医学界新聞

 

「がん看護における倫理的ジレンマへの挑戦」をメインテーマに

第17回日本がん看護学会開催




 第17回日本がん看護学会学術集会が,小島操子会長(大阪府立看護大学学長)のもとで,さる2月8-9日,大阪市の大阪国際会議場(グランキューブ大阪)において開催された。
 「がん看護における倫理的ジレンマへの挑戦」をメインテーマに掲げた今回は,基調講演「がん看護における倫理的課題と挑戦」,パネルディスカッション「がん医療における共働の現状とこれから」,シンポジウム「倫理的ジレンマと看護職の役割」,特別講演「質の高い生き方を考える:がんを経験した心理学者の立場から」などが企画された。
 また今回は,「がん看護の世界的潮流(Cancer Nursing:World Wide Topics)」をテーマとした第1回国際学術集会(First International Conference Japanese Society of Cancer Nursing)との初の合同での開催となった。


●がん医療における共働の現状とこれから

 がんという疾患は,長い経過をたどる中でさまざまな局面を見せ,病期,人々の置かれた状況や個人の考えによって多種のケアの提供が必要とされる。そのため,多くの専門家の共働なくして人々のニーズを充足させることはできない。
 パネルディスカッション「がん医療における共働の現状とこれから」(司会=兵庫県立看護大・内布敦子氏,大阪府立成人病センター・沼波勢津子氏)では,医師,理学療法士,薬剤師,フィーリング・アーツ(体感芸術)というまったく異なる分野の専門家をパネリストに迎えて,それぞれの立場からの意見が発表された。
 そして,「看護職は医療現場の中で最も人数が多く,最も患者に近い距離で働いている。また,がんという病気の診断,治療,再発,緩和のどの段階でも人々のそばにいるという職業上の特徴を持っている。その立場上,ケアをコーディネイトできる可能性を最も多く持っている職業集団であり,社会的にもその責務を果たすことが期待されている」(司会のことば)という認識のもとに,改めて「共働」の意味と意義が討議された。

専門看護師の重要性

 田中完児氏(関西医大)は医師の立場から,急速に変化しつつあるがん治療の現場における専門看護師の重要性を取り上げた。田中氏は,がん治療の現場で必要とされる専門性を持った看護師の数は,需要を大きく下回っているが,むしろ問題とされるべきは数のみでなく,それに伴う“質”であり,「その際に重要になってくるのは,がん専門の看護が何を理想として追及されるべきかが明確にされることである」と強調。そのモデルとして,英国の乳がん専門看護師(BCN:Breast Care Nurse)を中心にして報告した。
 田中氏によれば,BCNの活動の場所とその機能性は,従来の日本における「外来」「病棟」における看護という縦割り的役割でなく,これから独立した第3の存在である。つまり,外来,病棟,手術場への自由なアクセスが認められ,これによって患者を中心としたprimary nursingが可能となる。また,その内容は高度な知識を専門医やその他のスタッフと共有し,豊富な実践経験とカウンセリングの能力をも有することが必須である。
 田中氏はさらにまた,「専門性があり,しかもフットワークが軽く,患者へのアプローチがしやすい専門看護師の存在を構築・確立し,専門医・専門コメディカルスタッフとともにチーム医療の一員として,患者を中心に,心と身体をケアしキュアしえる医療システムを確立することが,将来のあるべきがん治療の共働の姿であると思われる」と強調した。

がん治療におけるリハビリテーション概念の応用と共働

 続いて理学療法士の立場から,宮崎哲哉氏(聖隷三方原病院)ががん治療におけるリハビリテーション概念の応用を検討。
 宮崎氏は,「わが国ではさまざまな理由から,がん治療に携わるリハ専門職種の活躍の場はまだ少ない実状にある」と前置きして,がん患者に対する実際のリハビリテーション医療の提供は,近年の医療の進歩に伴う療養の長期化から,そのアプローチも予防的,回復的,維持的,緩和的なものと,病期に応じてその目的も多重化,アプローチが多岐にわたっている現実を指摘。
 そして,「そのどの病期においても,患者の日による精神的変化は,理学療法においても決して見逃すことのできない問題であり,病棟スタッフとの連繋,治療方針の共有,毎日の情報交換は日々の訓練において重要な課題となっている」と付け加えた。

「患者用パンフレット」による服薬指導

 薬剤師の業務が多様化する中,病棟におけるチーム医療の一環として,入院患者の薬剤管理指導業務(病棟服薬指導)が重要なってきているが,志村和子氏(大阪府立羽曳野病院)は薬剤師の立場から検討した。
 同院では,1998年から肺腫瘍科において,化学療法や疼痛コントロールなどの服薬指導を実施している。また,1990年代末に発売された新しい抗がん剤を含め,10種類以上の抗がん剤を使用しており,薬剤師は化学療法を受ける患者ごとにパンフレットを作成し,服薬指導を行なっていた。従来は薬剤師と看護師がそれぞれ別個にパンフレットを作成して説明していたが,一部重複があったり,内容に食い違いがあったりして患者が疑問を持つことがあった。そこで今年度より両者の共同で「患者用パンフレット」の作成を試みた。
 この結果,「看護師との話し合いの場を持つことにより,お互いの信頼関係を深め患者情報を共有することができ,化学療法を受ける患者にいち早く服薬指導に入れるようになった」と報告し,「今後も医療チームの一員として,医療スタッフと連携して患者の治療意欲向上のため,さらなる支援を続けていきたい」と強調してその発表を結んだ。

●がん看護における倫理的課題と挑戦

 小島会長は今回のメインテーマの意図を,「がん看護に携わる者として,真に患者本位の看護を実現するためには,倫理的感性を磨き,日常遭遇する倫理的ジレンマに誠実に立ち向かい,適切に意志決定を行なうとともに,患者の立場に立った擁護者として,また倫理的問題の調整者として最善を尽くすことが大切である」と解説。
 メインテーマに沿った基調講演「がん看護における倫理的課題と挑戦」は,看護倫理に関しては世界的権威者であるアン・デーヴィス氏(前長野県看護大学)によって行なわれた。
 アン・デーヴィス氏は,6年もの長期にわたって日本の看護大学で倫理教育に携わり,日本の文化,教育,医療,国民性に根ざした倫理を模索しているが,今回の基調講演では,次の4つの「挑戦」を詳説した。
I:「がん教育」における挑戦
 (Challenges of cancer education)
II:「がんと共に生きて行く」挑戦
 (Challenges of living with cancer)
III:「がんを知ること」への挑戦
 (Challenges of knowing cancer)
IV:「がんで亡くなること」への挑戦
 (Challenges of dying from cancer)