医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護ケアの質向上に貢献する,時宜を得た出版

看護成果分類(NOC)
看護ケアを評価するための指標・測定尺度 第2版

マリオン・ジョンソン,メリディーン・マース,スー・ムアヘッド 編集/
藤村龍子,江本愛子 監訳

《書 評》黒田裕子(北里大教授・看護学)

診断から評価へ

 医療情報の電子化が加速化してきている昨今,看護実践を可視化するための用語の必要性が高まっている。標準化された看護実践用語の1つであるNANDA看護診断は,わが国の医療現場に定着の様相を見せている。さらにNANDA看護診断分類についても看護師のあいだで理解が深まってきている。しかしながら,看護成果とその分類についてはまだそれほどは馴染みがないかもしれない。
 本書は1997年に原書が刊行され,1999年にわが国でいち早く邦訳刊行された『看護成果分類(Nursing Outcomes Classification,以下NOC);看護ケアを評価するための指標・測定尺度』の第2版である。1999年に邦訳された当初はわが国ではまだ看護診断への関心についてもさほど高くはなかったために,この第1版の邦訳書の存在は一部の者の手中に収められていた。筆者はこの第1版の邦訳書に随分助けられた者の1人である。そしてその原著第2版(2000年)が2003年という,看護師の看護実践用語へのニードが高まっているまさにこの時期に邦訳刊行されたことは,今後の適用を鑑みても意義深いと考える。

看護ケアを評価するNOC

 さて,看護成果とは特定の看護診断に対して看護介入が行なわれた結果,どのような状態が患者に観察されたのかを示す,看護ケア評価を表現する用語である。看護成果は正確には,看護感受性患者成果(nursing-sensitive patient outcome)という概念であり,看護介入に感受性のある,敏感に反応する患者の成果という意味である(本書,頁36)。看護師の看護介入の結果,患者にどのような状態が観察されるのかというケア評価の視点は今後ますます重要となってくるだろう。現場ではこれまで,特定の看護診断に対して患者に行なった看護介入の結果をどう記録化し,その後の継続的ケアに結びつけていけばよいのかといった部分は長年にわたってなおざりにされてきた。
 本書で紹介されている看護成果開発に至る歴史的経緯には,この困難な課題に挑戦してきた学術的努力が克明に示されている。1991年8月から今日に至るアイオワ大学看護学部NOC開発チームのこの努力は興味深いとともに着実な手続きが踏まれてきたことが読み取れる。それだけにNOCがいかに価値ある業績であるのかが伺える。そして今後のわが国おけるNOCの適用は看護実践領域のみならず,研究や教育へと広がり,その貢献度ははかりしれないだろうと考える。

看護診断だけでは時代遅れ

 最後にもう1つ,この第2版ではNOCの分類構造が明らかにされている。分類構造が開発されたことで各看護成果へのアクセスが容易となった。医療情報システムに階層的に組み込むことも可能となったのである。さらにNANDA看護診断(2001-2002)とのリンケージ,ゴードンの健康パターンとのリンケージ,NOC適用ケースの紹介なども新しく加わり,第1版に増して充実した内容構成となっている。第2版の邦訳書は病棟に保管しやすいA5判でコンパクトに作られている点もうれしい。
 すでに看護診断だけでは時代遅れ,NOCが今後の看護ケアの質向上に貢献してくれることは間違いないだろう。ぜひとも早めの購読をおすすめしたい。
A5・頁648 定価(本体6,000円+税)医学書院


利用者中心のケアシステム構築のために

対応困難な事例に学ぶケアマネジメント
質評価の視点とともに

岡本玲子 編著

《書 評》村嶋幸代(東大教授・地域看護学)

居宅介護支援の重要性が認知された

 編者の岡本玲子氏は,大学院博士課程というかなり早い段階で,ご自分の専門を「ケアマネジメント」と決め,そのためのアセスメントや解決に向けての方法論を蓄積していらした方である。神戸大学助教授として勤務し始めてから,介護支援専門員と事例検討を続け,その成果を,雑誌「訪問看護と介護」へ連載してきたが,その連載から本書が生まれている。
 2003年4月の介護報酬の改定で,居宅介護支援費は一律850単位に増額された。その意味で,ケアマネジメントに対する社会的認知度が上がり,その重要性が世の中に認知されたと言えよう。

ケアマネジメントの質改善を図る

 ただし,本書で扱うケアマネジメントは,介護保険制度の中で介護支援専門員の仕事とされているものとは,若干異なる。つまり,「年齢や介護度にかかわらず,そこに支援ニーズを持つ対象がいれば,その人が適切なサービスを利用できるように誰かが行なう援助機能」を指している。ケアマネジメントの善し悪しが,その後の利用者の利益,QOLの向上や自立の促進に大きく影響することを考慮し,特定の制度の枠組みに縛られない利用者中心の考え方が述べられている。
 具体的には,岡本氏が開発した45項目のキーコンセプトと活動の局面をものさしとし,それをツールにした自己評価でトレーニングすることによって,ケアマネジメントの質の改善を図っていこうとする運動である。

チームによる事例検討を蓄積

 本書は,その試みを,ケアマネジャーのチームで行なった事例を蓄積したものである。チームによる事例検討を通したケアマネジメントのチェックポイント,具体策,改善策が提示されている。このため,本書は,ケアマネジメントの視点に使うことができるという利点がある。
 例えば,「ニーズ表出ができない人のニーズの捉え方」「潜在的なニーズをどのように捉えるか?」である。事例は合計10例取り上げてあるが,5例については居宅サービス計画書も添付されており,活用可能である。ちなみに,取り上げてある事例は,下記の通りで,いずれも,地域でよく遭遇する事例である。
 「サービス導入に否定的な介護者」「ケアの転換期を迎えた在宅難病療養者」「サービス導入が困難な痴呆性高齢者」「ニーズの表出が困難な精神障害者」「介護者からの虐待が疑われたら?」「病院から在宅への移行期のチームケア体制づくり」「閉じこもりがちなひとり暮らし高齢者」「ニーズが見えにくい初老期痴呆の事例」「在宅生活を希望するがんターミナル期の療養者」「介護力不足により機能低下が生じている療養者」
 地域でケアマネジメントに携わる方ばかりでなく,ケアマネジメントを教える看護・介護・福祉関係の教育者,また,自分のケアマネジメントを見直したいという方々に,広く読んでいただきたい好著である。
B5・頁132 定価(本体2,000円+税)医学書院