医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


今,日本の医療に求められる医師育成のあり方を提示

“大リーガー医”に学ぶ
地域病院における一般内科研修の試み

松村理司 著

《書 評》黒川 清(東海大総合医学研究所長)

待望の舞鶴市民病院における臨床研修報告書

 待望の「大リーガー医」報告書が出た。うれしい。何しろ松村先生の舞鶴市民病院では,不定期にだが定期的に(irregularly regularly),主として米国から臨床教育に優れた人たちをお招きして,粘り強く実践してきた米国式の臨床研修の成果を,時間はかかったもののかなりあげておられることを聞いていたからである。この舞鶴市民病院と沖縄県立中部病院は,一部の「その筋」の人たちの間ではよく知られていたことなのだが,多くの日本人がありがたがる大学の「肩書き」や「ブランド」によらない,「本当の」実力のあることが広く知られており,日本での卒後臨床研修義務化へ向けての動きの中で,真剣な若者たちの間では圧倒的に人気上昇中というところであろうか。しかし,ここまで来られた松村先生の孤軍奮闘の歴史と人との出会い,エピソードなど,楽しくて,おもしろくて,熱中して読んでしまった。私の知っている「大リーガー医」も何人か登場するし,また私自身も舞鶴プログラムから東大,東海大にも来ていただいて回診をお願いしたりして,楽しい思いをさせていただいた。

「大リーガー医」がもたらしたもの

 しかし,本当に苦労されましたね。ご苦労さま。確かにはじめは瀬戸山元一院長(現高知県・高知市医療連合理事)という,これまたスーパーヘビー級の人だったからできたのかもしれないが,松村先生の涙ぐましい苦労と努力に敬意を表します。また,これらの「大リーガー医」たちの1人ひとりの人となりのすばらしさには感心します。しかし,このような先生が米国やイギリスなどに多いのは確かに事実ですね。そして舞鶴を経験された「大リーガー医」との長い交流の始まり,日本の将来を担う多くの若い医師たちが機会を得て留学するとか,「大リーガー医」から見た日本の医療と医療制度,臨床研修制度と内容などなど,楽しい。また日本の研修医の反応がとても楽しい。
 これを見ていくと,若者にこのようなすばらしい「大リーガー医」に接する機会を作ったことが,どれだけ大きなインパクトを与えているかは想像しただけで楽しい。何しろこれらの「大リーガー医」を私の東大での臨床講義に招待したり回診をしたりしたことからでさえも,学生が1か月程度クラークシップに出かけて先生のお宅に居候させていただいたとか,アメリカでの臨床研修にチャレンジしている人たちが,東大からも何人もすでに出ていることがその傍証でもあろう。
 本書に登場するStein先生とは後で亀田にお招きいただいたし,Stein,Tierney先生には何回か東大,東海大に来ていただいたし,Sharma先生もすばらしい(彼とは南カリフォルニア大で3年間一緒でしたよ,私は腎臓のセクションでしたけど)。おかげでTierney先生には彼の編集する有名な『Current Medical Diagnosis and Treatment』の「Fluids, electrolytes, and acid-base disorders」に,もう何年も貢献させてもらっている。

外の本物の世界を知ることで問題が見えてくる

 これこそが私が常日頃言っている「他流試合」をし,「混ざる」ことのメリットなのであり,日本の多くの「権威」が,日本ではできない理由とか,日本には(「自分には」が本音でしょうがね)なじまない,などの言い訳しか出てこないような指導者が多いところに,この国の問題があるのです。卒後臨床研修が義務化されるにあたって,松村先生の「大リーガー医」との経験からのいくつかの提言,そして日本の明治以来ほとんど変化していない旧態依然とした日本の医療と医師の育成,研修の制度へのいくつもの提言をされている。これらは私が常日頃から言っていること(www.KiyoshiKurokawa.com)とほとんど同じであり,つまりは「外の本物の世界」を知ることによって初めて日本の問題が見えてくるということの1つの典型であろうと思う。
 「大リーガー医」と「彼我」の違いを肌で繰り返し感じた経験から,松村先生がこの本で一番言いたかったことは,第7-9章「卒後臨床研修の刷新の方向」,「浮かび上がる問題点」,「医療現場の和魂洋才」に書かれている日本の将来なのではあるまいか。だからこそ,ぜひとも医学教育・研修にかかわるすべての人たち,また医学生,研修医にも広く,そして「よーく」読んでほしい本である。また,学生さんは舞鶴をたずねていったらと思う。
 最後に,2002年に京都で私が主催して開催された国際内科学会のケーススタデイに,米国内科学会から推薦された3人の先生はすべて「舞鶴OB」,松村先生の「大リーガー医」であった。うれしいことですね。松村先生がこのことを含めて何箇所かで私のことに言及されており恐縮しました。最後に個人的には残念ながら存じ上げる機会がありませんでしたが,お人柄が目に浮かぶようなGerber先生のご冥福をお祈りします。
A4・頁328 定価(本体2,000円+税)医学書院


全国の医学生にとって強力な助っ人が登場

基本的臨床技能ヴィジュアルノート
OSCEなんてこわくない

松岡 健 編集

《書 評》福島 統(慈恵医大教授・医学教育研究室)

平成15年度からほぼ全医学部で共用試験OSCEを実施

 松岡健先生が,2000年から「週刊医学界新聞」に連載された「OSCEなんてこわくない」が単行本化された。共用試験OSCE(客観的臨床能力試験)が,平成13年度は12校の医学部,平成14年度は59校で実施され,そして平成15年度(第3回トライアル)は,80校のうちほぼすべての医学部がこれを実施する勢いである。この時期に『基本的臨床技能ヴィジュアルノート-OSCEなんてこわくない』が出版されたことは,タイムリーであるというだけでなく,全国の医学生にとっては強力な助っ人を得たことにもなる。

わかりやすい写真と解説で効率的に学習できる

 臨床実習開始前の学生評価のための共用試験システムでのOSCEでは,医療面接,頭頸部診察,胸部診察,腹部診察,神経診察,脈拍・血圧の測定,救命処置,手洗い・ガウンテクニック,外科基本手技(手袋の装着,消毒,縫合結紮,ドレッシング,抜糸)が基本ステーションとして提案され,平成17年または17年度での本格運用では,これらの基本ステーションでの学生評価が求められている。『基本的臨床技能ヴィジュアルノート-OSCEなんてこわくない』には,これらの評価項目のすべてが含まれている。
 それぞれの面接,診察,臨床手技の各項目では,初めに診察のポイントがまとめられ,写真による手技の解説がふんだんに用いられ,ところどころに,「臨床では」でその手技の臨床的意義を,「先輩からのアドバイス」でどのようなトレーニングをしておくべきなのかを,「OSCEでは」で実際のOSCEでの課題の出され方,実技時間の使い方や評価方法などを,そして「OSCEでの落とし穴はここだ・」では,OSCEを受ける学生が陥りやすい間違いや勘違いなどが書かれている。
 OSCEでは,評価者から口頭試験をされることもあるが,この時に評価者から質問されそうな内容は,「調べておこう」に列記されている。写真の多さ,解説の読みやすさ,そして上記のポイントが学生の学習を効率的にするであろう。

医学生には自ら力をつけていく責任がある

 最近ではどの医学部でも,面接,診察,検査・治療手技の講義・実習が組まれている。しかしながら,それぞれの項目について1回だけの講義と実習は組まれているが,必ずしも十分な練習時間はカリキュラムに組まれていない。したがって,医学生は時間外に(特にOSCE直前に)同級生同士で練習しなければならない。この時,忙しい臨床医が指導医として一緒にいることは少ないであろう。この本は,医学生同士で手技の練習をする時に大きな力を発揮するものと思う。
 医学生は,臨床実習で患者さんの診療責任の一部を担うクリニカル・クラークシップ形式の実習を行なう。患者さんとご家族にその教育を担っていただくことになるが,この時,患者さんの安全性の確保と学生が患者さんから学ぶ能力(準備状況)とが要求される。医学生には,臨床実習開始前までに基本的臨床技能の修得が社会的にも強く求められている。医学部が医学生に十分な基本的臨床技能の学習の場を設定することはもちろんであるが,医学生も自ら力をつけていく責任がある。その責任を果たすために,この本は医学生にとって強力なツールの1つとなるだろう。
B5・頁184 定価(本体3,000円+税)医学書院


日本の内科教科書の定番,待望の新版

新臨床内科学 第8版
高久史麿,尾形悦郎,黒川 清,矢崎義雄 監修

《書 評》小林美和子(筑波大医学専門学群卒)

求められるスタンダードの教科書の要素とは

 日本の内科教科書の定番として広く定着している『新臨床内科学』の,待望の新版が登場した。Harrison,Cecilなどの洋書を含め,内科学書は世の中に数多く存在する。「教科書はよいものを早めに購入し,使いこなせ」と言われたことがあるが,教科書はそれぞれに特色があり,使う人の好みに応じて相性がある。私は初めて買った内科学書との相性が合わなかったため,あちこちに手を出し,試行錯誤した経験がある。そうした経験を通じ,スタンダードな教科書に求めたい要素として感じてきたことを以下にあげる。
 (1)疾患概念が簡潔にわかりやすく記されている。
 詳細な知識を身につける前に,まず「この疾患は何なのか?」という幹の部分が理解できることが大切である。
 (2)必要な情報が網羅されている。
 上記の「幹」に加え,医学を学ぶ上で登場する内科的疾患,それを理解するのに最低限必要な病態生理,加えて実際の臨床で役立つような所見,診断から治療までに関する情報が記されていることも求めたい。
 (3)必要な情報がどこにあるのかがわかりやすい。
 工夫されたレイアウト,索引などで求める情報がどこにあるかがわかる,という使いやすさも,勉強の効率化のために欠かせない。

日本の内科教科書として期待に応えてくれる

 それでは,今回新しく出た『新臨床内科学』第8版はどうであろうか?
 (1)わかりやすい疾患概念の記載
 『新臨床内科学』では,旧版から「概念」の項目で疾患の概念を説明する形式が用いられているが,新版ではこの方針がより徹底して見られ,わかりやすくなっている。また,旧版に比べて図やグラフ,写真が増えているのが印象的で,特にcommon diseaseにおいて,続く「病態生理」の項目の記載に重点が置かれている。
 (2)必要な情報の網羅
 この教科書に記載されている内容について,改めて私が批評を加えるまでもないであろう。付記事項としては,新版は,定番と言われる教科書の中で最も新しく改訂されたため,平成13年の最新の国家試験ガイドラインに即した構成となっていることであろう。また,旧版で「臨床的プロブレムからのアプローチ」という章で取り上げられていた症候篇が,新版では「緊急的処置をしばしば必要とする症候・症状」,「主な症候・症状とプライマリケア」という2章に分けられ,さらに内容が充実している。特に後者ではプライマリケア診療で役立ちそうな皮膚所見などのカラー写真が豊富に用いられている。
 (3)必要な情報の検索のしやすさ
 新版では,これまでの1冊本に加え,3分冊版も登場したが,それぞれに総索引がつけられている。また,これまで巻頭に集められていたカラー写真が,新版では数を増して本文中の該当個所にふんだんに取り入れられている。これによって本文が読みやすくなり,美しいカラー写真は読み手の関心もそそる。
 最近の臨床現場の流れを取り入れ,改良を積み重ねた『新臨床内科学』第8版は,日本で医学を学ぶ医学生のスタンダードな内科教科書として推薦できる1冊である。
〔1冊本〕
B5・頁2234 定価(本体20,000円+税)医学書院
〔3分冊版〕
B5・頁2552 定価(本体20,000円+税)医学書院