医学界新聞

 

第30回日本集中治療医学会が開催

「21世紀の課題-プロを育てる」をテーマに




 第30回日本集中治療医学会が,劔物修氏(北大教授)のもと,さる2月4-6日に,札幌市のロイトン札幌・北海道厚生年金会館で開催された。
 今学会のメインテーマは「21世紀の課題-プロを育てる」。プログラムには,メインテーマと同テーマを冠した黒川清氏(東海大総合医学研究所長)による特別講演や,会長講演「集中治療医学-現在・過去・未来」や,学会第30回を記念して小川龍氏(日医大)による特別企画「集中治療医学会の30年」,学術講演「集中治療と生命倫理-PVS(persistent vegetative state;持続的植物状態)と生命倫理」(東大 金森修氏)などがが行なわれた。
 その他,教育講演13題,招請講演4題,「合併症をもつ心臓血管術後集中治療管理」をはじめとするシンポジウム7題,また全部門合同シンポジウム「MEセンター化における臨床工学技士の役割」などが行なわれた。臨床での是非をめぐって議論が続けられているトピックをディベートする徹底討論には,「集中治療領域における重症患者の予後予測は乳酸菌により可能か否か」「重症急性肺塞栓症の治療戦略-カテーテル外科手術か血管内治療か」「ポリミキシンB固定化カラム(PMX)-敗血症性ショックに有効・無効」「重症患者への輸血量法,積極的に行なう,行なわない」など11題が取り上げられ,多くの参加者を集めた(看護部門の模様は2524号に既報)。


集中治療の抱える課題

 劔物氏の会長講演では,これまでの北大病院での集中治療の歩みや日本における集中治療の歴史を振り返ると同時に,集中治療のプロと言うべき専門医のあり方や,教育制度やマンパワー不足など,現在抱える種々の課題を提示。
 「集中治療は医療の要」とその意義を説き,若い医師に積極的に参加をしてほしいと望む一方,オーバーワークを強いられる現場で若手が働きやすい環境を作るには,看護,コメディカルや事務までを巻き込んだ病院全体でのとりくみが必須とした。さらに,「従来,集中治療では麻酔科が中心だったが,現在のICUでは内科・外科の医師に関わってもらう必要がある。今後の集中治療の発展には,集中治療専門医として,サブスペシャリティとしての他領域の知識を蓄えることに加えて,他科の専門医との協働が必要だ」と訴えた。
 さらに,臨床研修必修化に伴い,救急医療が初期研修の必須科目となることから,「卒後臨床研修にはぜひICUでの研修も加えてほしい。重症患者さんを診ることは勉強になり,医師の成長においても有意義である」と締めくくった。

●多臓器不全の病態解明へ

病態悪化の指標を探せ

 多臓器不全は,現在でも依然としてICUにおける最も頻度の高い死亡原因であるが,その病態は不明点が多いことが指摘されている。シンポジウム「多臓器不全の病態解明への新しいアプローチ」(座長=千葉大 平澤博之氏)では,本病態をめぐって,分子生物学やサイトカインバランス,心拍解析などをはじめとする最先端の手法を用いた病態解明へのアプローチと,臨床応用の最前線が議論された。
 最初に登壇した森口武史氏(千葉大)は,多臓器不全発生前に全身状態の悪化を捉えて,病態の進展を予防することが可能な方法を模索。そこで,IL-6血中濃度異常高値例におけるサイトカイン産生に関わる遺伝子多型性を解析し,Hypercytokinemiaへの個別化対策を提示した。また一方では,心拍1拍ごとの微小な時間的揺らぎを意味するHRV(Heart Rate Variability)は,自律神経機能のバランスを評価可能なことから,重症患者のホメオスタシス把握が可能となる新しいモニタリングであることを示唆した。
 急性肺損傷例は多臓器不全の原因でもあり,病態悪化にに大きく関与するが,血液中の生化学的指標がないのが現状。一方,肺内の病態を調べるBAL(気管支肺胞洗浄)は重症患者には適していない。そこで,石坂彰敏氏(東京電力病院)は,肺上皮被覆液(ELF)を経時的かつ非侵襲的に採取可能なマイクロサンプリングプローベを開発し,本プローベを用いてELF連続採取し解析した。患者は腫瘍マーカーの1つであるKL-6が有意に高値であったことから,KL-6の産生細胞であるⅡ型肺胞上皮の活性化と予後の関連が示唆され,急性肺損傷の病態解析に有効であることを証明した。

サイトカインバランスと重症例

 吉田省造氏(日大)は,重症敗血症患者28症例を対象に,単球上HLA-DR発現率が30%以下と60%以上の2群に分けて,サイトカイン血中濃度(IL-6,IL-10)と,Th1/Th2バランスの測定して比較。HLA-DR発現率が30%以下の群では,急性腎不全合併例が多くて予後が不良であり,またTh1/Th2比が早期から上昇していたことなどが認められた。氏はこれらの結果から,「重症敗血症の病態において,いきすぎた免疫抑制状態を是正する方向で生体内恒常機構が働く可能性が示唆される」と述べた。さらに,単球上HLA-DR発現率が30%以下の症例ではPMX施行による初期循環の維持を行ない,アルギニン投与による免疫賦活を施行するという,単球上HLA-DR値を指標とする敗血症性多臓器不全の治療計画を提示した。
 小野聡氏(防衛医大)もSepsisの病態形成におけるサイトカインバランスに着目。IL-12・18,IFNγなどのようなTh1系サイトカインを誘導して,免疫能を賦活するようなサイトカインの投与は,Sepsis患者や侵襲後の感染症対策になる可能性があるが,現段階での臨床応用は難しいとコメントした。

新たな細胞障害のメディエーター HMG-1

 鵜島雅子氏(大分医大)は,敗血症ショック時におけるHMG-1(high mobility group-1)蛋白の関与に着目して,この受容体であるRAGE(Receptor for Advanced Glycation End Products;糖化蛋白の受容体)を利用した治療とその効果を検討。LPS(エンドトキシン)投与マウスを用いてRAGE・HMG-1のシグナル伝達をブロックしたところ,その病態の改善を認めたことを報告した。このことから,「HMG-1のシグナル伝達ブロックは,敗血症ショック時の病態を改善させる治療法の1つになる可能性がある」と述べ,同様に腫瘍やアミロイドーシス,糖尿病治療への可能性も示唆した。
 小林誠人氏(大阪千里救命救急センター)は,敗血症性ショックにおける病態において,(1)内因性大麻,(2)サイトカイン,サイトカインバランス,(3)HMGが関与しており,特に(2)は患者の生体内環境を決定し,臓器障害に大きく関わっていることを示唆。そこで,PMXを用いた直接血液灌流(PMX-DHP)を行なうことで,サイトカインや内因性大麻を速やかに調節することが病態改善につながることを明らかにし,新たな治療法となる可能性を示した。
 続いて,丸山征郎氏(鹿児島大)は,最近の研究から,核内DNA局在蛋白であるHMG-1が,細胞壊死とともに細胞外に遊離して,受容体RAGEを介してNF-κBなどを活性化し,組織のバリア障害や炎症などを促進することで臓器障害を引き起こし,最終的に「死のメディエーター」として働くということが観察され,注目を集めているとの知見を報告。氏はこれらの研究から「HMG-1は死細胞からの最後のメッセージではないか」と位置づけた。