来に伴い症例の多種性と障害の複合化が目立つようになってきた」と指摘した。
 さらに,これからのリハビリテーション医学,医療に必要な新しい視点として「Impairment」,「Disability」,「Handicap」の3つをあげるとともに,「QOLは生命の質,生活の質,人生の質がそれぞれ互いに関連し合った新しい概念であり,患者の生きがいなどのQOLを軸とした見直しが必要である」と提言した。
 最後に氏は「健康には疾病予防のための保健があり,疾病には医療が,障害に対しては福祉がある」と述べ,「これらすべてを内包した,包括的リハビリテーションという考え方のもと,ADLの改善やQOLの向上をめざすべきである」と結んだ。

共通言語としてのICF

 上田氏は「国際生活機能分類(ICF)とリハビリテーション医学の課題」をテーマに,2001年にWHOで採択されたICFについて講演を行なった。
 氏はまず,「ICFは単なる国際的な共通言語にとどまらない」とし,その目的は共通言語による医療者や専門家と患者,さらには行政との協力関係の構築にあり,ICFはリハビリテーションや福祉の現場で臨床的に使うことのできるツールであると述べた。そして,その基本概念はすでにわが国の医療保険・介護保険の中に「リハビリテーション総合実施計画書」として取り入れられていることに言及した。
 そしてICFの特徴として,生活機能の中に障害を位置づけることによって「障害」ではなく「障害のある人」を包括的に把握できること,「活動」の評価において「実行状況」(している活動)と「能力」(できる活動)の2つに分けていることをあげ,患者の自己決定権の尊重やQOLの重視といった世界的な医療,福祉の流れに即したものであることを強調した。
 また,こうしたICFの視点から見た現在のリハビリテーション医学の課題として,「心身機能のみだけでなく活動と参加を重視すべきであり,画一的なプログラムでなく個別的・個性的な目標・プログラムを設定しなければならない」と指摘した。
 氏は「ICFは評価するためだけのものではなく,リハビリテーションの全体的なあり方や患者の問題を総合的にとらえる考え方の枠組みである」と述べたうえで,ICFの評価方法が他の多くの評価方法の平均である5段階であることに言及し,「共通言語としてのICFにすべての評価方法を翻訳できれば,異なる評価法同士の比較が可能になる」としてICFの可能性に対する期待を述べた。
 そして最後に,氏は「リハビリテーションとは,心身機能の不自由を生活上の活動で補い,豊かな人生に参加できることである」と発言,講演を締めくくった。


脳卒中ガイドライン策定-新たな一歩


■脳卒中の治療指針として

 シンポジウム「脳卒中リハビリテーションガイドラインの動向」(座長=東海大 石田暉氏,慶大 里宇明元氏)では,脳卒中関連学会が合同で策定した脳卒中ガイドラインについて,4人のシンポジストが活発な議論を行なった。
 永山正雄氏(東海大)は,まず日本において脳卒中の治療ガイドラインを策定する必要性として,「最新,最適の情報に基づいた診療および治療の標準化」,「日本人の特性と実情に見合ったインフォームド・コンセントの実践」などをあげた。そしてガイドライン作製において,文献をエビデンスのレベルに従って分類した結果,「本邦において高度のエビデンスレベルを有する報告がきわめて少ないという問題点が明らかとなった」と指摘した。しかし同時に「このような治療研究上の問題点を抽出できたことで,今後の脳卒中臨床研究の方向性を示すことができた」として,ガイドライン策定の意義を強調した。
 続いて座長の里宇氏は,本ガイドラインを作製したガイドライン策定委員会のこれまでの活動経過を報告するとともに,臨床的問題の選択や文献収集,それらをエビデンスレベルに応じて分類し,勧告を作製するに至るまでを詳細に解説した。そして今後の課題として,臨床現場からのフィードバックや新たなエビデンスの追加により改訂を行ない,より「使えるガイドライン」をめざしていくことをあげ,さらに一般医家,患者向けのガイドラインの作製にも意欲的に取り組んでいくことを述べた。

「急性期・回復期・維持期」

 越智文雄氏(自衛隊中央病院)は「脳卒中患者に対するリハビリテーションは急性期,回復期,維持期と便宜的に分けられているが,その時期区分について明確なものはない」と指摘。急性期の目標はセルフケアの自立であり,「発症直後からリハビリテーションを積極的に行なうべき」と述べた。
 続いて回復期について,氏は「セルフケア,嚥下,認知など複数領域に障害が残存した例に対し,より専門的かつ集中的に行なうことによって最大の機能回復をめざす」とし,リハビリテーションチームによる包括的アプローチの重要性を示唆した。
 そして最後に,維持期リハビリテーションにおいては「筋力,体力,歩行能力などを維持向上していくことが目標であり,訪問または外来リハビリテーションを行なうことが望ましい」と述べた。
 中馬孝容氏(北大)は脳卒中リハビリテーションガイドラインにおける「主な障害・問題点に対するリハビリテーション」について発表,「運動障害」,「歩行障害」,「嚥下障害」,「抑うつ状態」など13項目における具体的な勧告内容を紹介した。氏は「普段行なっていることの有効性が実証されたものが多いが,経験のうえでは周知のものであっても,有効性が実証されなかったものもある」と述べ,「有効性が高いものからリハビリテーションを行なうことが重要であり,また常にそうあるべきと考える」と結んだ。
 最後に座長の里宇氏は,「このガイドラインをなるべく多くの人に見てもらい,そこからポジティブなフィードバックをいただきながら,リハビリテーション医学に寄与するようなガイドラインをつくっていきたい」とシンポジウムをまとめた。

■高齢化社会への取り組み

 パネルディスカッション「高齢化社会の課題と展望」(座長=東大 江藤文夫氏,慈恵医大 宮野佐年氏)では,福祉制度,技術開発,住宅設計など幅広い視点から高齢化社会を見直す試みが行なわれた。
 最初に登壇した安保雅博氏(慈恵医大)は,高水準の福祉制度で知られるスウェーデンにおける高齢化社会への取り組みを紹介し,わが国と同様に高齢化社会に伴う保健,医療サービスの負担増といった問題を抱えており,特に近年,年金制度の大幅な改革が行なわれたことを述べた。
 氏は,このようにスウェーデンの高齢者福祉制度が少なからず変更を余儀なくされていることに言及しつつも,スウェーデンの国民性として「自国の福祉は自分たちで供給する」という考え方があり,「この精神を持ちつづけている限り,スウェーデンの高齢者医療は変化しつつも,よい形で存続していくだろう」と述べた。
 続いて,「高齢化社会に向けた技術開発の動向」と題し,増田正氏(産業技術総合研究所)が医療福祉機器に関する技術・研究開発と,それを支援する助成金制度について発表した。氏は産業技術総合研究所と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)について説明,前者はエネルギー,バイオ,医療福祉など広範囲な産業技術の研究開発を,後者は民間企業などに対する研究委託や助成を通して研究開発の振興を行なっていると述べた。
 氏は今後の開発の方向性に関して「高齢者がもっと社会参加でき,生涯現役でいられるような技術支援はできないだろうか」と提言し,そのためには「社会基盤,社会制度,行政の対応,さらにIT化などを併せて考えていく必要がある」と述べた。

職種を超えた“コラボレーション”

 西代明子氏(北海道建築士会)は建築士の立場から,高齢者,障害者にとって暮らしやすい住宅の設計について「障害を持ったり,高齢となったときに今の家で生活できるのかが重要なのではないか」と述べた。
 そして室内の段差をなくすなどのバリアフリーを重視した改装工事について説明,こうした改装工事の設計を行なう際に「建築士だけでなくケアマネジャーや理学療法士など,業種を越えたネットワークを形成することが重要である」と提言した。
 最後に登壇した座長の江藤氏は高齢社会の課題として「社会参加,健康,まちづくり,社会保険制度,生涯学習」をあげ,それらにおけるQOLの重要性を強調した。
 そして,これからの高齢化社会における課題として「多職種が協力し合い,ひとつのチームとして1人をサポートするような体制をつくることが重要であり,そのためには現場のニーズを見直したうえで,研究開発や制度づくりを行なっていく必要がある」と述べて議論を締めくくった。