医学界新聞

 

連載
メディカルスクールで
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   第2回
   メディカルスクールの入学審査(前編)

  高垣 堅太郎
ジョージタウン大学スクール・オブ・メディスン MD/PhD課程1年

前回2519号

 今回は,日本とはがらっと様子の違う米国メディカルスクールへの入学審査の課程についてです。日本の入試制度との比較の意味でも,またFMGとして臨床留学をお考えの方にも参考になる部分があるかと思いますので,2回にわたって詳しくご報告します。

出願から一次審査まで

 米国メディカルスクール出願のための条件は,一般的に以下のようなものです。
*アメリカ国内(またはカナダ)の公的に認定された4年制大学を卒業(見込)
(半分以上の学校がこの条件を課している。明言しない学校も,ほとんどが事実上,この条件を課している)
*英語,数学(統計),生物学,物理学,をそれぞれ1年間相当履修
*化学(有機・無機)を2年間相当履修
(大学の授業は日本とは異なり,週に2-3回,毎週合計3時間程度が標準)
*人文系の授業を一定以上履修
*MCAT受験〔Medical College Admissions Test, medical schoolのためのセンター試験のようなもの。科目は課題作文(30分×2題),文章題,生物・有機化学,物理・無機化学〕
 以上の条件がそろったのち,AAMC(全米医学院協会)が運営する全国共通のホームページから出願することになる。MCATの点数は電子的に自動取得される仕組みになっており,志願者は個人情報と大学の成績,全メディカルスクール共通の作文(「personal comments」および「practice vision」日本語の原稿用紙にしてそれぞれ6-7枚相当か)および課外活動の実績や特技を入力する。その後,出身大学から正式の成績証明書を事務局に送付してもらい,事務局で入力された成績と照合される。
 この情報は指定したメディカルスクールすべてに電子的に配信され,これをもとに各校で入試委員会による1次審査が行なわれる。

2次審査とMD/PhD課程出願

 2次審査以降の事務はすべて,各メディカルスクールごとに独立して行なわれる。1次審査を通過すると,各校から2次審査の願書が送付され,大抵は以下のものをさらに要求される。
*大学時代の教官からの推薦状を何通か
*各校がそれぞれ指定する作文など(現代の医療問題・倫理問題に対する見識を問う作文や具体的な志望動機など。日本語の原稿用紙にして各校約2-10枚程度)
 この情報を受けて,入試委員会によって面接者が選ばれる(Rolling admissionsと称して,事務手続きの完了した順に随時,審査や合格通知が行なわれるため,外国からの出願の際は郵送など諸手続きに時間が掛かり,大きく出遅れる場合がある)。
 MD/PhD課程の出願は大抵,この2次出願の段階から始まる。大抵の場合は一般のメディカルスクールの入試委員会とは別にMD/PhD課程の入試委員会が設けられ,MD/PhDの研究医の先生方を中心に別系統の審査が行なわれる。また,一般のメディカルスクールの審査資料のほかに大学院の願書,抱負やキャリア・プランを述べた大量の作文,今までの研究経験・実績,場合によっては大学院共通試験のGREの成績,さらに一般入試用に提出した推薦状以外に研究指導を受けた先生からの推薦状を1-2通要求されることが多い(MD/PhD出願にあたっては,大学時代に,1-2年の研究経験を積んでいることが要求される)。

面接

 晴れて2段階の書類審査を通過すると,いよいよ各校に出向いての面接となる。米国メディカルスクールの入学審査では,この面接が一番の鍵となる。
 各校によって面接の形式は大きく異なるが,最近は1対1の個人面接を採用している学校が多い(学生は指定されたおのおのの面接者のオフィスに出向き,そこで30分-1時間程度の面接を受ける)。面接では,医師になりたい理由,成績や課外活動,そして提出した作文についての詰問を受けることが多い。また,社会問題や倫理の難問を吹きかけられることも多い。
 面接当日は実際の面接以外にも,お偉方からの挨拶,カリキュラムなど特色の説明,在校生による校舎・施設のツアー,在校生との質疑応答なども行なわれ,学生の誘致活動という側面も帯びてくる。
 MD/PhD課程の面接はこの誘致活動の側面がさらに強い。大抵は旅費や宿泊費が支給され,多くの研究者と会って研究内容についての討議を行なうほか,在学MD/PhD学生との夕食会や町の観光案内などといった社交も行なわれることが多い。そしてMD/PhD課程の面接は1次面接と2次面接の2回に分けて行なわれることも多い。すべてを通じて,全面的に各校の看板学生にふさわしいか,そして間違いなく卒業して校名にふさわしいようなキャリアを築けそうかを判断される。
 少々大袈裟に映るかもしれませんが,学費免除・生活費支給というMD/PhDの厚遇を考えれば,この厳格な審査も当然なのかもしれません。

受験戦争

 以上のような審査要件のため,メディカルスクール進学希望の大学生(俗に「pre-med」)は第1回にご報告したとおり,大学の授業の段階から大変熾烈な成績競争を展開するのです。
 また課外活動歴も重要なポイントになります。定説では(1)医療系のボランティア活動,(2)生物系の研究室在籍経験(これは推薦状獲得にもつながり,MD/PhD出願の場合は必須),および(3)課外活動の役職経験があることが望ましいとされ,熱心なpre-medは課外活動のスケジュールもおのずと過激なものになります。このお決まりの活動以外では,短期留学やスペイン語の特訓(大都市の大学病院では,英語を話さない南米移民の患者が多い)などが多いと思います。私も卒論以外に内科で研究の手伝い,開業医院での見学,大学オーケストラでのコンサートマスター,NHKの科学・医学番組の翻訳補助などを経験しました。
 面接のためのストーリー作りもまた,おのおの鎬を削る部分です。なぜ,どういう医者になりたいか,という定石の質問に対しては,誰もが経験談を引き出しながら理路整然と述べられるよう内容を熟慮します。そして,なぜそのメディカルスクールで学ぶことが自分の医師像の実現につながるか,さらには自分の存在がその学年・そのメディカルスクールの中でどのような意義を持ちうるか…… こういった,日本語で書くと赤面してしまいそうなストーリーを展開できる力が要求されているのです。
 因みにそれぞれのストーリーには裏づけが必要で,「都市部の貧民に医療を施したい」といえばそのような施設でのボランティア活動経験を問われ,「テレビのERが格好いいと思ったから」といえば,実際のERでのボランティア経験が必要です。もし「貴校はランクが高いから選んだ」という時には,ランクの高い大学の特待生出身でなければならないわけです。
 この面接の時のストーリーや医師像を心から信じて,入学後もその実現に邁進する人が多いのには驚きます。
 次回は入試委員会などの制度面の様子と入学者の素顔を中心にご報告した後,この制度の影の部分にも触れたいと思います。