医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


なんとも痛快!「非援助」という思想の心地よさ

《シリーズケアをひらく》
べてるの家の「非」援助論
そのままでいいと思えるための25章

浦河べてるの家 著

《書 評》山崎章郎(聖ヨハネ会桜町病院部長・ホスピス科)

一般病院からホスピスへの転身

 終末期医療に深い関心を抱くようになって,あしかけ20年が経とうとしている。また,具体的なホスピスの場に身を置くようになって12年目を迎えようとしている。
 一般病院で終末期医療に取り組んでいたころには,山のような問題と立ちはだかる壁の前で,当初は果敢にチャレンジしたが,やがて無力感と苛立ちの中で働くようになっていた。
 ホスピスに転身してからは大変なことも少なくなかったが,個人的には解放感と充実感の中で仲間たちと仕事に取り組むことができていた。

緩和ケア病棟への危惧

 だが,近年わが国に急速に増加しつつある癌末期患者を主なケアの対象とした緩和ケア病棟を目の当たりにし,その増加を一方では一般病棟で十分なケアを受けることのできない癌末期患者のために歓迎しつつも,もう一方ではホスピスケアの本質が矮小化されてしまう危惧を感じるようになった。
 なぜならホスピスケアは,従来の医療の呪縛(専門性を盾にした上下関係,権威主義など)から解放されたところで展開されていくものと考えていたのに,実情は緩和ケア病棟という形でどんどん従来のままの医療の中に組み込まれてしまっているからである。つまり,これまでの医療がもちつづけてきた諸問題が十分な解決や反省もなされないままに,医療保険の対象となる新病棟が旧来の土壤の上に次々と誕生しているだけのように見えてしかたがないからである。
 古い土壤の上に本来的なホスピスケアが花開くとは思えない。ここ数年間は自分たちのホスピスケアも含め,これでいいのかという思いが強くなってきていた。

かくも魅力的な「べてるの家」はいかにして生まれたか

 この本に出会ったのは,こんな思いの時である。
 なんとも痛快な本である。精神障害者といわれる人たちがソーシャルワーカーや医師や地域の人々とともに,さまざまなトラブルを重ねながらも日高昆布の直販という商売を通して,浦河という北海道の小さな町の中に,自立的に生きる場を確立していく物語である。
 本書の語り部ともいえる向谷地氏の視点や思考は,現場に身を置かないかぎり出てこないものだ。そしてまた,たとえ現場に身を置いたとしても,その目線が治療者や専門家の目線であるかぎり,かくも魅力的な精神障害者と地域の共生の場である「べてるの家」は誕生しないだろう。つまり,本人が心から納得できる治療経過や結果ではなく,専門家や治療者が満足する成果の下では,「こうはならない」ということである。
 そのことを,本書に登場する個性豊かな人々が自らの体験を通して証言している。専門家といわれる人々はいったい今まで何を見,何をしてきたのかと問われてもしかたがない(これはわが国の多くの分野において言えることだが)。

誘う患者,身を委ねる専門家

 そしてその専門家たちが,ここでは患者たちから,専門家としての立場や威厳を保つための肩肘なんて張らずに等身大で一緒に生きていこうよ,と誘われているのである。
 ソーシャルワーカーの向谷地氏も精神科の医師である川村氏も,もちろんさまざまな困難はあるのだろうけれども,その誘いに心地良さそうに応え,その中に身を委ねているように見える。まさに共生しているのである。どう援助し,どう援助されるのかという視点だけでは見えてこない事の本質が本書を通して見えてくる。
 「非」援助論とは,まさに言い得て妙なるタイトルといえる。「援助」と名のつくすべての行為や思考を,あるいはそれに類似した言葉である「介護」「看護」「支援」などが表すものを,この「非」援助論を通して検証しなおす必要があるだろう。
 ここにはあらまほしきコミュニティの原点が,そして私がめざすべきホスピスケアの原点があるように思える。
A5・頁256 定価(本体2,000円+税)医学書院


臨地実習指導での戸惑い解決します

臨地実習のストラテジー
キャスリーンB. ゲイバーソン,マリリンH. オールマン 著/勝原裕美子 監訳
勝原裕美子,増野園恵,井上真奈美,渋谷美香 訳

《書 評》田中マキ子(山口県立大助教授)

 臨床実践能力の育成が課題とされる今日,臨地実習という教育形態は重要な意味を持つ。このような中,臨地実習の手引き書とも思われる本書の役割は重要と感じた。

臨地実習を展開する上での具体的な方法が満載

 本書は,臨地実習指導経験の長短,あるいは臨床側や教育側といった立場の違いに関係なく,それぞれの課題解明に合致する内容の広さと深さをあわせ持っている。15章の構成からなるが,単独章を読み進めても十分な示唆が得られる。
 1-8章までは,臨地実習指導に関する基本的な内容が押さえられているが,十数年看護教育に関わってきた筆者にあっても初心に返るような気づきが多々あった。
 後半章は,臨地実習を展開する上での具体的な方法が満載されている。カリキュラム開発が歴史的にも活発である米国の実践例として,臨地実習指導や学生を観察するためのガイドライン,学習方略とその評価など,教育・指導の水準を高め,評価の客観性や妥当性を維持するような数々の内容が紹介されてある。特に,精神運動領域や情意領域の臨床技術を指導するために,シミュレーションやゲーム,ケーススタディなど,いろいろな興味深い教育材料・方法を用いて応用展開するさまは,筆者には興味深かった。また,ディベートやクリティカル・シンキングの普及・浸透などは,本書で示される内容を随分支えるものと考えるが,日米の違いとして痛感する点であり,今後日本における基礎教育課程ならびに現任教育での能力開発の必要性が示唆された。

学習者に大きな成果と成長の機会を与える臨地実習

 全体を通して,訳における繊細な配慮が訳書にありがちな“読みにくさ”を払拭している。訳者らの力量が推し量られるところである。臨地実習は,精神運動・知的領域を刺激し,学習者に大きな成果と成長を与える機会となる。この機会を「生きた学習の場」として構成し運営するために,本書は有用であり,多くの方々に一読を勧めたい。
A5・頁304 定価(本体2,800円+税)医学書院