医学界新聞

 

激変期のいま,病院はどうあるべきか

第53回日本病院学会が開催される




 第53回日本病院学会がさる6月12-13日の両日,大道學学会長(大道会理事長)のもと,大阪国際会議場にて開催された。
 医療制度改革の真っ只中に開催された本学会では,「機能分化と医療経営」,「病院改革と医療IT」,「安全・危機管理と医療経済」,「中小病院の進むべき道」など,各医療機関にとって喫緊の課題がシンポジウムのテーマとして並んだ。
 また,「激変する時代にこそ,医療の原点に立ち戻って」という大道学会長の考えから,幕末・明治の激動期に最大の蘭学塾として全国から有望な若者が集結した「緒方洪庵の適塾」について,梅渓昇氏(阪大名誉教授)が講演した他,ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏(東大名誉教授)や昨年『ハーバードの医師づくり』(医学書院刊)で話題となった田中まゆみ氏(ブリッジポート病院)が,それぞれ講演するなど,多彩な企画が用意された。


■医療機関の機能分化は何をもたらすか?

 シンポジウム「機能分化と医療経営――病床区分選択へのファイナルカウントダウン」(座長=東北大 関田康慶氏)では,一般・療養の病床区分の届出締め切りが8月末に迫る中,機能分化の観点からみた現在の医療機関の状況や,今後の改革の方向性などが議論された。
 2001年3月の「第4次医療法改正」により,現在「その他の病床」とされているベッドを「一般病床」と「療養病床」に分けることとなった。この一般病床とは在院日数が14日程度で,看護基準は2.5対1の急性期医療を担うもの。慢性期医療を担う療養病床とは分化されることになる。この“病床区分”の届け出は,都道府県へ2003年8月末までに行なわなければならず,各医療機関にとっては現在最大の関心事の1つともいえる。

医療機関の効率化,重点化

 同シンポジウムで「機能分化と病院のあり方」と題して口演した厚労省の武田俊彦氏(保険局医療課保健医療企画調査室長)は,まず,「日本の医療機関は,病床数が多い,医療従事者が少ない,平均在院日数が長い,機能分化が進んでいない,という問題を抱えており,効率化と重点化が不足している」と指摘。特に,「全国的に特色のない病院群が多く,広く薄く手術をやっているところが少なくない。集約化が必要だ」とした。
 武田氏は,「患者の選択等を通じた効率化,重点化の必要性」を強調し,将来は急性期病床は平均在院日数が短縮化されるとともに,一定数に収斂し,急性期以外の病床は,リハビリ病床,療養病床などに分化していくとの方向性を示した。さらに「病床数の削減は,入院中心の医療から在宅中心の医療への転換であり,むしろ患者のニーズにかなう」との考えを示した。

診療報酬体系見直しの方向性

 一方,診療報酬体系の現状と課題については,「昭和33年に構築された現在の診療報酬体系は,すでに40年以上が経過しており,点数項目が大幅に増加する中,複雑でわかりにくいものになっている」と指摘。出来高払いを基本とする現在の体系では「検査,投薬等の量的拡大のインセンティブが働く」こと,「医療技術の評価や医療機関の運営コスト等の適切な反映が十分でない」ことなどの問題点をあげた。体系の見直しにあたっては,「入院医療について必要な人員配置を確保しつつ,運営や施設に関するコスト等についての調査分析を進め,疾病の特性等に応じた評価や医療機関等の機能に応じた評価を進める必要がある」とした。
 また,今後の課題としては,「規制改革」,「国民皆保険制度の維持」,「医療の質の向上」,「患者中心の医療」をあげた。この中で,特に規制改革については,「株式会社が医療に入ることができれば,競争が起こるとは考えていない。データに基づく情報開示こそが必要だ」と最近の規制改革をめぐる動きを牽制。「今後,社会保障費が伸びても欧米に比して高くはならない。社会保障をたたきすぎるのはよくない」と述べ,財政至上主義を批判した。
 最後に武田氏は「機能分化,機能連携の問題は,ぜひ患者の視点で考えてほしい」と訴え,口演を終えた。

■時代と地域の医療ニーズに合わせた機能分化を

 研究者の立場から「機能分化と医療経営」をテーマに口演した梅里良正氏(日大助教授)は「患者にとって必要なサービスは,疾病の治癒・回復過程で変化する。このような変化を考慮し,サービスの提供効率を高めることを考えると,施設の機能分担が促進される結果となる」と述べ,「機能分化とは一種の分業である」との考えを示した。しかし,その欠点として「分化により全体像が見えにくくなる」ことを指摘し,「地域のヘルスケアという総合的な視点から考えること,すなわち全体の調整・管理が必要だ」と主張した。

機能分化と医療連携なしでは医療経営は成り立たない

 また,近森正幸氏(近森会理事長)は病院管理者の立場から,「医療法人近森会の機能分化と医療経営」をテーマに口演。「近森会の歴史は機能分化の歴史」,「われわれは機能分化で医業経営をやってきた」という自身の経験から,「もはや機能分化と医療連携なしでは医療経営は成り立たない」との持論を展開した。
 近森氏はその中で,「機能分化には捨てるものと育てるものがある」,「医療連携は前方連携とともに後方連携も必要」と強調すると同時に,「一般急性期は単価を上げ,患者数を増やす方向へ,長期療養はコストを下げる方向へ機能分化しないとやっていけない」と現状を分析した。さらに,「病院の医療レベル,地域の特異性で機能分化の医療経営に与える効果はさまざまであり,ボトルネックを早く見つけて迅速な方向転換をすること」,「時代,時代で地域の医療ニーズにあわせて機能分化すること」が重要であると指摘し,発言を終えた。
 最後に登壇した加藤由美氏(宏人会社会福祉事業部主任医療ソーシャルワーカー)は,医療連携をコーディネートする立場から口演し,「医療経営における機能分化の推進には,紹介・連携システムの整備と充実が不可欠である」と強調。さらに,調査研究から「紹介・連携の充実している,病床規模の大きい病院では,診療報酬の改定によるマイナス影響が小さかった。一方,病床規模の小さい病院では,紹介・連携の充実群は,非充実群よりも改定によるマイナス影響が大きかった」と報告し,「中小病院独自の紹介・連携戦略の必要性」を指摘した。

●これからの看護師-医師関係

日本病院学会 田中まゆみ氏特別講演より

 頻発する医療事故の背景には,医療者間,特に看護師-医師間のコミュニケーション不足や硬直化した上下関係がある場合が多い。近年この事実は,マスコミでも大きく取り上げられ,対等なコミュニケーションがとれる組織構築こそが,医療事故防止には必要だと指摘されるようになった。

看護師,医師が現場ですべきこと

 日本でも看護師-医師関係の変革が話題となる中,日本病院学会特別講演では,米国ブリッジポート病院より田中まゆみ氏が招かれ「看護師-医師関係と患者の権利」について講演を行なった。
 田中氏は,米国においてもかつては看護師-医師関係が,硬直的な上下関係のもとに置かれていたことを,歴史を振り返りつつ解説。1960年代以降の高学歴看護師の誕生,公民権運動,80年代の患者の権利運動の影響等から,「90年ごろには,医療現場での医師の絶対的な優位は崩れた」と概説した。さらに,現場でのコミュニケーションの実際を具体例を交えて示しつつ,「現在,米国では看護師は法的にも,倫理的にも医師からは独立している。患者に不利益になるような医師の指示は拒否しなければならない責任があり,『患者の味方』としての役割が期待されている」と米国での状況を示した。
 田中氏は今後,日本においても看護師と医師の対等な関係を醸成し,安全な文化をつくる必要があると強調。
 その中で,「看護師はもっと医師の教育に参加すべき。救急対応やフィジカル・アセスメントの指導役に看護師は最適であり,ともに教え学ぶ中でよいチームワークが培われる」と提言した。また各医療機関で,今すぐにできる取り組みとして,医師に対しては,「看護師から言われたらすぐに実行すること」,「読みやすい字で指示をし,なぜその指示を出したかを看護師に説明すること」をアドバイス。一方,看護師へは「納得できなければ,医師へは食い下がること。わからなければ聞くべき。『自分がもし患者だったら』をキイワードに行動しよう」と呼びかけた。