医学界新聞

 

「急性期言語聴覚療法」などが話題に

日本言語聴覚士協会が学術集会を開催




 第4回日本言語聴覚士協会総会・学術集会が,藤田郁代会長(日本言語聴覚士協会長/国際医療福祉大)のもと,6月7-8日の両日,さいたま市の大宮ソニックシティにて開催された。
 本学術集会は,川島隆太氏(東北大学)による特別講演「言語機能の脳血管イメージング」が行なわれた他,シンポジウムに「広汎性発達障害」と「脳卒中後の急性期言語聴覚療法」,さらにディスカッション「言語聴覚療法におけるリスク・マネージメント」が,またセミナー「摂食嚥下障害-疾患による特徴とそのリハビリテーション」「介護保険下の高齢者介護福祉施設における言語聴覚士の役割と今後の課題」「早期療育のための乳児聴覚検査」が企画された。
 総会では,多種多様な患者ニーズに応える専門的サービス提供体制の整備を今後の目標に掲げ,中でも地域組織の充実を図り活動を支援することを目的に,協会の地域組織として都道府県士会を置くことが採決された。なお,次回第5回からは,本学術集会は学会として開催される。


急性期言語聴覚療法の必要を模索

 シンポジウム「脳卒中後の急性期言語聴覚療法」(座長=慶大病院 立石雅子氏)では,本協会の学術研究部急性期リハビリテーション小委員会による「脳卒中後の急性期言語聴覚リハビリテーションの実施状況」に関するアンケート結果を踏まえ,急性期の患者に対応する言語聴覚士の役割が議論された。
 現在,言語聴覚療法には早期リハビリテーション加算がなく,言語聴覚療法は全身状態が落ち着いてから施行されるものとの考えも根強い。このため臨床の在り方に対する知見が少ないことが,近年問題となっている。本シンポジウムでは,まず言語聴覚士が自らの体験を紹介し,続いて医師,理学療法士,作業療法士の各シンポジストにより,脳卒中の急性期において求められる言語聴覚士像が紹介された。

言語聴覚士に期待される役割

 まず二次救急指定病院に勤務する言語聴覚士の立場から,春原則子氏(東京都済生会中央病院)が,できるだけ早い段階で予後予測を行なうことが,患者にとって適切な転院先決定につながること,そのためには,他職種に,脳卒中急性期における言語聴覚療法の有用性を認めてもらうことが肝心であり,言語聴覚士には高い専門性と豊かな想像力が求められている,と述べた。
 続いて,急性期から安定期まで一貫して治療・リハビリテーションを行なう施設に勤務する言語聴覚士として,鶴田薫氏(横浜市立脳血管医療センター)が,急性期の患者は症状の変化が激しく,継続して全身状態を把握していなければならないため,他職種と連携を取り合い,情報を収集することが重要であると述べた。加えて,患者や家族への指導も言語聴覚士の大切な役割とされることを紹介した。
 医師の立場からは岸田修二氏(東京都立駒込病院)が,神経症状が動揺しやすい急性期脳卒中患者,中でも意識障害を有する患者の場合には,神経心理的症候は特に捉えにくいことを説いた。しかしその中で,神経心理学的評価・嚥下評価が,言語聴覚士により,早期から的確に行なわれることは,在院日数短縮化が進む近年,転院先の決定も含めた治療方針の決定に有用であるとし,早期脳卒中患者への言語聴覚療法の必要性を示した。
 理学療法士の立場から遠藤敏氏(慶大病院)は,理学療法の学会における失語症や嚥下障害の演題が非常に少ない事実を挙げた。しかし,脳卒中患者の早期離床に取り組む昨今,理学療法士も徐々に失語症・嚥下障害の問題の重大さに気づき始めているとし,早期のうちに,言語聴覚士と連携を取ることを望んでいる,と強調した。

議論踏まえ,ガイドライン作成へ

 最後に作業療法士の立場から中村春基氏(兵庫県立総合リハビリテーションセンター)は,急性期・回復期・維持期の「きれめのないサービス」が利用者にとって重要であることを説き,作業療法への紹介患者の情報提供が不足している現状を紹介した。さらに,「きれめのないサービス」を充実させるためには,言語聴覚士の絶対数が不足していることも指摘した。
 シンポジストの発表後,座長の立石氏より,今回のシンポジウムの論議を踏まえて,急性期リハビリテーション小委員会で検討を重ね,急性期脳卒中患者への言語聴覚療法ガイドラインを作成する予定であることが報告された。