医学界新聞

 

「21世紀の呼吸器病学-分化と統合」をテーマに

第43回日本呼吸器学会が開催される




 第43回日本呼吸器学会が,原信之会長(九州大)のもと,さる3月13-15日の3日間にわたり,福岡市の福岡国際会議場,マリンメッセ福岡の両会場において「21世紀の呼吸器病学-分化と統合」をテーマに開催された。
 「禁煙宣言」(別掲)の採択に伴い,全会場内が禁煙とされた中で行なわれた本学会では,メインテーマをタイトルに掲げたプレナリーシンポジウムをはじめとしたシンポジウム10題,ワークショップ6題が企画され,臨床,基礎の両面から呼吸器疾患における最新の話題について積極的な議論が交わされた。また,4題の特別講演,3題の特別報告,さらに23題もの教育講演,23題のランチョンセミナー,12題のイブニングシンポジウムの場が設けられ,多くの参加者を集めた。
 また,「International program」としてアジア太平洋呼吸器学会(APSR),アメリカ胸部疾患学会(ATS),ヨーロッパ呼吸器学会(ERS),に加えて韓国,日本からそれぞれ推薦されたメンバーによる5題のシンポジウムが企画された他,3名の海外の研究者による招請講演も行なわれるなど,国際色も豊かな学会となった。


より強力に「禁煙」を推進

 すでに他の学会に先駆け,1997年に「禁煙勧告」を行なっていた本学会だが,昨(2002)年10月に理事会において新たに「禁煙宣言」を採択。大会初日にあたる13日に行なわれた全体会議において,本学会「禁煙問題に関する検討委員会」委員長を務める永井厚志氏(東女医大)によって,正式に宣言がなされた(別掲)。本宣言では,(1)会員のすべてが非喫煙者であることをめざす,(2)あらゆる場での禁煙を推進する,(3)市民の禁煙を支援する,(4)広く保健医療従事者への禁煙を促す,(5)医療従事者をめざす学生への喫煙問題についての教育を求める,(6)社会全体の禁煙推進をはかる,の6つの基本方針が立てられ,中には「本学会専門医は,非喫煙者であることを資格要件とする」とした厳しい文言も盛り込まれている。
 宣言に続いて,祖父江友孝氏(国立がんセンター)による基調講演「たばこによる健康影響の大きさについて」が行なわれ,この中で祖父江氏は,「たばこによる健康影響の大きさは,他の要因に比べて圧倒的に大きい」と指摘。その上で医学会・保健医療組織が取り組むべきたばこ対策として,(1)オピニオンリーダーとしての社会への働きかけを強化する,(2)医療現場において5つのA(Ask,Advise,Assess,Assist,Arrange)をキーワードに,禁煙サポートの実施者として取り組む,の2点を挙げた。
 また,全体会議に先立って本学会理事長福地義之助氏(順大),原会長,永井氏の3氏が記者会見を行ない,この中で福地氏は,「禁煙勧告」以降も,一般市民には喫煙率の低下が認められず,いまだに認識が薄い現状であることを指摘。その上で「より強い形での『禁煙宣言』を出すことで,禁煙の動きをさらに進めていきたい」と今後に対する思いを述べた。

【禁煙宣言】

 世界保健機関(WHO)によれば,到達しうる最高水準の健康を享受することは,万民の有する基本的権利の1つである。現在,世界的な保健対策の流れは,自らが自己の健康問題を認識し,健康を管理する能力を身につけ,そのための適切な手段が得られる社会を目指している。
 喫煙は,肺がん,COPD,気管支喘息など,治癒困難な多くの呼吸器病の発症,悪化に関与している。かつ喫煙の害は呼吸器のみならず全身におよんでいる。さらに,喫煙の健康被害は喫煙者のみならず,受動喫煙にさらされる者の問題でもある。喫煙は「病気の原因の中で予防できる最大かつ単一のもの」(WHO)であり,喫煙対策は社会全体の健康推進上欠くことができない。
 私たち,呼吸器医療に携わる者は,その専門知識を駆使して禁煙推進のために努力する決意を,ここに新たにするものである。

呼吸器病学の最先端を議論

 大会2日目には,今後ますます重要な問題になるとされる呼吸器疾患のトピックスを集めたプレナリーシンポジウム「21世紀の呼吸器病学」(座長=福地氏,日大 堀江孝至氏)が企画された。
 まず,「肺がん転移の分子機構とその標的治療への展開」と題して曽根三郎氏(徳島大)が登壇。NK細胞欠除マウスにおいてヒト肺がんの多臓器転移モデルを開発した自身の研究について紹介し,「がんは転移先から出るサイトカインなども利用しながら進展している」と指摘。一方で,今後はcDNAマイクロアレイによってがんの分子標的治療へと結び付けていける可能性を示し,トランスレーショナル・リサーチの重要性を強調した。
 貫和敏博氏(東北大)は,「びまん性肺疾患の分子病態と治療」と題して講演。この中で,これまで原因不明とされてきた肺胞蛋白症について,GM-CSF遺伝子の補充療法によって症状が改善した症例を提示,本疾患に対する新たな治療の展望を示した。また,今後は遺伝子を解析するだけではなく,蛋白質の相互作用の解析が新たな研究の方向として重要であると指摘した。
 続いて「高齢者肺炎の予防」と題して演壇に立った関澤清久氏(筑波大)は,昨今の抗菌薬使用の増加によって,肺炎死亡者のほとんどが高齢者となった点を指摘。高齢者の肺炎予防のためには口腔ケアや嚥下機能障害の回復が重要であるとし,その素地となる脳血管障害を防ぐために生活習慣病の予防に努めることが重要であると提言するとともに,「『長生きすること=肺炎を防ぐこと』とも言える」と表現した。
 さらに「閉塞性肺疾患now and then」と題して永井厚志氏は,喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の鑑別について,「複数のパラメータを組み合わせて診断をつけるべき」と述べた上で,喘息,COPDのそれぞれについて,明確な疾患の概念と定義の整理,発症メカニズムの解明,といった課題が残されているとした。
 また,Thomas R. Martin氏(Seattle VA Medical Center)が最後に登壇し,ALI(急性肺傷害),ARDS(成人呼吸促迫症候群)について,その病態解明へ向けた研究を紹介した。
 すべての演者が登壇した議論の中で曽根氏は,肺がんについて,薬剤の発達やそれに伴う効果,副作用の面から呼吸器内科医の果たす役割が大きくなったと指摘。一方で,従来のがん治療のあり方は「早く見つけて早くとる」といった姿勢であったのに対して,高齢者の発症が増加した現在では,「がんとの共存」を考え,がんをいかにコントロールするかを考えることが重要になると述べた。
 議論の終わりに座長の堀江氏は,「ゲノム,再生医療など,最先端の医療への期待もあるが,少子高齢化に伴い,今後の医療はより多様化が進むだろう。よりよい方向に向けて医療が進んでいく必要がある」と述べ,シンポジウムのまとめとした。