医学界新聞

 

救急医療の充実に向け多職種で議論

第6回日本臨床救急医学会開催




 第6回日本臨床救急医学会が,さる4月23-24日の2日間,山中郁男会長(聖マリアンナ医大横浜市西部病院院長)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。
 「みんなで考える救急医療」をメインテーマに掲げた今回は,パネルディスカッション「Medical Control Systemの構築に向けて」「小児救急医療における高次医療機関の役割」「これで良いのか救急医療施設」「検証:救急救命士の処置拡大と教育」の4題のほか,シンポジウム「21世紀の日本の救急医療体制」などが企画された。救急救命士制度発足から10年目を迎え,今年4月からは「指示なし除細動」も実施されるなか,熱心な議論が繰り広げられた。




 パネルディスカッション1「Medical Control Systemの構築に向けて」(司会=愛知医大・野口宏氏,川崎市消防局・大塚吾郎氏)では,まず演者が各地域のMedical Control(以下,MC)体制の進捗状況を報告した。鈴木範行氏(横浜市大総合医療センター)は,充実したマンパワーを背景にMC体制を構築した横浜市の例を紹介。石原晋氏(県立広島病院)は,各MC圏ごとに中核医療機関と中核消防機関を決めるなど県レベルでの活動を報告した。また福井道彦氏(大津市民病院)は,北米型ERをめざした大津市の運営を説明し,「MC体制は“病院前”医療責任体制の構築で,その評価基準は社会復帰率の向上」との持論を述べた。
 一方で,西山謹吾氏(高知赤十字病院)は,救急医療協議会が1度も開かれていないことを危惧するメールを県知事に送付してから,MC体制の構築が大事業であることを医師会に説いて実務担当者を集めた,作業部会開催に漕ぎつけるまでの経過を説明。MC体制の構築状況に地域差がある実態を明らかにした。

なぜMC体制が整備されないのか

 パネリストの発表を受けてのディスカッションでも,多くの地域でMC体制が不十分な現状が話し合われ,会場からも意見があいついだ。原因の1つとして,厚労省と総務省消防庁の連携が十分でないことがあげられ,特に,厚労省側から医療関係者に十分な情報が伝達されていないという指摘が多数あった。「3月上旬の医師対象の講習会では,MC体制が整った地域から順に,『指示なし除細動』を始めるよう説明を受けたのに3月末になると急に,『指示なし除細動』は4月にスタートするよう消防庁から指示がきた」と,会場から批判が出た。また他に,唐突に「指示なし除細動」を始めることになった体験も語られ,「おそらく日本全国で同じような話が出ている。体制が不十分にあるにもかかわらず始まるというゆゆしき事態だ」という声があがった。
 MC体制の地域格差が出た原因については,県レベルでの行政の対応の差があげられた。野口氏は県衛生部局と防災部のコラボレーションの欠如を指摘し,「責任体制が明確ではないから,医療側からプッシュしないと県が動かなかった」と実体験を語った。また,検証医師や指示医の専門性の確保など,医療関係者の対応に改善を求める意見も出た。
 ディスカッションの最後には,日本臨床救急医学会の今後の対策として,(1)「MC体制構築状況の調査」,(2)「科学的評価が可能なプロコトールによる科学的検証」の2点が提示された。

新たな救急医療体制の模索

 続くパネルディスカッション3(司会=埼玉医大総合医療センター・堤晴彦氏,厚労省・佐々木昌一氏)では,「これで良いのか救急医療施設」と題し,5人の演者がそれぞれの立場から現在の救急医療体制について発表,議論した。
 まず救急隊の立場から,小澤和弘氏(名古屋市消防局)は救急隊の病院前救護活動に対する医療施設側の関心度の低さについて言及。「救急隊の病院前救護活動の標準化が叫ばれているが,それを引き継ぐ医療施設との連携がなければ効率的な運営は難しいのではないか」と述べた。
 次に石原哲氏(白鬚橋病院)は,現在の2次救急病院の基準は国民のニーズを満たしていないのではないか,と指摘。求められているのは「迅速な診断,的確な治療」であり,輪番制を廃止して固定制にするなどの新たな2次救急病院の基準を行政レベルで設けることが必要だろう,と提言した。
 また,人口が散在する地域における救命救急センターの問題点として,米倉正大氏(国立病院長崎医療センター)は,医師・看護師の確保の難しさや救急車での搬送に時間がかかってしまうことをあげ,こうした地域では救命救急センターを複数設置するよりも,搬送システムの改善を図るほうが効果的である,と述べた。
 一方で,初期,2次,3次救急の境界を取り除く試みの1つとして濱邉祐一氏(都立墨東病院)は東京ERについて説明。初期診療専門のER診療医や,診療科でなく病態に基づく診療,そして救命救急センターの医師による全体指揮といった特徴をあげた。
 そして福田充宏氏(川崎医大)は,救急医療とは「医療の原点として,すべての診療科の医師が関与すべき領域として認知されるべきであり,地域住民,救急隊,行政を含めたすべての人々の努力によって完成されていくものである」と語った。
 議論の終わりに司会の佐々木氏は,「現在の初期,2次,3次といった救急医療体制は20年以上も前に補助金の立場からできたものであり,決して今のままでいいというわけではない」とし,「それぞれの地域によってニーズに合わせた体制をつくることが必要」と締めくくった。

救急専門医の養成が焦点に

 学会の最後には,これまでの4つのパネルディスカッションを受けて,シンポジウム「みんなで考える救急医療-21世紀の日本の救急医療体制」が開かれた。羽生田俊氏(日本医師会)は,救急医療体制の問題として専門医の不足と救急部門の不採算性をあげると同時に,「すべての医師を対象にしたACLS講習会を全国的に普及させたい」と医師会の今後の取り組みを語った。救急医療を長年取材してきた山崎登氏(NHK解説委員)も,「すべての2次医療圏ごとに交替制で24時間の救急医療体制をつくろうと思えば,今の数倍の医師が必要」と救急医不足を今後の課題とし,救急医のステータスや処遇の再検討を,医療機関・行政に呼びかけた。
 北島智子氏(厚労省)は,厚労省における今後の取り組みとして,(1)10床規模の新型救命救急センターの整備(現行基準である30床規模の救命センターが設置困難な地域に対しての対策),(2)救命救急センターの質の向上に向けた評価基準の見直し,(3)小児科以外の医師による小児初期救急患者診察のためのマニュアルの作成,などをあげた。
 最後に,島崎修次氏(杏林大)は,救急医療の充実のためにもっとも大切なこととして,(1)救急専門医の養成の確保(例として,臨床研修指定病院の救急診療科の設置と救急専門医の雇用),(2)救急の専門性の認知促進(救急専門医の広告認可),(3)救急救命センターの活性化と雇用の促進(特定機能病院の認可要件に救命センターの設置を入れることなど),(4)勤務環境の改善(夜間休日の扱いを当直ではなく勤務体制に組みこむ),の4点を提示し,シンポジウムをまとめた。


ニューヨーク,テロ現場での救助活動

第6回日本臨床救急医学会招待講演より




 今大会の招待講演では,「World Trade Center Attack-I just escaped when the tower came down」と題して,2001年9月11日,アメリカで起こった同時多発テロ事件の際に,ニューヨーク消防署のメディカルディレクターとして世界貿易センタービルで救助活動を行なったGlen Asaeda氏が講演した。
 100階以上あるビルから逃げようとして飛び降りた人々がいたことや,消火活動中にビルの崩壊に巻き込まれた消防士の話など,事件に巻き込まれた当事者の口から語られる生々しい当時の様子に,会場の参加者は一心に聞き入っていた。
 氏は,いつ建物が崩壊するかもわからない場所での救助活動の困難さ,そしてそれに救急チームがどう対応していったかを,事件発生から時間の経過を追って解説し,化学兵器や細菌兵器などのテロまでを想定した災害救助システム(ICS:Incident Command System)の構築の重要性を強調した。