医学界新聞

 

Vol.18 No.3 for Students & Residents

医学生・研修医版 2003. Apr

本年度よりマッチング実施!! 情報不足の中,よい研修を行なうために

特別企画 研修先をどう選ぶ?

有名指導医・研修責任者10人のアドバイス

 必修化される新臨床研修制度では,研修医と研修施設の組み合わせを双方の希望をもとにコンピュータで決定する「マッチング」が導入される(関連記事)。先日,国立大学附属病院が参加の意向を表明するなど,本年度から実施されるマッチングには多数の施設が参加する模様だ。「必修化第1世代」となる新6年生には,自ら主体的に研修希望施設を選ぶことが求められる。
 では,どのような施設が初期研修にはふさわしいのか?
 本紙では,優れた指導医や研修責任者として知られる10人の医師に,アドバイスをしていただいた。


■青木 眞氏
(感染症コンサルタント)

<はじめに>
 よい研修病院の風景というのはいつの時代も変わらない。そして著名な研修病院がいつまでも優れたプログラムを提供し続ける保証はなく,その逆に今までまったく無名であった病院が勢いのある新しい研修病院に変わる可能性も常にある。研修プログラムの質を左右するのは「ヒト」の問題で,ハイテク機器や専門診療科のデパートのような環境は初期研修に必須ではない。最低条件さえそろっていれば施設の大きさ,機械力などはほとんど関係がないのである。
<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
(1)プログラムは:
──まず,どんなに病院が古くて汚くても不思議と医局の雰囲気が明るく朝が早い。学閥がなく内科系と外科系の垣根が低く学生の見学が多い。
──カンファレンスが朝も昼も夕も目白押しであり,どれにも非常に臨床的なタイトルがついている。(例えば「痙攣発作,最初の1分間」)
──回診は毎日1-2回。チームは小振りでコモン・ディジーズが多く,受け持ち患者数は100-200名/年。常勤スタッフのいる忙しい1-3次救急室勤務も必須。
(2)指導医は:
──必ず教育係の軍曹(医長クラス)がおり,研修医から信頼され慕われている。
──若手から部長クラスまで「教えたがり」であり「教え上手」である。
(3)研修医は:
──指導医に遠慮がない。
──疲労しているが自身の臨床医としての成長を自覚しており,全般にhappyである。見学の学生に卒業後は自分の研修病院にくるように勧める。
<よい研修を行なうためのルール>
──「楽をしよう」としない。無駄を恐れず積極的により多くの症例の主治医になる。よい研修には一定数の症例がどうしても必要なのである。同様に重要なこととして
──「忙しさに酔わない」ことも大事である。不眠不休で大量の症例をこなしていると不思議な満足感,達成感が得られるが,ただ肉体労働に燃えるだけでは学習曲線は早い時期にプラトーになってしまう。臨床訓練は一種のソフィスティケートされたパターン認識の訓練である。「下痢ならばまず大腸型と小腸型,急性と慢性の軸で切り分けて診療のアルゴリスムに乗せる」といったパターンを意識することが大事である。よい指導医はこのパターンの呈示が上手であり,研修医は経験する重要な臨床パターンの蓄積を意識しながら「正しく忙しい」ことが重要。アナログ的なアートの世界はデジタルにパターンを学習して初めて見えてくる。
──「失敗を恐れない」。処置に伴う合併症は一定の確率で起きるものである。鎖骨下静脈に中心静脈ラインを入れようとして気胸を作ることもあろう。しかし気胸に対して胸腔チューブを入れられるようにしておけば将来,安心して鎖骨下静脈の穿刺を行なえるようになるだろう。要は安全な失敗の仕方,失敗から学ぶことである。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 「臨床研修施設を選ぶためのポイント」で述べたことの裏返し。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 No pain, no gain.


■生坂政臣氏
(千葉大学附属病院・総合診療部教授)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
(1)指導医にロールモデルはいるか。
(2)研修医の出身校に片寄りはないか。
(3)専任の指導医はいるか。
(4)研修医が指導医を評価するシステムがあるか。
 これらのうち1つでも満たしていれば,わが国の研修先としては悪くない。
 もしあなたのめざす医師像と重なるロールモデルの臨床指導を受けることができるのであれば,その医師がいる病院で研修するのがベストである。ただしロールモデルが1人しかいない場合は,その医師が異動する可能性も考慮しておく必要がある。
 特定のロールモデルがなく,研修先を大学病院から選ぶ場合は,そこに勤務する研修医の多様性が鍵である。研修医のほとんどが卒業生で占めているような大学病院は,なぜ他大学出身者が少ないのかを,研修経験のある母校の先輩などから意見を聞いたほうがよい。古い話かもしれないが,学閥のない雰囲気は研修の最低条件である。他大学出身者が研修医の何割かを占めているような大学病院であれば,それなりに魅力のある研修内容を持っていると考えてよい。
 一般病院では上級医も多くのデューティを抱えており,指導のための時間的,経済的支援は通常与えられない。したがって研修が成功するか否かは,指導医の意欲によって左右されがちである。臨床研修病院としての伝統があれば,一定以上の質は確保されるであろう。しかし新しい病院でも,北米から指導医を招聘するなど,卒後教育に予算を重点配分したプログラムは期待できる。また研修医が指導医を評価するようなシステムを有する施設は,臨床研修に前向きであると考えてよい。マンツーマンの指導もなく,経験こそ力なりとばかりに,いきなり十数名の患者を受け持たされるような病院での研修は一考を要する。
<よい研修を行なうためのルール>
 見て,成書で確認して,自分でやって,人に教える。この繰り返しである。
 まず指導医の手技や診療を見ることである。その機会を増やすために,非番の夜でも当直して,先輩の診療を見学するくらいの気持ちも必要であろう。見たらすぐに成書で確認する。指導医といっても千差万別なので,グローバルスタンダードとの比較は重要である。成書で細部を詰めたらシミュレーションを行ない,不明な点は指導医に尋ねる。疑問がなければ,次は自分でやる。手技内容にもよるが,原則として見学は1回に留める。一度みたら次は自分でやるつもりでないと,見学時の真剣味が損なわれる。
 そして成功したら,次は他人に譲る気持ちが大切である。手技,知見を独り占めにしないこと。人に指導するのは自分でやるのと同等以上の効果があり,また指導医としての素養を磨くことにもなる。この繰り返しにより,教え教えられる屋根瓦方式の指導体制が確立していくのである。己だけ成長しようとする雰囲気から,よい教育体制は生まれない。


■井村 洋氏
(飯塚病院・総合診療科部長)

<研修施設を選ぶためのポイント>
(1)初期研修教育を,施設の重要方針として表明している。
(2)見学のときに,こんな人たちと働いてみたいという医師が5名以上発見できる。
(3)急性期で未診断の患者ケアを,主治医として十分な数量受け持つことができる。具体的な数は,最低100/年間以上。週休2日で計算すると,最低2-3日に1人。
(4)プレゼンテーション,カルテ記載というアウトプット機能を常に行なう仕組みがある。それに対するフィードバックもある。
(5)働くことを誇りに思える。
(6)自分の将来の目的にとって獲得するべきものがある。
<よい研修を行なうためのルール>
(a)「おはようございます」「こんにちは」「さようなら」を言う。たとえ疲れていても,すべての出会う方に,あたりまえの挨拶を笑顔で元気よく行なう。今この瞬間からでも練習できます。今回の提案の中で,もっとも重要なこと。残念ながら,こんな簡単なことさえ苦手な医師がいる。
(b)全人的医療など大きなことを言う前に,公共の場所で困っている方を見かけたら,手助けをする習性をつける。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
[1]担当する患者の大半の診断と方針が決定済み。
[2]スタンダードを超えているケアを行なうことが多い。
[3]急性期疾患・問題が少ない。
[4]先輩研修医に,医師として「カッコいい」と思える人がいない。
[5]病院全体で統一したルールを作ろうとしていない(最低でも心肺蘇生時の)。
[6]病院の方針が不明確,病院トップの顔と声が見えない。
<医学生・研修医へのアドバイス>
[a]研修医と学生の違いは何か,を常に考えながら生きていってください。
[b]自分が本当にやりたいことは何か,という問いを忘れないようにして研修を続けてください。しんどいことなのですが,問う価値のある疑問です。


■大西弘高氏
(佐賀医科大学/総合診療部)

<研修施設を選ぶためのポイント>
 一般的に,卒後臨床研修施設を教育的見地から評価する際,
(1)研修施設の組織マネジメント
(2)教育プログラム(顕在的カリキュラム)
(3)指導医との教育的関係
 の3つの側面を考慮すべきです。教育プログラムだけでは実際に何を経験し身につけるかを規定できず,むしろどのような患者を診るか,診療への責任がどの程度与えられているかが研修を決定づけると言えます。例えば,指導医が研修医を単なるデータ報告役と位置づけている場合,自ら問題解決ができるようになるための研修とは言えません。各ローテート先の学習環境に研修責任者がどの程度配慮しているかは研修組織運営の鍵を握ります。目玉になる科があったり有名な指導医がいたりしても,それ以外のローテート先の研修環境が悪いという場合もあります。
 ただし,何もかも完璧というプログラムは世界中どこを探してもありません。病院見学では,研修医たちの士気(モラール)や,研修医同士が競争的か協同的かといった要素を見て研修先を判断するほうが間違いのない臨床研修施設選びにつながるのではないかと思います。
<よい研修を行なうためのルール>
(a)タイムマネジメント-仕事前にどのような順序で仕事をすると効率的かを考えてから動く。仕事の効率を上げ,研修の質に跳ね返ります。
(b)患者への必要な情報の伝達-例えば採血はいつどこで,薬は何がいつから,を忘れず伝えること。患者の信頼を得るために不可欠です。
(c)記載業務-症例サマリー,紹介状や返事,保険関連書類などを手早く処理すること。医師は年齢とともに管理的業務が増え,それに伴う記載業務は一生ついて回ると考えてください。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
[1]尊敬できそうな医師に出会わなかった研修施設。ロールモデルのいない研修を受けると,将来の道が開けません。
[2]研修医同士の連携の悪い施設。互いの情報交換や愚痴の言い合いが,効率よく人間的な研修には必要でしょう。
[3]研修内容よりも医師の専門性をウリにしようとする施設。卒後初期研修には臨床の基本的技能や態度がもっとも重視されており,その2年間を専門医になるための準備期間と位置づけるのは間違いです。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 卒後初期臨床研修で重要なのは,まずは社会人として,そして医師というプロフェッショナルとしての仕事が果たせるかどうかです。虚勢を張るのではなく,新米医師として自分の力を見極めた上で仕事ができることが重要でしょう。次に,患者さんの病(疾病だけでなく,その裏にある心理や生活も含めたもの)を把握し,それを今までに学んだ知識や経験と結びつけるよう努めてください。初期研修で学び取ったことは一生を左右します。焦る必要はなく,一歩一歩よい医師をめざしていただくことを願っています。


■大生定義氏
(横浜市立市民病院/神経内科)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
(1)経験症例数と種類が多い。
 やはり,なんといっても初期の研修には経験症例の数と種類がなくてはならない。救急体制のある総合病院(あるいは群)が最適であるが,規模が大きい必要はない。熱意のある指導医や身近なところに目標となる先輩・指導者がいることが望ましいが,必須ではない(自分がその先駆者にという気持ちがありさえすれば)。
(2)研修医のQOLが保てる。
 研修医とはいっても,人間としての生活が成り立たなくてはならない。衣食住に加え,睡眠時間や余暇の過ごし方が,ある程度自分のスタイルや人生観に合うかも大切なことである。研修以外のプライベートの生活はどうなっているのかを先輩にチェックしておくのもよい。
<よい研修を行なうためのルール>
(a)研修医という立場をわきまえていること。患者・家族の気持ちになって,不安を与えないように正直な態度で望む。
(b)わからないことは,適切な人にきくこと(検査のことは経験のある技師などに)。その場,その時,誰に尋ねるのが一番よいかを判断できることも重要な能力である。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 研修のためのハードとソフト。研修医のためのスペースをどれくらいとっているか(レジデントルームがあるか。机やロッカーの設備は十分か。図書室など勉強のサポートがあるか)。
 研修責任者,ローテーション科の教育担当者が明確か。評価システムがあるか。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 医師は,だれでも生涯研修医である。2年間の臨床研修期間だけではなく,医師としての短期・中期・長期の研修計画を自分自身で作るような気持ちで,その後の道を進んでほしい。「寄らば大樹」ではなく,自分の道は自分で切り開いていく気概を持ちたいものだ。研修はこれでOKと思ったときに進歩は止まる。自戒の意味も込め,よい意味での不全感,向上心の持続が重要と考えている。


■北村 聖氏
(東京大学教授・医学教育国際協力研究センター,厚労省新医師臨床研修制度ワーキンググループ委員)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
 どの施設で研修をするかは実は大きな問題ではありません。初期研修の2年間では,医師としての基本的な姿勢,患者さんに対する接し方や責任感を身につけることが第1であり,どこに行っても学ぶべきことはたくさんあります。しかも,臨床研修施設は一定の基準で指定を受けているわけで,絶対に駄目だという施設はありません。
 それよりも,陳腐な言葉ではあるけれども,研修医自身が「やる気」,「好奇心」,つまり「学びとりたい」という気持ちを持つことが大切です。学生時代は受身の学習だけでも通用しますが,臨床研修では自主性なくして成長することはできません。それがよい研修をするための要素の95%を占めます。しかし,残りの5%で,敢えて研修医にとってのよい研修施設を選ぶとするならば,
 (1)ディスカッションができて自主性を重んじるよい指導医がいること
 が一番でしょう。
 どんなに丁寧な指導医でも,「あれをしなさい」「これを勉強しておきなさい」というのは二流だと思います。
 「君はどう思う?」「この患者にどうしたらいいと思う?」と常に意見を求め,患者さんに害がない限り,「じゃあ,やってごらん」と言い,やったうえで何が起こってよくなったかを確認する。「じゃあ,次にどうする?」というように,ディスカッションができて,自主性を重んじるのが優れた指導医です。一人前として扱ってくれること,意見を言わせてくれること。「教育はディスカッションである」というのが僕の持論です。
 もう1つは,
 (2)患者さんとの信頼関係が築きやすい環境にある
 ということが大切です。
 いい研修施設の患者さんは医者と信頼関係がある。それぞれの患者さんを大切にできて,人間関係が築きやすい環境のある病院がよいと思います。
<よい研修を行なうためのルール>
 (a)できれば無駄話もしよう
 例えば,患者さんの生い立ちを聞く。あるいは,患者さんの職業のこと,専門のことなど聞いて自分が勉強する。そのなかから病気を考えるヒントをみつけることもあります。
 (b)困った時は,「この人が自分の親だったらどうするか」と考えよう
 研修医は,教科書に書いてあるようなことで迷うことはないはずです。治療法の決定などで,どちらを選んでも結果が見えないような時に迷うわけです。その時には,「自分の親だったらどうするか」「自分が患者だったらどうしてほしいか」という基準で考えましょう。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 [1]まずは指導医に尽きます。教育に興味のない人ばかりがいる施設は不適当です。
 [2]法外に高い賃金を払っている研修施設は,何かあると思ったほうがいいです。
 初期研修の2年間で稼ぐ必要はありません。本当に稼ぎたい人は,いずれ実力がついた時にお金のほうからやってきます。高いお金を払うというのは,研修医を勉強させる対象ではなくて,労働力としてみていることが考えられ,要注意です。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 医学生たちに十分な情報提供がされてこなかったという反省すべき面もありますが,それにしても当事者である医学生が新しい臨床研修制度について意見を言わなすぎました。今からでも遅くはないので,当事者として,よりよい研修を受けるためにどういう制度をつくってほしいかというようなことをもっと発言するべきです。

(談)


■武田裕子氏
(琉球大学附属病院/地域医療部)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
 まず,臨床教育にプライオリティがおかれていること,すなわち病院として研修医教育を大事と考える姿勢があるかどうかが重要であろう。診療に必須のカンファレンスや回診も効果的な教育の機会となるが,その他に,研修医教育のためのレクチャーやセミナーの時間が確保されている施設は教育病院として優れているところが多い。
 双方向性のフィードバックが行なわれる体制にあるかどうかも,教育を重視しているかを知る目安となる。日々の診療で行なわれる指導のほか,ローテーションの最後など研修の節目に,自分の知識や技術,態度が,研修医として十分なものであるか,改善すべき点はどこかなど具体的な指導が受けられるプログラムは,指導医が教育に時間を割く余裕のある,教育システムの整った施設と考えられる。また,研修環境について研修医同士が話し合えるミーティングが定期的にもたれていたり,プログラム評価の機会が研修医に与えられているなど,研修医の要望を研修プログラム改善に反映する仕組みがあるところは,発展性のある教育病院と言える。
<よい研修を行なうためのルール>
 患者さんのみならず自分の身を守るためにも,感染管理の基本を実践してほしい。診察前後の手洗い,採血や点滴路確保など血液や体液に触る可能性がある時の手袋の着用とその後の手洗い,注射針にリキャップしないなど。研修開始時に修得できれば,将来にわたり臨床医としてあたり前のこととして実行できる。HBVの予防接種も忘れずに。こうした感染管理に力を入れている病院は研修先としてもおすすめである。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 研修施設決定にあたっては,候補にした病院を訪問し,そこで研修を受けている研修医に実際に話を聞くことを勧める。その施設の研修プログラムの優れたところとウィークポイントは何か,もう一度研修先を選び直せるとしたら同じ施設で研修したいと思うかをなるべく多くの研修医に質問するとよい。研修を修了した医師がその後どのような進路をとっているかを尋ね,自分のキャリア形成に重なるものかどうかも確認する。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 自分がお手本としたい医師(ロールモデル)や,自分の進路や個人的な問題に対して親身に助言してくれる経験豊かな医師(メンター)を見つけることを強く勧める。医学部卒業後,医師としてのアイデンティティの確立やキャリア形成に悩むことは多い。ロール・モデルが身近にいると,キャリアと家庭生活の両立や人間としての個人的な成長を考えるうえで大きな励みになる。また,研修中にメンターを持つことのできた医師は,自分自身の能力に対して自信を持ち,キャリアに対する全体的な満足度が高いという調査結果がある。


■尾藤誠司氏
(国立病院東京医療センター/総合診療科)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
 初期臨床研修の最大の目的は,将来どんな専門に行っても共通するような,医者としての基本土台を築くことです。その旅路はとてもハードなものです。肉体的にも精神的にもめげることは2度や3度ではないでしょう。そんな時に必要なのが,“わかりあえる仲間”の存在です。困った時,めげそうな時に頼りになるのは,やはり同期の仲間や,先輩研修医からの助言です。また,自分がちょっと手抜きモードに陥りかけた時も,同期仲間のがんばりが,自分を奮い立たせてくれるための最高の刺激剤になります。
 同期仲間は就職してからでないとわからないので多少の運がありますが,今研修医1年目の先輩を見て,彼女ら・彼らの雰囲気をつかむことができれば,大きく外れることはありません。確かに,最低5-6人の同期は必要かもしれません。また,研修医・レジデント専用の宿舎がある病院のほうが環境的におすすめです。
 2泊3日くらいでよいので,ぜひ興味のある病院の見学にどんどん行ってください。資料ではわからない部分がたくさん見えてきます。病院内には必ず“研修医の溜まり場”なるものが存在します。そこで昼食を一緒に食べながら,研修医に質問しまくりましょう! 夜は当直業務につきながら,やはりその溜まり場でみんなを観察してみてください。その時に見られる研修医の表情がなによりの情報です。
 また,日常業務で,研修医と上級医がいかに仲良くケンカしているかしっかり観察してみましょう。それができている病院はOKです。その意味では,後期レジデントの若い医師がたくさんいる病院は期待できます。
<よい研修を行なうためのルール>
(1)まず,初期臨床研修はあなたのためというより,患者さんのためにあるということを常に忘れないでください。
(2)研修は,“受けるもの”ではなく,“するもの”だという気持ちを常に持ちましょう。
(3)無知をさらけ出して何でも聞くようにしましょう。
(4)同時に,上級医の話を鵜呑みにせず,自分でも調べる癖をつけましょう。
(5)年に3度,自分が研修を通して得たもの,そして失ったものについて自己を顧みてみましょう。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 “病院”や“病院の研修システム”や“病院に来る患者さん”に関していえば,ふさわしくないというものはないと思います。
 ただ,カンファレンスなどで,上級医があまり“えらそう”にしているところは問題ありです。逆に,研修医が調べてきたことに対して「へえ,知らなかった。よく調べたね。」と謙虚なコメントをしている上級医がいるところはある程度信頼できます。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 “自律性の重視”と“放任”は別物です。医者になって最初の1年は手技を中心に早く“1人でできる”ようになりたいと焦ります。ただ,ちゃんと学ばないまま,本質をはずして“できる”ようになっても,それは一人前の医者への遠回りですし,なにより患者さんのためになりません。


■藤沼康樹氏
(北部東京家庭医療学センター所長,生協浮間診療所長)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
(1)研修・教育の雰囲気あるいは学習環境が,「活動的」で「協同的」で「反省的」な学びを促している施設。
 「活動的な学び」とは,単なる見学や受動的な情報の収集ではなく,実践による学びを重視すること。「協同的な学び」とは研修医の仲間で学び合い,支え合い,励まし合うこと。仲間より抜きんでることをめざすような競争的な雰囲気がないこと。「反省的な学び」とは,自分の経験の振り返りを重視し,学びをより深くすすめることです。
 こうした学習・教育環境があって,はじめて研修医は自分の可能性を最大限のばすことができるでしょう。そうした環境ではじめて研修医集団が生き生きと学ぶことができます。研修医が輝いていればまずそのプログラムは大丈夫です。
(2)研修プログラムがめざす医師像を明確にしている施設
 研修必修化により,卒後初期研修はすべてスーパーローテーション(SR)方式になります。このSR方式での学びが妥当性を持つためには,このめざす医師像あるいは最終教育目標(learning outcomes)の設定が絶対必要です。目標がなければ,ローテート先で何を学ぶかが決定できません。この点を確認しましょう。
<よい研修を行なうためのルール>
 必ず,日々の学びを振り返ることです。この振り返りは,できたこと,できなかったこと,学びについての思いや感情,今後の希望などをカバーしてください。できれば指導医や研修医の仲間と一緒に学びの自己評価をしましょう。それは必ず記録保存しましょう。自身の成長を自覚するためにこれらは必須です。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
 「臨床研修施設を選ぶためのポイント」で述べたことの逆の雰囲気を持つ施設です。特に過度に競争的な雰囲気の施設は初期研修にはふさわしくありません。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 将来どんな方向に進むにしても,すべての医師に必要なことは,今後激変するであろう医療環境の中で,生涯にわたって,患者さんから学び,自身の実践から学び,仲間から学び,新しい医学の発展から学ぶことができること,すなわちlife-long learnerになることです。
 そのための基礎的な力を研修で身につけて,世界中の人たちの役に立てる医師になることを期待しています。


■松村理司氏
(市立舞鶴市民病院副院長)

<臨床研修施設を選ぶためのポイント>
(1)質疑応答の活発な医療空間であること
 一定の礼儀は守られつつも,臨床的疑問に関する話し合いが世代の壁を越えて活発に行なわれている様子は,見学などで前もって確認しておきたいものです。これは,論理的な分野でも倫理的な分野でも大切な臨床姿勢です。
(2)屋根瓦式の教育体制が敷かれていること
 医学的話し合いの精神は,屋根瓦式指導体制の下ではじめて実現できます。研修医が日常診療の具体的な事項の多くを教わるのは,ちょっとだけ先輩の医師からであるべきです。See one, do one, teach one. ですよね。
(3)回診やカンファレンスが毎日行なわれていること
 年嵩の指導医が参加している風景も欠かせません。必ずしも多弁でなくてもいいです。
<よい研修を行なうためのルール>
 患者さんへの挨拶や笑顔を保てるように自分の心根をコントロールするのが,臨床医の基本だと思います。私の30年近い医者人生を振り返りましても,ここがはずれた時の思い出には後悔がつきまといます。誤診への近道でもありました。
<研修をするのにふさわしくない施設を見分けるポイント>
(1)検査がやたらに多いこと
 検査が多く,その適応を研修医が答えられない病院は,「検査漬け」です。豪華な画像診断機器に満ち満ちていても,「プライマリケア」からほど遠く,初期研修には不向きです。これは,薬の使い方に関しても同様です。
(2)大きな黒字を出していること
 詳細は略しますが,少なくとも日本では,大黒字は研修・教育には不向きな環境です。研修医の給料が高すぎる病院も,教育的ではありません。もちろん,低いからといって,教育が保証されるわけではありませんよ。
<医学生・研修医へのアドバイス>
 日本の現状で100点の研修病院はありません。満点に近いところも,ごく限られた数ですので,みんなが参加できるわけではありません。また,そういうところで研修を受けた研修医の「予後」がよいという証明は,まだなされていません。因みに,私の研修医時代は,誠に牧歌的な環境の中で,アルバイトと映画館通いと漫画(白戸三平)読破に明け暮れた日々でした。