医学界新聞

 

第3回日本感染看護学会が開催される

現状を見つめ,教育のあり方も議論


 第3回日本感染看護学会が,林滋子会長(山梨県立看護大)のもと,さる1月11日に,東京・板橋区の板橋区立文化会館において開催された。本学会では,薄井坦子氏(宮崎県立看護大)による特別講演「看護の本質と感染看護」や,林会長による教育講演「微生物の広がり方から見た院内感染防護策について」,また,シンポジウム「感染看護の現場と教育」(座長=前日本看護協会 工藤郁子氏,阪大附属病院 上田博美氏)が企画された他,14題の一般演題が集まった。


院内感染防護策の理解のために

 「微生物の広がり方から見た院内感染防護策について」と題して教育講演に立った林氏は,看護における感染予防技術の基本として,(1)細菌等が濃厚に存在しうる所に着目し,周囲に広がらないようにすること,(2)同一患者のケアにおいては,身体各部位への細菌などの広がりを防ぐ,の2点を提示。細菌が濃厚に存在しうるものとしては,尿,便,皮膚・手指,衣服・寝具類,呼吸器分泌物,創滲出液,ドレーン排液などがあるとし,標準予防策を理解してこういったすべての対象が感染源となる微生物を保有しうることを前提にケアを行なうべきであると指摘。また,感染の要因を考え,それぞれのケアごとに,防護具体策をまとめた「院内感染防護策」の必要性についても強調した。

赤裸々に語られた現状

 シンポジウム「感染看護の現場と教育」には,角島由美子氏(山梨県立看護大大学院修士課程),山内敬子氏(愛媛県立新居浜病院東予救命救急センター),伊藤美和子氏(日大附属板橋病院),吉永喜久恵氏(神戸市看護大)の4人が登壇し,それぞれの立場から感染看護の現状について発言した。
 まず,「新卒ナースの立場から」と題し,臨床現場において感じた疑問を明らかにするために大学院へ進学し,感染看護学を学んでいるという角島氏が登壇。大学卒業後に勤務した総合病院で経験した,臨床現場で実際に行なわれていた感染対策に対しての疑問点を次々に指摘した。
 氏は,先輩ナースの指導に対して疑問を持つことがあったが,「当時は疑問を感じても明確な根拠を知らなかった」と述べ,「どちらが正しいのか混乱があった」と,とまどいながらもそこで行なわれていたやり方に従うのみであった状態を告白。また,「感染対策委員会も設置されていなかったため,病院内で問題を解決する手段が不足していた」とも述べ,相談する先もなかったことを示した。
 いまだにこうした問題は多くの病院で起こっているとの考えから,今後の対策として,「院内に管理職を含めた委員会を設置し,どのような感染対策を行なっているのか明らかにした上で,病院に関わるすべての職員に対する教育が必要」と指摘。さらに,学部の基礎教育では,技術・方法論の他に「根拠」を充実させた内容の教育が必要であるとした。

臨床現場での教育

 続いて山内氏は,「現場管理者の立場から」と題して発言。感染管理を徹底させるための教育について「何を,どのように,誰に教育するかを明確にし,さらにそれを評価することが必要」と指摘し,そのためには定期的に,さらに職種別に教育を行なう必要があるとした。また,知識を増やしても動機づけがなければ,不徹底につながるとの観点から,感染症発生率の推移を調査した結果を現場に還元することを提案。さらに,職員の行動様式を「変える」ことの困難さに着目し,学生時代から「手洗いからはじまる医療」を何度も繰り返し教え,習慣づけることや,理論と実際を教示して感染看護に対する理解を深めておくことが重要であるとした。
 伊藤氏は,「現任教育の立場から」と題し,自らが感染対策委員を務める病院における,感染看護の継続教育・現任教育としての研修会について述べた。研修会は,ベーシックコース〔教育目標:(1)院内感染防止の重要性を理解し,基本的知識を身につける,(2)各病棟における問題点を明確にして課題に取り組み,実践に活かすことができる,(3)職場における感染看護に関してリーダーシップが発揮できる〕と,その修了者を対象としたアドバンスコース〔教育目標:(1)感染看護について専門知識を実践で活かすことができる,(2)院内感染サーベイランスの手法を理解し,実践できる,(3)リンクナースの役割(病棟と感染対策委員会との間の連絡をする)を理解できる〕の2コースを設け,それぞれ1年間の研修期間で教育を行なっている。氏は,いずれのコースについても終了後のアンケート調査をもとに,コース自体の評価ができたとした。
 大学で感染看護論を担当する吉永氏は,「基礎教育の立場から」として,感染看護を教育する上での困難な点として,(1)現状ではいくつかの科目にまたがって教えられているため,感染看護の視点から,学生が統合しにくい,(2)目に見えない細菌などを対象にしているため,想像力や思考力がないと危険な状態を捉えきれない,(3)感染予防は実践されなければ意味のない技術である,(4)教室で教えることと,臨地実習で学生が実習する病院の看護実践とのギャップがある,の4点を提示。基礎教育における感染看護教育については,いまだ環境が整っていないことを示した。
 4名の演者と会場を含めたディスカッションで吉永氏は,「感染防護に関わる人の1人が欠けるだけでも,感染は起こってしまう」と強調した上で,卒後の臨床の場における教育の重要性を改めて訴えた。