医学界新聞

 

100周年を記念し,ユニークな企画

第100回日本内科学会開催される


 第100回日本内科学会が,さる4月1-3日の3日間,名和田新会頭(九大教授)のもと,福岡市の国際会議場,他で開催された。
 第100回目を迎えた今回は,「21世紀の内分泌代謝学の展望」と題した会頭演説,偉大な医学者であった「橋本策」および「北里柴三郎」を取り上げた100周年記念講演(講演者はそれぞれ阪大 網野信行氏および愛知県心身障害者コロニー 篠田達明氏)が行なわれた他,「再生医療の展望」をテーマにしたパネルディスカッションや「ホルモンと長寿」,「心房細動治療の進歩」の2題のシンポジウム,15題の教育講演,5題の宿題報告,そして恒例となった「内科専門医によるCPC」が企画され,多数の内科医たちが参集した。


100周年を記念した企画

 第100回を数えた本学会のパネルディスカッションでは,「再生医療の展望」がテーマとして選ばれた。これまでの本学会で企画されてきた講演の内容は,基本的にすでに一般臨床で実用化されているか,近未来にその見込みが立っている医療をテーマとしたものが多く,再生医療のような新しい研究領域が取り上げられるのは異例のことである。しかし,日常診療に定着したものではないものの,「再生医療は,医療界で最も注目されている話題の1つでもあり,内科学会100周年の今回取り上げるのにふさわしい」という名和田会頭の強い意向から,今回特別に企画されたという。
 司会を務めた池田康夫氏(慶大)は「再生医療は21世紀の新しい医療の形態として注目されている。元になる幹細胞はどこに存在しているのか。臨床家にとっては,何が日常臨床に影響を与え,どのようなことを考えていかなければならないのか。討論を通じて,最新の動向や解決すべき課題を明らかにしたい」と本パネルの狙いを述べた(パネルの詳細)。

北里柴三郎「反骨の人生」

 一方,100周年記念講演では,橋本病の発見者として知られる橋本策について網野氏が講演した他,篠田氏が,細菌学者として世界の医学界に大きな足跡を残した北里柴三郎について講演を行なった。篠田氏は,苦学生時代,ベルリン留学時代,伝染病研究所時代と北里の生涯をたどり,破傷風菌の純粋培養と破傷風の血清療法,ペスト菌,赤痢菌の発見などの輝かしい業績に触れつつ,閉鎖的なアカデミズムや官僚主義と壮絶な闘いを演じつづけた北里の「反骨の人生」を浮かび上がらせ,聴衆に感銘を与えた。




再生医療の最前線を第一線の研究者らが報告

日本内科学会パネル「再生医療の展望」




 第100回日本内科学会では,パネルディスカッション「再生医療の展望」が行なわれ,日本を代表する第一線の研究者6人が再生医療の最前線を報告するとともに,今後の展望や問題点について,それぞれの考えを述べた。
 なお,司会に予定されていた永井良三氏(東大)が急用で欠席したため,司会は池田康夫氏(慶大)のみで行なわれた。

血管新生療法
HGFによる再生医療

 パネリストとして最初に登壇した梅澤明弘氏(国立成育医療センター)が主に「幹細胞とはどういうものか」について解説した後,室原豊明氏(名大)は血管新生療法の現状について報告。この分野では,特に日本人の研究者や国内施設が活躍している状況や,細胞移植による治療的血管新生に関する最近の治験動向などを併せて述べた。氏は重症の閉塞性動脈硬化症の患者への治療について,移植細胞から血管再生性のサイトカインを出し,刺激を与えるという治療法を紹介。これまで特に下肢の治療に使われてきたが,心筋の治療における有効性も示唆した。
 一方,松本邦夫氏(阪大)はHGFによる再生医療の展望を口演。氏は,「再生医療の中には,よく知られている幹細胞を使った医療の他に,すでに分化した細胞が傷害に応答して速やかに増殖・再生されるsimple duplicationによるものもある。HGFはとりわけこのシステムを介した組織再生において重要な機能を担う内因性物質であり,肝臓をはじめ,腎臓,胚,心血管系など,さまざまな組織において再生,保護因子として機能する」と解説した。
 そして,氏はHGFを中心とする再生・修復能の低下が慢性硬化性疾患の発症に関与する一方,HGFの補充が慢性硬化疾患からの治療・再生をもたらすという研究成果を示し,「疾患の根本的治療につながる」と期待を述べた。

ティシュエンジニアニング
自己培養間葉型細胞による治療

 また,新岡俊治氏(東女医大)は骨髄細胞を使用する再生血管移植の臨床について述べ,東女医大で2000年より行なわれてきた先天性心疾患患児の心内修復時における治療結果を示した。これによれば早期中期成績は良好であり,氏は「ティッシュエンジニアリング法は小児心臓血管外科治療において有用な方法で,今後の外科治療法の選択肢を広げる」との考えを示した。
 さらに,大串始氏(産業技術総合研究所)は,自己培養間葉型細胞を用いた骨関節疾患の治療について述べた。優れた安全性システムを構築した同研究所は,世界に先駆けて,種々骨疾患患者の骨髄から再生培養骨を構築し,その培養骨組織を用いての治療を行なっているという。氏は,本治療法について解説し,「現在,合併症も見られず良好な結果を得ている」との報告を行なった。

骨髄由来細胞による再生

 最後に登壇した佐田政隆氏(東大)は,骨髄をはじめとする成体幹細胞に関する最近の治験をオーバービューし,再生医療に利用するうえでの注意点などを提示した。氏は,成体幹細胞はその細胞が存在する臓器の細胞のみならず,他の系統の細胞にも分化する可能性に注目。特に骨髄由来細胞による臨床応用の現状を報告し,今後の発展に期待を述べた一方で,血管病の病態に骨髄由来細胞が大きく関与していることについても触れ,注意する必要があることも強調した。
 一方,フロアを交えての討論では,再生医療を進める際に「情報公開」や「デュープロセス」の重要性を指摘する声が相次ぎ,司会の池田氏は,「再生医療は21世紀の医療であり,期待は大きいが,どう臨床試験を行なっていくか,患者さん,国民の理解を得ながら進めなければならない医療だと思う」と述べ,パネルを締めくくった。