医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


保健活動の現場における調査・研究に最適

保健活動のための調査・研究ガイド
中村好一 著

《書 評》柳川 洋(埼玉県立大副学長)

時宜を得た調査・研究ガイド

 2002年10月にさいたま市で開催された第61回日本公衆衛生学会では,初めての試みとして「公衆衛生活動における調査・研究の進め方」,「研究成果のまとめ方と公衆衛生雑誌を目標とした論文の作成方法」という2つのワークショップを開催した。公衆衛生の現場で活動する専門職を主たる対象としたワークショップであり,会場の関係で定員をそれぞれ70名としたが,何しろ初めての試みでもあり,企画の段階では,参加者が集まるのかどうかさえわからない状況であった。しかし,実際に募集してみると定員をはるかに超える方々の応募があり,会場の都合でお断りせざるを得ない状況が生じた。
 第一線の保健活動に従事する方々は,日頃の活動の中で,質の高い調査・研究を実践しようという意欲を持ち,その結果をどのようにまとめたらよいかということに,深い関心を持っている様子がうかがわれた。しかし,残念なことに,現場での調査・研究を指南する良書がなかったのも事実である。このような状況の中で,このたび医学書院から刊行された『保健活動のための調査・研究ガイド』(中村好一著)は,誠に時宜を得たものである。

光る現場感覚で解説された内容

 すでに10余年前の話だが,著者の中村教授は自治医科大学公衆衛生学教室に勤務する前は福岡県に奉職し,県庁衛生部や保健所に勤務していた。本人は謙遜して「すでに浦島太郎状態」と言っているが,数少ない,真に保健活動の現場を知っている公衆衛生学の教授である。そして現在でも毎年,栃木県内の保健所や市町村職員を対象とした調査・研究の研修会を開催しているし,また,彼の教室には,保健所や行政の現場で働く多くの意欲的な人材が研究生として集まっている。もちろん,前述のワークショップの1つも担当してもらった。一方では現在,日本疫学会の会誌「Journal of Epidemiology」の編集委員長を務めていて,立派な学術雑誌として育つように努力している。
 このような中村教授が執筆した本書は,まさしく現場感覚で書かれた,保健活動の現場における調査・研究の入門書として最適なものである。研究を行なう意義に始まり,個人情報の保護,実際の調査の進め方,データのまとめ方,図表の作成方法から論文執筆のノウハウまで,調査・研究を行なう場合の一連の流れに沿った必須事項を過不足なく網羅している。さらに巻末には演習課題をつけ,現場での検討事項に対する解決の道筋や,実際のデータの解析方法を例示している。
 本人も認めているように,本書を読めば調査・研究を進めることができる,というわけではない。実際の調査・研究は,例えば冬山登山のように,知識(例えば地図の読み方)も必要だし,初心者はよきリーダーの指導のもとで経験を積む必要がある。経験だけで知識の欠落した状態,あるいは逆に知識のみで経験がない状態,いずれも危険であることは常識人にはすぐにわかる。
 本書は知識を得るためには最適なものであり,保健活動の現場で調査・研究を志す人はもとより,調査・研究が課題となっている医療・保健関係の学生にもお勧めしたい。
B5・頁144 定価(本体2,400円+税)医学書院


老いていく人の生活支援のための指標

論より生活-老いの世界とケア
頼富淳子 著

《書 評》五島シズ(全国老人ケア研究会理事)

変わることから始まった

 高齢社会になってここ数年,看護職の活動の場が多様になってきた。長年保健所の保健師として活躍していた著者は,10年前から杉並区さんあい公社(住民参加型福祉公社)に職場を移した。保健所保健師だった頃は,地域住民の生活実態の調査,また,衛生教育や保健指導などで,聞くよりも一方的にしゃべることが多かったと述懐している。
 福祉公社でケアコーディネートの仕事をするようになってから,訪問先でさまざまな出来事に出会う。本書では,地域で生活している老人が何を求めているのか,それらにどのように関わっていけばよいのかを,個々の事例を通してわかりやすく述べている。
 生きるということは,生活することである。老いて病気や障害のために,不本意にも生活の自立を失ったり,あるいは失う過程にある人は,家族や社会からの支援(保障)がなければ生きていかれない。「生活の支援」である。しかし,「生活の支援」というものは単純ではない。老化や疾病・障害によってもたらされた,さまざまな喪失による心理面の変化はもとより,老人の生活史や習慣,老いを,支援者は生活の自立を失っているという現実をどのようにとらえているのか,さらに家族や周囲の人の気持ちや関係など多様な面を考慮して行なうものである。
 一方的な指導は,ここでは通用しない。老人の気持ちに,そして家族の気持ちにより近づくには,著者自身が変わらなければならないことに随所で気づき,柔軟に変わっていく過程が興味深い。

他者からの学び,そして協働

 100人の老人には,100様の家族がいる。そして人の心は,日々刻々と変化していく。理解することの難しさを著者はいつも謙虚な気持ちで受け止めている。そして個々の老人とその家族の話しや仕草から,看護や介護の常識では思いもつかない多くのことを学んでいる。
 訪問看護師,ヘルパー,ボランティア,生活協力員など多くの支援者と協働しているが,老人に対する支援者の偏見とも思えるような一言から,老人が求めているものへと深くつなげている。
 地域ケアの中で気にかかることは,痴呆老人の支援のことである。「徘徊」と聞いただけで,「大変,どうしているの」と誰もが思うであろう。福祉公社では,ウォーキングが趣味の女性が徘徊ボランティアとして関わっている。住民参加型としての自由な発想など,読んでいてほほえましい一面もうかがえる。
 老人に先立たれた家族が福祉公社から脱会しないで,1-2年の間,月1度の訪問を待ちわびている。介護期間の長短や困難さに関わらず,家族の死を受け入れることは体験した当人でなければわからない。老いのケアには,家族ケアも含まれている。
 本書は,老人の生活支援の意味や目標を考える上で,地域ケアに携わっている者はもとより,施設ケア,病院の看護職にもぜひお薦めしたい書である。
B6・頁192 定価(本体1,800円+税)医学書院