医学界新聞

 

第2回日本再生医療学会開催される

再生医療の実現化に向けて議論




 第2回日本再生医療学会が,さる3月11-12日の2日間,立石哲也会長(東大,産業技術総合研究所テッィシュエンジニアリング研究センター長)のもと,神戸市の神戸ポートピアホテル,神戸国際会議場において開催された。「再生医療を実現するために」をテーマに行なわれた今学会は,参加者約1700人,発表演題は400以上におよび,倫理や治験の問題も含めた再生医療の臨床応用に向けて議論された。
 その他,関連行事として,関西ティッシュエンジニアリングイニシアティブ(kTi)などの主催による,「第5回組織工学・再生医学ワークショップ」が学会前日に,また,3月10-12日,神戸国際展示場で「国際再生医療 Expo 2003」が開催された。本展示会は,再生医療の分野では世界初の試みであり,出展社数は70社・団体以上にのぼり,のべ3000人が来場した。


2010年を目標に再生医療の産業化をめざす

 立石氏による会長講演「産業的視点からみた再生医療の位置づけと今後の展開」では,工学出身の氏は「これまで,医学と工学の連携がうまくいかず,基礎研究でよい成果がでても活かされてこなかった」と指摘。氏は,(1)軟骨疾患治療におけるティッシュエンジニアリング,(2)再生軟骨創製のための3次元培養担体としての生分解性PLGA(poly-Lactic-glycolic acid)とコラーゲンとのハイブリッドスポンジの作成,(3)骨も血管も力学的環境下で作られる必要があることから,再生軟骨創製のための物理的刺激負荷についての3点を中心に解説。最後に氏は,「現時点で必要なのは,再生医療の標準化」と強調。そのためにも「成体多能性幹細胞の効率的な分離・培養技術を世界に先駆けて確立し,2010年には上市したい」と述べ,産業化に向けて強い意欲を示した。

再生医療に有効な細胞源は

 シンポジウム8「再生医療ハイライト」では,前半を「再生医療の細胞源」(司会=慶大 岡野栄之氏,京大再生研 岩田博夫氏),後半を「クローン研究の問題点と可能性」(司会=岡野氏,阪大微生物研 仲野徹氏)の,2つのテーマで行なわれた。
 体性幹細胞のもとになる基本的な細胞と見られる成人多能性幹細胞(MAPC; multi-potent adult progenitor cell)は,骨髄細胞10万-1億個に1個しか存在しないほど少なく,その抽出および培養は難しいとされ,ミネソタ大以外では報告が少ない。それに国内で先駆けて抽出・培養に成功した六車ゆかり氏(東海大)は,凍結ヒト骨髄液から30 cell doubling population以上の継代数のMAPCの誘導に成功したこと,さらに骨,脂肪細胞,肝細胞など多方向の分化誘導能を示したことを報告した。
 続いて,今年1月から凍結胚からヒトES細胞作成実験に着手した中辻憲夫氏(京大再生研)は,「ES細胞と再生医療」と題して登壇。氏のグループは,体細胞とES細胞を融合させて,細胞や核の「リプログラミング(再プログラム化)」が起こることを明らかにした。これにより,受精卵を必要とせず,拒絶反応を起こさない多能性幹細胞作成の可能性を示唆。これを利用すれば種々の細胞を無尽蔵に供給できることから,「再生医療や創薬に,この技術がもたらす影響は大きいのではないか」とした。今後は,「ES細胞との細胞融合という再プログラム化の過程で何か起きているのかを明らかにすること,さらにはそれを利用して細胞の万能性を引き出す研究がきわめて重要になる」と強調した。
 最後に岡野氏は,脊髄損傷モデルラットを用いて神経幹細胞移植を行なった経験から,損傷脊髄内の環境を検討し,中枢神経における軸索再生阻害因子の抑制と,脊椎損傷後にできる空洞部分のグリア性瘢痕に注目。特に急性期に発現する炎症性サイトカインIL-6に対する抗IL-6受容体抗体の投与は,グリオーマを抑制するなどの有効性を示した。さらに損傷後のグリア由来の軸索伸展阻害因子に「セマフォリンA3」が関与することを見出し,「亜急性期の脊髄損傷治療に,セマフォリン阻害薬が有効ではないか」と,新たな治療への可能性を述べるとともに,「日本初の脊髄損傷再生への臨床応用を目指したい」と述べた。

クローンの問題を議論

 第2部「クローン研究の問題点と可能性」では,司会の岡野氏から「再生医療においてはどうしても避けて通れない「クローン」の問題を,科学者として,医者として,さらに学会としてどう取り組むのか,われわれは議論を深める必要がある」という言葉を皮きりに,3人の演者が登壇。
 最初に仲野氏がイントロダクションとして,再生医療におけるクローンの位置づけを解説。ES細胞から必要な細胞へと分化誘導して細胞移植をした時,拒絶反応が問題となること指摘されている。そこで,核移植クローン技術を用いて,患者と同じ遺伝子を持ったES細胞を用いた「治療的クローニング(therapeutic cloning)」は有効と考えられるが,クローン人間作成技術である「個体作成クローニング(reproductive cloning)」との区別など,議論はまだ未熟な状態で,問題は山積しているとした。最後に,再生医療が万能のように言われる風潮を危惧し,「幹細胞研究は,かつて遺伝子治療がもてはやされ,その後多くの困難を経ている経緯から,学ぶことがたくさんある」と指摘した。
 続いては,「クローン技術の発展と再生医学」と題して若山照彦氏(理化研)は,マウスのクローン成功率は2%と低く,さらに巨大な胎盤異常,肥満,早死など多くの異常が発現するなど,クローン技術の限界点と現状を示した。氏は,マウスを用いて体細胞から胚性幹細胞(核移植由来ES細胞;ntES細胞)の樹立に成功し,これは,自分の体細胞から自分のES細胞を造ることが可能になったことを示す。しかし,「受精卵から作ったES細胞と,核移植で作ったES細胞は性質が少し異なる」という問題点も指摘した。
 医療倫理の側面から加藤和人氏(京大人文科学研)は,ヒトES細胞およびヒトクローンに関する研究の現在の論点を整理。特に,ヒトクローン胚を用いた研究は,「医療には必要」とする賛成派と,「(ヒト胚を生命の萌芽と見ることから)生命を作って,それを壊すことは許されるのか」とする反対派と,世界的にも議論が分かれている。氏は各国の対応を比較し,ヒトクローン胚作製を認めたイギリスでは,「HFEA」という監視機関の下,限られた研究機関のみが研究可能という厳格な管理体制を構築している例を紹介。最後に,「日本では,この問題はまだまだ議論が足りない。科学者も積極的に議論に参加すべき」と強調した。

患者から再生医療実現化を訴え

 特別シンポジウム(司会=TERC 大串始氏)では,脊髄損傷の患者団体である「日本せきずい基金」理事長の大濱眞氏が登壇。全国に脊髄損傷の患者は10万人以上,年間6000人が発症し,介護者も多数必要になるという状況を説明した上で,「中枢神経の再生修復が可能になり,少しでも体が動くようになれば,本人だけでなく介護者も負担が軽減して,医療コスト的にも大きな福音となる」と述べた。そのためにも,治療用クローニングの使用や,胎児由来の組織利用も含めたヒト幹細胞の臨床研究への利用促進と,「胎児だけでなく,生きて苦しんでいる人間の視点に立った研究倫理を確立してほしい」と強調。すでにオーストラリアなどでは脊髄損傷における再生医療の臨床試験が開始しており,「日本も早期の臨床応用への道を拓いてほしい」と訴えた。