医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


最先端の実践的PDTテクニックを余すところなく提示

PDTハンドブック
光線力学的治療のアドバンストテクニック

加藤治文 監修/奥仲哲弥 編集

《書 評》渥美和彦(東大名誉教授)

世界に先駆けて行なわれた著者らのPDTの臨床

 PDT(光線力学療法)の歴史は,1960年メイヨークリニックのLipson博士によるヘマトポルフィリン誘導体の開発と研究に始まる。その後,米国のDougherty教授と東京医科大学の早田義博教授との共同研究が行なわれ,1980年世界最初の早期肺がん患者のPDTが実施された。
 このように,PDTの臨床はわが国の研究者によって世界に先駆けて行なわれたが,早田教授の下で研究を推進したのが加藤治文教授と奥仲哲弥講師である。この両先生の監修および編集によりこの書が出版されたことは,わが国のがん研究者のみならず,レーザー医学者にとってもまことに光栄であり喜びとするところである。
 執筆者は,わが国のPDTの基礎および臨床を代表する豪華メンバーからなりたっており,内容はきわめて豊富で,かつ実践的である。随所に「サイドメモ」および「ワンポイントアドバイス」を配置し,簡潔で,理解しやすく,一気に読むことができる。

今後の発展が期待されるPDT

 PDTは,腫瘍に集まりやすいPS(光感受性物質)を,体内に投与(静注)し,それが腫瘍に集結後を見計らって,その物質に吸光されやすい波長のレーザー光を照射し,制がん作用を発揮させる低侵襲治療である。
 第1章のPDTの原理とPSの動向から始まって第6章まで,現在実施可能な各領域のPDTの実際が懇切ていねいに,かつ要領よく述べられている。
 第7章の応用と展望に書かれているように,現在PDTは世界的に,本書の各論各項で取り上げられているものも含めて,皮膚,脳,耳鼻咽喉,呼吸器,消化器,泌尿生殖器,女性器などの各種悪性疾患に施行されているが,早期がんのみならず,進行がんにも使用されはじめており,末梢肺がんの経皮的治療,白血病や悪性リンパ腫などの血液疾患にもその適応が拡大されている。良性腫瘍においても,動脈硬化症や血管形成術後の内膜肥厚の抑制,さらに関節リウマチなどの自己免疫疾患,HIV治療や難治性の乾癬,座瘡,円形脱毛症などにも利用されつつある。
 PDTは非病変部に対する非侵襲的治療という最大のメリットを生かして,今後大いに発展が期待される治療法であり,本治療に興味を持たれる方にはぜひ本書を読破し,座右においてその研究と研鑚に努めていただくよう,お勧めするものである。
B5・頁112 定価(本体7,000円+税)医学書院


新しい医学の分野を切り開く画期的な内視鏡治療書

緩和内視鏡治療
鈴木博昭,鈴木 裕 編集

《書 評》大木隆生 (アルバート・アインシュタイン医大附属モントフォーレ病院助教授・血管外科部長)

21世紀の医療のトレンドにそう著書

 レーザー治療や粘膜切除術などに代表されるように,多くの消化管疾患治療において内視鏡は重要な役割を演じていることは周知の事実である。こうした病気を“根治”する分野においては,本邦の内視鏡技術は世界をリードする立場にありながら,本書で述べられている“緩和”を目的とした分野においては,米国の後塵を拝していると言わざるを得ない。
 米国では,政治,経済にとどまらず,医療界においても徹底した合理化,民主化が進められている。合理的な医療とは,すなわち理にかなった,無駄のない医療であり,民主的な医療とは,患者中心の医療である。患者にとって理にかなった医療を行なう土壌が成熟している米国において,PEGや消化管用ステントをはじめとする緩和内視鏡技術が速やかに普及したことは偶然ではない。一方,こうした優れた治療法が本邦では注目されにくかった理由は,日本の医学界が,政治,経済同様,主権在君的で,その上,重厚長大をよしとしていたことと密接に関係しているように思われる。医療における主権在君は,すなわち医療者中心の医学であり,重厚長大は,延命を第一目標とした根治・拡大手術礼賛主義である。こうした風土が,本書で述べられている緩和医療の市民権獲得を遅らせたと言っても過言ではない。21世紀の医療は,根治術のさらなる進歩のみならず,患者のQOLを最小限の侵襲で向上させ,いかに病気と共存するかが大きなテーマとなるであろう。その意味で,本書はこれまであまり注目されなかった新しい分野を切り開く画期的な著書である。

内視鏡と胸腔鏡による緩和(姑息)治療の実際を解説

 本書は,それぞれの分野の第一人者による全9章(178頁)から構成されており,消化管出血,狭窄,胆道狭窄,気道狭窄,経口摂取困難症(PEG),消化器病起因の疼痛(神経ブロック,剥離術),膵嚢胞(ドレナージ)に対する内視鏡と胸腔鏡を用いた緩和(姑息)治療の実際を解説している。
 多数の著者による執筆にもかかわらず,各章は一貫して同一の構成が保たれており大変わかりやすい。各章ともその病態の背景,治療目的,適応,期待される成績,治療手技の実際,治療に必要な解剖,症例提示(著効例と失敗例)が,豊富で明解な図表(図131個,表31個)と285の引用文献で説明されている。緩和医療においてはQOLの向上が第一目的であるため,EBMにはなじまないが,各章ごとに治療成績がまとめられており,21世紀の医療をめざす編者の意図がくみとれる。また,各章にその分野の現状と将来展望が語られており興味深い。緩和内視鏡治療におけるインターネットおよびトレーニング用シミュレーターの活用法を解説した章も大変参考になる。
 本書で述べられている技術が適応される疾患は,多くの消化器・呼吸器疾患,さらには嚥下困難を合併する脳血管疾患,AIDSと多彩である。したがって,本書は内視鏡医にとどまらず,こうした疾患を扱うすべての医師,看護師,さらには21世紀の新しい医療のありかたを学ぼうとする医学生にとって必読の書であると考える。本書で述べられている治療は,必ずしも延命につながるわけではない。しかし,本書は,延命が医療のすべてではなく,患者のQOL向上も同等もしくはそれ以上に重要であることをすべての医療従事者に教えている。本書が日本における緩和内視鏡治療の普及にとどまらず,QOLを重視した“主権在患者”の医療の確立に貢献することを期待したい。
B5・頁192 定価(本体8,000円+税)医学書院


保健活動のさまざまな側面を照らし出すキーワード集

いまを読み解く保健活動のキーワード
尾崎米厚,鳩野洋子,島田美喜 編集

《書 評》大井田 隆(日大教授・公衆衛生学)

 最初から私事で申しわけないが,今から30年以上も前の中高生の時,私は読書,特に小説というものが大嫌いだった。とにかく何万,何十万という文字を読んでいくわけだから面倒くさく,またおっくうでもあり,当然のことながら国語という教科の成績は散々だった。しかし,今のように大した娯楽もない時代,暇つぶしで読んだのが百科辞典であって,この読み方はいたって簡単であり何気なく広げたところを飽きるまで読むのである。世の中こんなこともあるのかと感心することもあるし,中途半端な知識を訂正できるという利点もあったが,またそれは1時間になる時もあるし,10分の時もあるという具合であった。このあまり誉められないような経験を思い出したのが,この『いまを読み解く保健活動のキーワード』を読んだ時のことだった。

言葉の本質について理解を深めるために

 この本を手にした時,何となく開いたセクションから読み始めた。その時30年前のことを思い出し,自分にとってこの本の読み方はこれに限るかと思ったりした。そうすると,この本は実におもしろい。それからというもの,毎晩寝る前にぱっと開いた頁から読み始め,眠くなったらやめ,また次の日も同じことをしてほぼ1か月ほど読み続け,時には同じ箇所を読んだりもした。
 この本は,辞典にしてはそれぞれの項目の記述は長くなっているが,実にきめ細かく書かれている。編者らは,「まえがき」の中で新たな用語を集め,多くの方に理解をしてもらうために作成したと解説している。特にこの本は,歴史・背景から解説に至るまで記述しており,その点は今までにない本である。編者らは,この本の第1の目的を実践に活かすこととしているが,現在自分としては現場にいないので実践に活かせるかは不明である。しかし,学生の講義を受け持つ身となれば,私の拙い経験では,講義の前に一読するとこれから何を教えるかを頭の中でよく整理できるのである。つまり,講義に関連する部分をサーッと読んで講義に臨むとよいのであり,それは各項目について短時間で読めることが幸いしている。例えば,医療保障の授業の前に,教官がこの本にある「医療制度改革」を一読することによって,学生にとってもより身近な講義になるはずである。したがって,学生も保健活動に関する講義の後にでもそれぞれの項目をじっくり読むと,非常に理解しやすいと考えられる。これも長い時間をかけずにすむ。
 最後に,この本が多くの保健医療関係者に読まれることを願ってやまないし,購入した読者が辞書として使うのではなく,一読していただきたいものである。そして,この本を1頁から一気に読むのではなく,毎日少しずつ読んでいただきたいのである。結構おもしろい。
A5・頁312 定価(本体2,800円+税)医学書院


用語の意味を視覚的に訴える個性に富んだ名著

胃と腸用語事典
八尾恒良 監修/「胃と腸」編集委員会 編集
牛尾恭輔,池田靖洋,下田忠和,多田正大,吉田 操 責任編集

《書 評》峯 徹哉(東海大教授・消化器内科学)

 “用語事典”を標榜する書は,数多く出版されていると思われるのだが,実際にはそれほど多くないようである。また使用している用語について各学会から出版されているのは,ほとんどが“用語集”という形のものである。本書はこれらの用語集とは異なり,ふんだんな個性と十分な内容に富んだものであり,名著と言っても過言ではない。
 医学書院から出版されている雑誌「胃と腸」において1992年の第27巻から1994年の第29巻にかけて“用語の使い方,使われ方”という連載が行なわれた。今回の用語事典は,消化器の形態用語をより具体的に図示し,用語の意味を視覚的に訴えることを目標としたこの連載企画の主旨をさらに発展させたものである。本書は,1966年第1巻から始まり,今日まで消化器画像診断の本道を綿々と貫いてきた「胃と腸」のある部分の集大成であるとも言える。

抜群の画像所見,むだなく,詳細な気配りの紙面構成

 本書は,(1)解剖(2)検査手技(3)画像所見(4)疾患(5)病理(6)分類(7)治療手技の7つの項目からなっている。各々の項が食道,胃,十二指腸・小腸,大腸,肛門,膵・胆の順に書かれ,しかも,すぐその部位を開きやすいように,項目ごとに色刷りの索引が付いていて,簡単に開くことが可能である。
 語句から調べる場合は,本の最後に日本語と英語の索引が載せてある。解剖の項を除く各項目は,図または写真を含んだ1頁または見開きの2頁で構成されている。解剖の項のみ,十分な解説をするために1-4頁の紙面を割いている。
 各々の項目は理解しやすいように図(シェーマ),X線像・内視鏡像および組織像によって構成されており,写真もおしなべて非常に質が高い。その中で特にX線像が優れている。いかにも「胃と腸」というすばらしい後ろ盾があるX線像であると改めて納得させられるものである。

日本の消化器病医同士の日常会話が理解できる

 特に画像所見においては,一般的な用語集には載っていないが,われわれが身近な言葉として日常的に使っている用語の紹介もなされている。特に,たこいぼ状隆起の項の中で本物のタコの吸盤の写真が掲載され内視鏡像と比較されているなど,多少のユーモアもありおもしろく読ませていただいた。単に用語の基本的な解説に努めるだけでなく,そのルーツにあたるもの,および日常の会話から派生して,日常的に使われている言葉についても解説を行なおうという姿勢が,読者に対してやさしいと思われる。
 本書は,初心者から熟練の方まで,使い道はいろいろあると思われる。初心者には,学会および研究会での講演や討論において発せられる理解できない語句を,他者に聞くことなく,この本からその語句の意味を知ることができる。また熟練者にとっては,さまざまな語句のルーツの確認などを行なえるなど,きわめて便利な本である。
B5・頁332 定価(本体6,000円+税)医学書院


消化器疾患の臨床に関する完璧な辞典

今日の消化器疾患治療指針 第2版
多賀須幸男,三田村圭二,幕内雅敏 編集

《書 評》高崎 健(東女医大教授・消化器外科学)

すみずみにまでうかがえる編集者のこだわり

 本書の第1版が発行されたのは1991年とあるので,今回約11年ぶりの改訂版発行である。今回の改訂版は内容ももちろん大きく変わっているが,旧版はA4判のハードカバーであったので,書棚に置いて必要な時に取り出して調べるという使い方であった。今回の改訂第2版は,ソフトカバーでA5判とサイズも縮小され,常に手元に置き診察現場にも持ち込んで使うことができるように形を変えている点に,まずこの版の編集者の目的としたコンセプトの変化をうかがうことができる。まさにこういう簡便な臨床医療辞書がほしかったと言えるハンドブックとなっている。もちろん内容的にも基本的な編集の考え方に改良が加えられており,すみずみにまで編集者のこだわりの意図がうかがえる。使用対象を医師ばかりではなく,看護師,薬剤師,検査技師,その他研修医,医学生をも想定しており,専門的内容ではあるが平易に理解しやすくなるように各著者にもこの考え方が徹底し,統一されて書かれている点も,本書が読みやすい理由となっている。
 全16章444項目と付録として消化器系の解剖呼称,癌の取り扱い基準,略語などで構成されている。内容的には前半の1/3(1-7章)の総論的,横断的部分と,残りの疾患別の各論部分からなっている。この総論的部分には,旧版以後近年の消化器疾患の診療の場に登場した事柄がトピックスとしてまとめられている。
 画像診断では,臓器別に種々画像検査法の比較という観点で書かれており,他の検査法については,現在の臨床における役割を明確にし,目的別に検査法の選択という観点でまとめられている。その他,近年行なわれてきている主要な標準的治療法につき,その意義,適応などについての解説が載せられている。この他にも緊急処置,対症的治療,全身性疾患の治療法など,臨床の現場で遭遇するであろう要点についてくまなく網羅されている。
 疾患別の各論の章では,各疾患についてその疾患概念,発生機序,疫学,臨床症状,診断のポイント,治療,手術適応,成績,その他疾患の性質に合わせて適宜重要と思われる臨床上のポイントを,患者説明のポイント,医療スタッフへの指示,問診で尋ねるべきこと,知っておくと役立つこと,専門医へ転送する判断基準,役に立つ文献,など疾患の特徴を考慮し適宜疾患に合わせて項目を立て統一された形式で書かれている。疾患区分そして各疾患ごとの項目立てなど,臨床現場でちょっと知りたい事柄がすべて網羅されており,ここにも消化器疾患の臨床に関する完璧な辞典を作るという編集者の努力をうかがい知ることができる。

臨床現場に持ち込む必携のハンドブック

 膨大な医学知識が要求される近年の医療の現場で,偏りのないインフォームドコンセントの基のEBMを実現させていくためにも,常に自分自身の知識の確認が必須であり,患者様を前にして本で確認することは決して恥ではなく,むしろ患者様の信頼を増すことにつながる時代なのであるということを肝に銘じなくてはならないと考えている。この意味で臨床現場に持ち込む必携のハンドブックとして最適である。さらに自身の知識,経験をメモとして書き込みを加えていくことで,個人専用の辞書として完成度を増していくことも楽しみの1つとしてお勧めしたい。
A5・頁992 定価(本体12,000円+税)医学書院


今後増加が予想される「心の問題」への心強い診療手引き

MGH「心の問題」診療ガイド
兼子 直,福西勇夫 監訳

《書 評》前沢政次(北大附属病院教授・総合診療部)

 プライマリケア医向けに日本語版700頁を超える大著が,出版された。しかも「心の問題」を扱っている。早速読み進めてみるときわめて親切な記述である。

日常診療の場で悩むことの多い問題にアプローチ

 全78章728頁に及ぶこの本には,「うつ病患者へのアプローチ」から始まって,日常診療の場でわれわれが悩むことの多い自殺企図,不安,アルコール乱用,ストレス管理,睡眠障害など精神科医に相談しようかと考える問題はもちろんのこと,ホームレス,著名人,暴力的な患者,治療を拒否する患者など特殊な患者への対応についても解説している。また,内科医が遭遇することの多い頭痛,めまい,疲労,不定愁訴,急性痛,慢性痛,禁煙などに対する対処法も記述されている。
 性の領域では,インポテンス,不妊,閉経期,産前産後の問題が扱われている。性的暴行を受けた患者への対応も考慮されている。高齢者に関する記述も,老年期患者,記憶障害あるいは痴呆など親切である。
 また,特に詳しく記述されている項目は癌患者の抱える問題で,癌患者,緩和ケア,悪い知らせを伝える,人生終末期における治療決断,悲嘆にくれる患者などを項目に分けて解説している。
 治療面でステロイド投与患者へのアプローチ,向精神薬投与患者の管理,薬物相互作用,認知行動療法,治療におけるコンプライアンスの維持,精神療法概論,禁煙,運動療法などまで記載されており,懇切ていねいである。精神科医との協働的治療,紹介方法,医師患者関係における境界の維持などの項も興味深い。

MGHの「心の問題」への対応と,診療の質改善の軌跡

 読者の利便性を考慮し,DSM-IV診断基準のみならず,有用な疾患分類,多くのわかりやすいチェックリスト,フローチャートが随所に挿入されている。読者が短時間で理解できるような配慮である。翻訳された日本語表現では容易に理解できない部分も多少あるが,原則論に関してはおおむね習得できる内容となっている。一部米国特有の問題もあるが,数年後にはわが国でも問題となる可能性があるものもある。
 MGHがどのような姿勢で総合病院における精神疾患,診療各科における精神的問題に取り組んできたか,診療の質改善のための根気強い努力の軌跡が学習できる。
 今後わが国では,診療場面における「心の問題」はますます,その需要を増していくだろう。プライマリケアをめざす医師のみでなく,各科で全人的医療をめざす医師,またリエゾン精神医学をめざす医師に特にお勧めしたい1冊である。企画,翻訳に取り組まれた諸先生に敬意を表したい。
A5変・頁728 定価(本体8,600円+税)MEDSi