医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


臨床と文学の間をつなぐ一冊

小説で読む生老病死
梅谷 薫 著

《書 評》宮子あずさ(東京厚生年金病院看護師)

病院は小説以上のドラマの世界

 中学・高校までの私は,文庫本の小説を読みあさる文学少女でした。特に三島由紀夫の短編が好きで,とりつかれたように読んでいました。高校の終わりには,森崎和江らの「サークル村」という一種の文学運動を知り,文学というものの骨太さを垣間見た気がしたのです。
 なのに今の私は,日頃小説を読むことはほとんどありません。本自体はとても好きで,硬軟問わない乱読。けれどもこの十年ほど,いわゆる純文学系の本には,食指が動かないのです。
 理由として思いつくのは,病院というドラマの多い世界で暮らしているため,物語に対するニーズが満たされているという事実です。今の私の日常が,文学の薫り高いドラマに満ちているとは思いません。むしろドリフのどたばたに近い。けれども,そこにはみんなが一生懸命になるほど滑稽な,人間の切なさ,哀しさがあふれています。
 一方,そんなどたばたの中でも,ふと文学的な感覚が蘇ることがあります。電話をすれば話もできる患者さんの家族が,さっぱり病院にはやってこず,実体がまるでつかめない時に,「カフカの『城』みたいな家族だなあ」としみじみ思ったりする。私が小説をたくさん読んでいた時代を思い出すのは,こうした場面ですね。
 読んですぐ忘れてしまった作品でも,自分の引き出しのどこかにはきちんと収まっていて,何かの拍子にするりと出てくる。文学作品というのは,そういうものなのかもしれません。

臨床経験豊かな医師が書いた文学案内

 ちょうどそんな体験が重なった時期だったので,臨床経験豊かな医師が書いた文学案内は,たいへん興味深く読みました。生病老死を題材とした文学作品が,ここではていねいに紹介されています。
 何より伝わってきたのは,著者が本当に文学作品を愛しているということ。自身の臨床での体験や,現代医療への問題意識に引きつけて,文学作品を紹介する手法は,その充実した内容とともに,私たちを小説の世界へと引き込むことでしょう。
 紹介された19人の作家とその作品の中で,私がぜひとも読んでみたいと思ったのは,以下の作品です。

・『センセイの鞄』(川上弘美)
・『おい癌め酌み交はさうぜ秋の酒-江國滋闘病日記』(江國滋)
・『戦中派不戦日記』(山田風太郎)

 病院での日常を少し離れて,別の角度からまたそれを見直すよりどころとして。あるいは,純粋にその文章の美しさを楽しむために。文学は,実にいろいろな楽しみがあるんですね。そんな文学の奥深さを教えてくれる1冊です。
A5・頁228 定価(本体1,900円+税)医学書院


「治験コーディネーター」をめざす人のための必読書

日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン準拠
CRCテキストブック

日本臨床薬理学会 編集/中野重行,安原 一,中野眞汎,小林真一 責任編集

《書 評》井部俊子(聖路加国際病院副院長・看護部長/日本看護協会監事)

期待される「治験コーディネーター」の誕生

 「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)の改定にともなって誕生した「治験コーディネーター」は,わが国の医薬品開発における倫理性,科学性,信頼性の向上に多大な貢献をしている。
 治験コーディネーターの養成は,日本看護協会をはじめとして,日本病院薬剤師会,文部科学省,厚生労働省そして日本臨床衛生検査技師会などが実施しており,毎年およそ700人の修了生を輩出している。各コースは,受講生の特性を考慮した教育プログラムとなっているが,治験コーディネーターとしての能力の“標準化”と質の保証が課題とされていた。
 このたび,日本臨床薬理学会が治験コーディネーターの認定を実施するための研修ガイドラインを作成した。研修ガイドラインは,「A.総論」,「B.CRCの役割と業務」,「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」,「D.医薬品の開発と臨床試験」,「E.薬物治療・臨床試験に必要な薬理作用と薬物動態のポイント」,「F.臨床試験の留意点」の6つのパートから構成され,さらに,実地経験を必要としている。

「治験コーディネーター」育成の教材として入門書として最適

 本書は,日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドラインに準拠して執筆されている。なお,序文に記されているが,本書では,「治験コーディネーター」ではなく,CRC(Clinical Research Coordinator)という呼称を採用している。つまり,「CRCの本来の守備範囲は,治療の枠を超えて,臨床試験を含む臨床研究全般にわたっている」からであり,「CRCが治験を支援する時治験コーディネーターとして働く」としている。したがって,本書の知識体系は,単に治験を支援するだけではなく,臨床研究全般を展望していこうとするものである。
 いずれにしても,現在,治験コーディネーターとして活躍している人はブラッシュアップの教材として,新たに治験コーディネーターにつこうとする人は,入門書として全体を学習できる良書である。
 『CRCテキストブック』をマスターすることによって,治験のみならずクリニカル・リサーチ・コーディネーターとしての飛躍が期待される。
B5・頁288 定価(本体4,200円+税)医学書院


私の出会った最良の脳卒中テキスト! 臨床実習にも最適!

《JJNスペシャルNo.72》
実践 脳卒中ケア
高木 誠 編集

《書 評》池田京子(新潟大教授)

 本書は,10年前に発刊された〈JJNスペシャルNo.26〉『脳卒中ナーシング』の改訂版である。筆者は,初版の企画にかかわった1人として,今回の新刊を拝読させていただいた。

治療・看護・リハビリが一体に

 医学は日進月歩と言われるが,まさに驚異的な進歩である。初版を書いた当初,私は臨床におり,ストロークユニット(脳卒中専門病棟)での脳卒中患者の専門的看護を夢みていた。
 その理由は専門病棟においてこそ,治療,看護,そしてリハビリテーションなどにかかわる人々が専門的知識と技術を持ち,チーム医療を提供できること,そのことが患者の予後に影響することを痛感していたからである。
 本書は,この考えを基盤に構成され,内容に新知見を盛り込み実践的に精選されている。とかく難解で取っつきにくい脳血管障害(脳卒中)の病態が,レベルを下げずにわかりやすく解説されていることは圧巻である。
 臨床で働く看護師にとって,常時手元において,ケアにいきづまった時,開いてみたくなるような解説書である。

基礎的知識と看護を実践的に解説

 本書の内容を一部紹介すると,次のような特徴があげられる。
 (1)脳卒中看護を行なう上で最も大切な,病態についての基礎的知識が実践的に解説されている。
・臨床で日々遭遇する高次脳機能の障害,言語障害,嚥下障害などのある患者に,根拠にもとづいたケアを提供するために必要な知識を,本書により学ぶことができる。
・急性期で生命の危機的状態にある患者に対して,看護師の適切な神経学的観察と判断は,病状の進行と危険を予測するために不可欠である。意識障害,視野・眼球運動障害,運動障害などの程度を観察し,病態と結びつけてアセスメントするために必要な基礎的知識と技術を,本書によって学ぶことができる。
 (2)本書の中心である脳卒中の看護を,急性期・回復期という病期に分け,各期の特徴に応じて実践的に解説している。
・脳卒中患者は,生命をとりとめたのちも何らかの機能障害を持ちながら社会で生活することを余儀なくされる。ゆえに,発症(入院)と同時に社会に戻ることを視野においた医療が求められる。特に回復期の看護についての章では,障害を持ちながら生活する人に視点をあて,機能訓練や日常生活行動訓練,社会的側面における問題解決にチームで取り組む必要性と,その具体的方法を学ぶことができる。
・退院後の生活に向けて,再発予防のための教育,服薬指導,社会的サポート(介護保険等)の側面にも触れている。また,日常生活援助は看護の独自の機能であるが,食事・排泄・清潔などの援助の方法についての解説からは,本人はもちろん,介護者への教育・指導方法についてのヒントも得られる。
 本書を読み終えて,看護大学で教鞭を執っている筆者としては「いいテキストに出会えた!」と実感している。これまで,講義に活用できるテキストはあるが,臨床実習で役立つテキストがなく学生も教師も苦慮していた。
 本書は,実践で働く看護師は当然であるが,臨床実習に臨む看護学生の副読本としても大変役立つと思われる。
AB判・頁248 定価(本体2,600円+税)医学書院