医学界新聞

 

東アジアの看護博士課程教育を通じた看護知の発展に向けて

第6回東アジア看護学研究者フォーラム開催


博士課程教育の充実をめざして

 第6回東アジア看護学研究者フォーラム(The East Asian Forum of Nursing Scholars: EAFONS)が,南裕子会長(兵庫県立看護大学学長)のもと,さる3月7-8日,兵庫県の淡路夢舞台国際会議場にて開催された。国際的な協力・協同を通して東アジアの看護学博士後期課程(以下,博士課程)教育の発展をめざすEAFONSの国際会議が日本で開かれるのは今回がはじめて(EAFONSについては,本紙第2515号「『アジアの看護』を世界に向けて」を参照)。
 本フォーラムでは,「東アジアの看護博士課程教育を通じた看護知の発展(Development of Nursing Knowledge in East Asia through Doctoral Education)」をメインテーマに,基調講演,パネルディスカッション,ワークショップのほか,構成国である香港,タイ,韓国,フィリピン,台湾,日本の6か国から50題の研究発表が行なわれた。
 基調講演で南会長は,日本における看護学博士課程について,立ち上げ初期の苦労も交えながら現状を紹介。その上で,「陰と陽」「表と裏」といった,東アジア独特の見方・文化に基づいた看護は,西欧流の看護とは違った側面があり,それらを学術知として各国が協力しながら明らかにしていく必要性を指摘。同時に,それらを各社会でのニーズに合致するように位置づけていく実践的な研究も不可欠であることを強調した。
 続くスーザン・ゲネロ博士(ペンシルバニア大,米国)による講演では,博士号取得時の平均年齢が50代を超えるためその後の研究期間が限られてしまうといった課題も含めて,現在70を超えるプログラムがある米国の博士課程教育における現状を紹介。今日の博士課程にはそれぞれが根ざすコミュニティに役立つ実践的な研究が求められているが,もう一方ではさまざまな文化的背景を持つ学生がともに学ぶこと,またその経験を通した国際的な看護研究・看護実践の比較といったグローバル・ヘルスの視点も重要であることが力説された。

研究対象者への倫理を焦点に

 ワークショップ「アジアでの看護研究における研究対象者の保護(Protection of Human Subject in Nursing Research in Asia)」では,コーディネータを務めた片田範子氏(兵庫県立看護大学教授)による「研究対象者への倫理的配慮についてあなたは研究論文の要旨にどう記述しますか」との問題提起で始まり,各国の参加者が次々に意見を表明し,この問題に対する関心の高さがうかがえた。議論は,字数が限られる要旨の中に倫理的配慮を示す意義にとどまらず,西洋とは異なる家族システムのなかで研究に関するインフォームド・コンセントをどのように行なっているかをそれぞれ紹介して,共通点や相違点が検討された。また,各国の社会・文化状況によって異なるのではないかといった意見や,「重要なテーマなので次回のEAFONS国際会議で議論すべきでは」といった提案もなされた。活発な意見交換の最後に,片田氏が「社会的な影響を考えると私は限られた字数の中でも倫理的配慮を要旨に記したほうがよいと考えるが,参加者の皆さんがそれぞれの国に持ち帰って改めて考えてほしい」とのまとめを行なった。

東アジアの看護学研究の発展を

 パネルディスカッション「東アジアにおける看護学博士課程の協同の発展(Collaborative Development of Doctoral Nursing Programs in East Asia)」では,6か国の代表がそれぞれの国における看護学博士課程の歴史と現状,課題を紹介。フィリピンやタイでは博士号をもつ教員が足りないために,博士課程をなかなか増やすことができないという問題が共通していることが明らかになったが,非常勤の教員を派遣するといったEAFONS各国からの支援によってフィリピンのスリマン大学に博士課程が立ち上げられたことが披露され,会場の関心を集めた。また,これから一層の東アジア地域での看護知の共有・協力に向けて「誰がどの分野でどういった研究成果をあげているか」といった情報のデータベースをEAFONSで作っていこうとの提案や,今回の会議で公式雑誌となった『Asian Journal of Nursing Studies』への英文論文の積極的な投稿が呼びかけられるなど,今後の東アジアにおける協力を予感させる具体的な施策が数多く出された。
 次回EAFONS国際会議は2004年3月18-19日に香港にて開催される。詳しくはEAFONSのホームページ(http://nhs.polyu.edu.hk/nhs/schact/index.html)参照。
 なお,第6回EAFONS国際会議の基調講演,パネルディスカッションは『看護研究』36巻4号(2003年8月15日発行)に掲載の予定。