医学界新聞

 

第18回日本環境感染学会が開催

病院感染対策の普及・充実をめざして




 第18回日本環境感染学会が,木村哲会長(東大附属病院教授)のもと,さる2月14-16日の3日間にわたり,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。本学会では,「Hospital Epidemiology in the 21st Centry-Innovations Using Electronic Data」(CDC Chesley Richards氏),「A Thirty Year Journey-Successes and Challenges in Infection Prevention and Control」(APIC会長 Georgia P. Dash氏)の2題の招請講演が行なわれた他,感染管理のガイドラインや院内感染サーベイランスなどに関連したシンポジウム,ワークショップが多数企画され,医師のみならず,コメディカルからも多くの参加者を集めた。

根拠ある感染対策を

 ワークショップ1「エビデンスのない感染対策,ある対策」(司会=NTT西日本東海病院 大久保憲氏)では,従来行なわれてきた基本的な感染対策について,改めて検討がなされた。
 まず登壇した向野賢治氏(福岡和仁会病院)は,「バリアプレコーションに関するエビデンス」をテーマに解説。(1)液体やウイルスを透過しないガウンの利用,(2)飛沫感染防止にサージカルマスクを利用,(3)手袋着用時も必ずリークがある,の3点を強調し,「用途に応じた,リークの少ないものを利用することが重要」とした。
 続いて竹末芳生氏(広島大)は,「術後感染予防対策-米国と日本の違い」と題し,日本での周術期における感染対策についてのアンケート調査結果と米国での感染対策の考え方とを比較して解説。腹腔内ドレーンは米国においてはハイリスク手術の場合のみ,しかも閉鎖式のものが使用されるのに対して,日本では開放式ドレーンの適応が広い点や,米国では筋膜,皮下脂肪などの創面には消毒薬を使用せず,生理食塩水のみによる洗浄を行なうのに対し,アンケート結果では約半数が消毒薬を使用した洗浄を行なっている点などを指摘した。
 尾家重治氏(山口大)は,「洗浄,消毒,滅菌」と題して発表。グルタラール,フタラール,過酢酸などの高水準消毒薬は環境に対して使用しないことや,一方でMRSAディスパーサー(火傷患者,未熟児など)のいる環境には,消毒薬が必要であると指摘。また,内視鏡には高水準消毒薬の使用が適しており,経腸栄養剤の投与セットなどの消毒には次亜塩素酸ナトリウムが適しているなど,基本的な臨床の現場における感染対策について解説した。
 最後に登壇した矢野邦夫氏(県西部浜松医療センター)は,「医療処置と感染防止」と題して解説。内視鏡や中心動脈カテーテルは使用後に高レベルに汚染しているため,高水準の消毒が必要と改めて強調した。その上,透析室における感染対策についても言及し,血液が体外に頻繁に出入りし,かつ複数の患者が同時に透析を行なうといった特殊な状況である点から,患者の配置の工夫など,独特の感染対策が必要であると指摘した。また,一方で医療従事者に対するB型肝炎ワクチン接種について,「1度抗体が10mIU/mlまで上昇すれば,その後に抗体価が下がって検出できなくなっても抵抗性は保たれるため,ブースター接種は不要」とした。

サーベイランスの重要性

 シンポジウム1「わが国における病院感染症のサーベイランスの現状分析」(座長=国立感染研 荒川宜親氏,NTT東日本関東病院 小西敏郎氏)では,薬剤部門から「全入院患者のサーベイランス」(国立熊本病院 真鍋健一氏),検査部門から「薬剤耐性菌のサーベイランス」(東邦大 古谷信彦氏),臨床の立場から「ICUのサーベイランス」(順天堂医院 奥村徹氏),「わが国におけるSSIサーベイランス」(帝京大附属市原病院 森兼啓太氏),「Comprehensive SurveillanceからTargeted Surveillanceへ」(東大附属病院 森澤雄司氏),看護職の立場から「病院感染のサーベイランスとは」(名大附属病院 姫野美都枝氏)の6名のシンポジストが登壇。それぞれの立場から行なったサーベイランスについて報告した。
 議論の中で古谷氏は,「協力施設による温度差を感じる。データの入力支援ソフトのようなものが必要」と指摘。一方で奥村氏は,「数字を出すのみではなく,介入することで効果が得られる。社会的にも感染管理に対しての理解を得られることが重要」と述べた。
 議論の終わりに荒川氏は,「高度先端医療は進んでいく一方で,感染症からどうやって患者を守っていくかが課題」と述べ,シンポジウムのまとめとした。