医学界新聞

 

日米の違いに学生たちは何を考えたか

米国人医師の授業導入し,医学生に刺激


 外国人医師による授業や教育機会を設ける医学部が増えている。他国との大学間の交流,医師個人の交流は年々増えており,当然の流れではある。しかし,ここ数年,特に内科診断学などの授業を中心に,英米系の医師を招く大学が増えている背景には,情報化社会の中で医療の世界でもいわゆるグローバル・スタンダードが意識されるようになったという事情がある。「グローバルスタンダードといわれる英米系の医療のあり方,医師の診療のスタイルとはどういうものか,学生たちに触れさせたい」と考える教員が増えてきているのである。
 では,そのような教育機会は学生たちにどのような印象を与えるのだろうか。さる2月7日,日本医大で行なわれた米国人医師による授業を取材してみた。


 「これからの時代,医学英語は絶対に必要です」
 こう語るのは,日本医大内科教授の飯野靖彦氏,内科診断学の授業を担当している。日本医大では,内科診断学は4年次の後半に設けられているが,その中の3時間の講義を2人の米国人医師に任せた。

異なる診療スタイルに接し,視野を広げる

 「日本の中だけ,あるいは日本医大の中だけの医学しか知らないようではいけない。外の世界では,どのような医療が行なわれているかを知ることによって,視野が広がる。単に英語を教えてもらうということではなく,診断学の講議の中で,日本とは異なる診療スタイルをみせたいという思いがある」
 飯野氏はこう話す。
 約3時間の診断学の授業を受け持ったのは,アンドリュー・シメル氏(横須賀米海軍病院・小児科)とポール・ラドン氏(同病院・家庭医療)。米国流の診断・診察のポイントを丁寧に解説した。米国流の診断・診察のポイントを丁寧に解説した。
 特徴的だったのは,「主訴は必ず患者さんの言葉で書くこと」「病歴を聴いただけで80-90%は診断可能だ」など,病歴聴取(History Taking)の重要性を繰り返し強調していたこと。そして,患者さん全体の身体診察をすることの重要性に触れたうえで,「患者さんをみていくつかの鑑別診断を頭に浮かべなければならない」「患者さんのすべての問題点を入れ,一番可能性の高い疾患から順に書いていくように」など,「症候から鑑別診断を挙げていく訓練の繰り返しが大切だ」と強調していたことである。彼らの診療スタイルは常に基本を大切にするものだ。

医学生も徐々に積極的に

 一方,授業の内容以上に,医学生たちを驚かせたのは,授業展開や教え方の巧みさ。内気で,表現べたな日本の学生たちも,授業が進むにつれて,積極性を発揮し,休憩時間や授業終了後には,2人の米国人医師の周りには,医学生たちの輪ができ,日米の医学・医療の違いなどについて,語りあっていた。
 当日通訳を務めた飯野氏は,「外国人が講義すると,こんなに学生たちが熱心に聴くとは驚いた。つたない英語でもがんばって話しかければ,何とかコミュニケートできるし,医学生たちにもよい刺激になったのではないか。この中から米国のレジデントに挑戦したいという学生でも出てくればうれしい」と話している。

●米国人医師たちの授業を受けた医学生たちの声

米国人医師たちの医学への熱意を肌で感じた

林 達郎(日本医科大学5年)

 講議を聴き始めた時から,私は圧倒されてしまいました。ただ講議を聴いているだけで,目の前にいる2人の米国人医師がどれだけの熱意を持って医学を学んでいるのかを肌で感じとることができ,そしてなぜだか米国で医学を学んでいるすべての人たちも彼らと同じに違いないと思ったからです。
 今までそんなことを感じたことはありませんでした。いかにすばらしい講議をなさる先生がいらっしゃっても,その熱意はその先生のものだけに過ぎず,ましてや日本で医学を学んでいる人たちへと思いが発展するわけもありません。これは私の間違った認識かもしれません。しかし彼らと照らし合わせた時,自分が恥ずかしく思えたのも事実です。医学に対する思いは同じはずなのに,この違和感はどこからくるのでしょうか。それは彼等が話していた日米の医学教育の違いからきたのかもしれません。
 しかし,医学部のマンネリとした雰囲気を作り出しているのは,私たちです。そこにこそ問題があるのかもしれないと思いました。すばらしい講議を聴かせていただき,ありがとうございました。

医療の中心にどう患者さんを据えるか

萩原 純(日本医科大学5年)

 2月初旬,米軍横須賀海軍病院のラドン医師とシメル医師の「Language & Philosophy of Western Medicine」と題した,米国における医学教育や診察・治療などについての講義を受ける機会があった。講義のほとんどが英語で進められたが,ときおり日本語の混ざったジョークでわれわれを楽しませてくれ,3時間近くの講義があっという間だった。
 診察法については,現在われわれがOSCEなどで受けた指導内容とあまり大差ないように感じられたが,現場で実際にそれを行なっているかどうかになると,日米にはやはり差があるようである。日本の病院の外来などを見学していると,OSCEとだいぶかけ離れた感じを受け,所詮OSCEの内容は理想論なのかなと思ってしまうが,シメル医師の話をうかがっていると,米国ではそれを積極的に実践しているようであった。保険制度や家庭医制など,日米には制度的な違いがあるため一概にその差を云々できないが,医療の中心にどう患者さんを据えるかについて,日米の差を通して考えさせられた。