医学界新聞

 

医学生・研修医のための

BOOKREVIEW


ぜひ一度手に取って「このわかりやすさ」を感じてほしい

基本的臨床技能ヴィジュアルノート
OSCEなんてこわくない

松岡 健 編集

《書 評》太田 優(東海大学医学部6年)

OSCEを受ける前に欲しかった

 まず全体をざっと見て思ったのは「これ,OSCEを受ける前に欲しかったな……」である。
 昨年,一昨年と自校でOSCEを受けたが,特に初めて受けた時はOSCEがどのようなものなのかが,受けてみるまでイメージしにくかった記憶がある。
 本書では,OSCEとは何なのかということの説明はもちろん,医療面接から始まる一連の一般的なOSCEを,各ステーションごとに章を設け,説明がなされている。章ごとの説明も,多くの写真が非常に効果的に用いられており,受験者の手元が大きく写されているところがとてもよい。BSLやクリクラでは,先生と学生の距離が近く,少人数のグループで先生から手技を教授してもらえるため問題はまったくないが,大教室での授業やVTRで実際の『手技』について学ぼうとすると非常に困難である。
 しかも,今後,全国で臨床研修前の進級判定としてOSCEが用いられることを考えると,OSCEの受験者は,主にベッドサイドに一度も出たことのない学生である。彼らが学ぶのは大教室であり,VTRである。大教室の前で説明する先生の手元は見えるはずもなく,VTRも現行のOSCEに沿ったものはまだまだ少ない。

痒いところに手が届く学習者本位の構成

 本書はOSCEを初めて受ける者にも,非常に親切に書かれている。手袋の装着を例にとっても,ポイントごとに何枚もの写真で順を追って示されており,それらの写真も大き過ぎず小さ過ぎず,何ページにも説明が漫然と広がるという事態も見事に回避されている。著者らの細部への心遣いを感じる。
 今までは,○番のステーションの課題は外科の教科書,○番は循環器の教科書,内科の身体診察の教科書などと,色々な教科書をひっくり返さないとOSCE対策がままならなかった。それを本書は1冊で解消してくれている。本文も,診察手順に沿って箇条書きにすべきところは箇条書きに,解説として説明すべきところは文章となって,非常に見やすいレイアウトである。先に述べた写真に関しても,矢印や,模式図を重ねることにより,動きも含めわかりやすい作りとなっている。まさに痒いところに手が届く感がした。

現在実施されているOSCEに沿った内容

 初めて学ぶ者の立場を考えて書かれた本が少ない医学の教科書の中で,入門者にも見やすくわかりやすい本である。現行のOSCE対策の本で,これほど現状に沿っているものは他にあまりないように思う。
 たくさんの受験者の手元の写真と,図表の用い方,2色刷りの見やすい文章など,OSCEを控えている方に一度手に取ってもらい,他のOSCEに関する本と比較していただきたい。今後,初期研修の採用でもOSCEを取り入れる研修病院もあるようである。上級生にとっても,今までBSLで十分に学べなかった手技を本書で確認するのもよいだろう。きちんとした基本を知ることは大きな力と思う。
 全体を通し,著者らの学ぶ側に立った,読み手に「わからせよう」という思いが伝わってくる,非常に温かく細やかな心遣いを感じる1冊だった。
B5・頁184 定価(本体3,000円+税)医学書院