医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


強い衝撃。専門家として深く考えさせられた

《シリーズ ケアをひらく》
べてるの家の「非」援助論 そのままでいいと思えるための25章

浦河べてるの家 著

《書 評》鈴木二郎(国際医療福祉大教授・山王分院/精神医学)

 現在,世界や日本各地で,さまざまな形の精神障害者や家族の社会復帰,リハビリテーション,ノーマライゼーションあるいは共生の活動が行なわれている。しかし「浦河べてるの家」は,おそらくまったく他に例を見ないユニークな集まりと活動といえるのではないか。
 本書は,そのべてるの家から出版された2冊目の本である。1冊目は,1992年に発行された『べてるの家の本-和解の時代』(べてるの家の本制作委員会)で,初版3,000部があっという間に売れ,1995年には第5刷が出版されている。その年からビデオ『ベリー・オーディナリー・ピープル』の撮影を開始し,2002年には自主企画ビデオシリーズ『精神分裂病を生きる』全10巻が発行されている。

あっという間に引き込まれて……

 『べてるの家の「非」援助論』というタイトルは,一見硬くギョッとするが,読みはじめると各章のイラストと写真も実に楽しく,あっという間に引き込まれてしまう。
 短時間ではあったが,私がべてるの家を訪ね,少数の仲間と共に過ごし,一夜飲んだ時に感じた楽しさと同質である。だが,この本はそれだけではない。精神疾患,精神障害というものを当事者側から明るくしかし鋭く抉り出し,どのようにリハビリテーションをするかでなく,「人としてのコミュニケーションの歪みこそが,この社会におけるいわゆる精神障害者と健常者のバリアになっている」ことを的確に示しているのである。

いくらでも話したくなり,書きたくなる

 内容は,副題にある「そのままでいいと思えるための25章」に巧みに表現されている。大別して5部に分けられ,全部で25章とインタビュー,巻末にはべてるの家周辺の地図,歴史,組織図までがつけられている。本書も第1冊目同様まえがきに始まって,各章を当事者,協力者,そして主としてソーシャルワーカーの向谷地氏がそれぞれ執筆している。ただ家族の姿はない。
 先にあげた第1冊目がべてるの家の沿革や,各人の関わりの経緯を述べたいわば「初期の生の歴史」といえるのに対し,2冊目の本書は,当事者の生の言葉と活動,関係を通じて,“私”を再定義する研究によってさらにべてるの家全体が,混乱のまま発展していることを示している。
 とにかく,どの章もすべて紹介したくなり,その話についていくらでも書きたくなる。「べてるの家に来ると皆よく話すようになる」という通り,私にもその病気が出たようである。しかし紙幅の制限で,いくつかのタイトルだけあげるにとどめる。意味は本書を読んでいただきたい。
 「べてるはいつも問題だらけ」,「安心してサボれる会社づくり」,「発作で売ります」,「昆布も売ります。病気も売ります」,「三度の飯よりミーティング」,「幻聴から『幻聴さん』へ」,「言葉を得るということ」,「昇る生き方から降りる生き方へ」,「弱さを絆に」,「それで順調!」,「場の力を信じること」,「幻聴&妄想大会」などなど。

“常識を突き抜けた”活動を支える専門家たち

 実は,私は専門家として本書の書評を依頼されたのであるが,べてるの家との何度かの接点でその度に強い衝撃を受け,笑いとともに深く考えさせられている。浦河の街の人にべてるの家について訊ねると,「ああ,普通ですよ」と答える。10年前は,そうではなかったであろう。べてるの家という“場”が,自分たちの弱さを言葉にした人たちによってでき上がり,浦河の街に生き,街の人たちと生きている。
 当事者や関係している人びとの苦悩は,実は想像を絶するものであろう。しかし,それを包む暖かさは,向谷地氏の巧まざるユーモアと,精神科医の川村氏の当事者への信頼を基にした姿勢によるものであろうし,本当の意味の「共生」を可能にしていると思える。この2人が,真の専門家としての洞察と見識によって,「どんぐりの会」以来の教会の住居から当事者の話し合いを重ね,これまでの常識を突き抜けた集まりと活動を支えてこられたと思う。
 べてるの家が今後とも問題だらけで継続することを希望し,多くの医師がべてるの家を訪ねることを勧めたい。
《べてるの家の活動と思想のキーワード》
弱さ-豊かさ-言葉-ユーモア-絆-場-地域-お互い-自立
A5・頁256 定価(本体2,000円+税)医学書院


群をぬくわかりやすい図でリウマチ・膠原病診療に内迫

内科医のためのリウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト
上野征夫 著

《書 評》藤田芳郎(中部労災病院部長・腎臓内科)

すばらしい著者とテキストとの出会い

 どの分野にも言えることかも知れませんが,基本を独学で身につけることは,特に臨床医学の分野は多岐にわたりすぎており,不可能なのではないでしょうか。基本こそ長年培われた集大成であるからであり,独学といってもよき人,よき本,すなわちよき環境との出会いがなければ,学ぶことはできないと思われます。
 基本を身につけるにはどうしたらよいか。よき出会いを求めて探さなければなりません。臨床医学の分野で詳しく厚い教科書は巷にたくさんあります。しかし,詳しすぎず基本を徹底的におさえ,誰もが読みやすい分量を達意の文章で書かれた本,何度もそこに帰ることができる本に出会えることは稀です。さらに基本の教科書は読み込まれなければならず,ちょうどよい薄さとわかりやすさとが必須条件になります。
 上野征夫先生がこのたび出された『内科医のためのリウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト』は,そういうすばらしいテキストであります。私どもはあるありがたい縁で上野先生に出会い,先生から独学だけでは到底到達し得ない診断およびその方法を教授され,その幸せをかみしめています。
 非専門の内科医が本書を紹介することはおこがましいことかもしれませんが,非専門の医師にわかりやすいことが基本書の必須条件でありますので,本書と出会った感動の一部を以下に述べさせていただきます。
 関節痛を訴える患者の診断の仕方に困ったことのない医師は,まずいないでしょう。どう鑑別診断していくのかの具体的方法が上野先生の経験がにじみ出る形で,先生の頭の働き方がわかる形で簡明に書かれています(6-10頁)。さらに,具体的な診察方法としてどうやるのか,関節の診察方法を教わる機会は少ないと思われますが,実際に上野先生に患者を診察していただき,こういうふうに関節の診察はもれなくすると簡単だよと教えられて本書をみると,まさにそれがわかりやすい図で書かれていました(27-33頁)。私は本書をみながら繰返し学習しております。
 さらには,本書を開くとまず写真のすばらしさに眼を奪われてしまいます。「New England Journal of Medicine」のImages in Clinical Medicineや「Arthritis & Rheumatism」のClinical Imagesに匹敵するすばらしい写真がのせてあり,医学書院の方々の労も多としなければならないと思われます。
 多くの内科医にとって苦手な骨のX線写真の解説も非常に詳細で,これによって私は整形外科に問い合わせる前に,まず自分で本書を参照しながらX線写真をみることになりました。
 そしてさらにいっそう私にとってありがたいのは,複雑すぎない解剖の図のすばらしさです。首の痛み,肩の痛みなどのそれぞれの章に掲載されている解剖の図です。五十肩の痛み方がわかるような形での解説と図(90-91頁)もそうです。リウマチ・膠原病をしっかり勉強したいと思って,例えば,アメリカ関節炎財団の出している『リウマチ入門』などの教科書を求めても,分子生物学的記述に圧倒され,そこを飛ばして直接臨床に関連する箇所を探りだし読み出したとしても,再び困難を感じ挫折してしまうのは解剖です。手足の骨の数さえ憶えていない私にとって,いきなり靭帯の名前,関節の名前が出てくるとくじけてしまいます。本書は,そのような人に対しても実に要所要所でわかりやすい図が入れてあり,ありがたいのです。慢性関節リウマチの「C1-C2の亜脱臼」と言われても,何靭帯がゆるんでX線写真の所見はどうなるのかわからない,そういう人にもたちどころにわかる図があり,たいへん助かります(83頁)。

感動的ですらある心あたたまる診療記載

 ところで,研修医に必ず質問されることの1つに,ステロイドの使い方があります。どういう減量の仕方がよいか,パルス療法の適応は,手術時の投与の仕方は,などなど。それらの答えも本書ではわかりやすく 具体的に解説されており(66-70頁),かゆいところに手が届く上野先生の実践的な態度,教育者としてのやさしさがにじみでている1例だと思います。先生のやさしさと言えば,関節リウマチ患者への病気説明を示した表6-3(134頁)などにも,さらに関節リウマチの代替治療にも「コントロールデータは不足しているが,安全性を見きわめて,否定しない姿勢を保つ」(136頁)など心あたたまる記載があり,感動的です。
 このようにすばらしい本書をぜひ学生,研修医をはじめとする医療関係者の多くの方々の座右にお勧めしたいと思います。
B5・頁244 定価(本体6,800円+税)医学書院


「胃と腸」編集委員会の総力を結集した用語事典

胃と腸用語事典
八尾恒良 監修/「胃と腸」編集委員会 編集
牛尾恭輔,池田靖洋,下田忠和,多田正大,吉田 操 責任編集

《書 評》上西紀夫(東大大学院教授・消化管外科/代謝栄養内分泌外科)

 世界に誇るわが国の消化管診断学をリードした先達の先生方が創立された「早期胃癌研究会」により,雑誌「胃と腸」が医学書院より発刊されたのは1966年であり,今年で第38巻を数えている。当初は,「胃と腸」であったが,1977年に「胃と腸」になり,最近では「胃と腸」といった趣で,わが国における消化管疾患の変遷を表している。
 この長い歴史の中で,消化管形態学に関するさまざまな表現や用語が用いられ,それに基づいた診断や治療が大いに進歩してきたわけであるが,さらなる進歩のためには共通の言語でのディスカッションが必須である。特に画像診断をめぐっては,1つひとつの言葉や用語によって皆が同じイメージを頭に描くことがきわめて重要である。一方,画像診断における技術革新はめざましく,それに伴ってさまざまな用語や造語が氾濫気味に登場し,その言葉の基になった意味を理解せずに使われていることも少なくない。

消化管診断学の進歩の流れの中で価値ある1冊

 そこで今回,この伝統と歴史に輝く「胃と腸」の編集委員会により,消化管疾患の診断,治療に携わる医師のために本書が刊行されたことは,まさに時宜を得たものである。さらに,頁をめくって拾い読みしてみると画像診断の歴史を垣間見ることもでき,本書は単なる事典ではなく,すばらしい読物であることがわかる。そして,編者も述べているように,用語や造語を整理すると同時に,消えつつある歴史的な用語を記録しておくことにも重点を置いており,消化管診断学の進歩の流れの中で価値のある本となっている。また一方で,最近は横文字による表現も増えており,その表現が適切であるか否かの判断に迷うこともあるが,本書ではその出典を明らかにしていることがすばらしく,英文論文の執筆に際しても大変便利な事典となっている。
 本書のもう1つの特徴として,第一線の病院や実地臨床で活躍されている先生方が数多く執筆されていることである。すなわち,「胃と腸」で育った,あるいは育てられた方々が執筆されており,厳選された画像とその解説の記述を読むと,執筆者の息吹がひしひしと伝わってくる。その意味では本書は魂のこもった事典であり,消化管疾患の診断・治療に携わるすべての人にとって必携の本である。手元に置いて活用されることをお勧めする。
B5・頁332 定価(本体6,000円+税)医学書院


治験・臨床試験にかかわるすべての医療従事者に必携

日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン準拠
CRCテキストブック

日本臨床薬理学会 編集/中野重行,安原 一,中野眞汎,小林真一 責任編集

《書 評》古川裕之(金沢大附属病院・薬剤部/臨床試験管理センター)

着実に増加しているCRC数

 1997年4月の新GCP(Good Clinical Practice)施行に連動して,厚生省(現在は厚生労働省)は治験を円滑に実施するためのサポート体制として,CRC(Clinical Research Coordinator)養成の検討を開始した。これに合わせて日本病院薬剤師会が企画したCRC養成研修会では,1998年8月開催の第1期から2002年8月の第5期目までにのべ861人の薬剤師が受講している。
 CRC数は,1997年から2002年の6年間に着実に増加している。CRC全体としては,薬剤師と看護師ライセンスを有する者がほとんどを占めているが,最近,臨床検査技師ライセンスを持つCRCもめだち始めている。2002年10月に横浜で開催された第2回「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」は,2001年の第1回会議(別府)の参加者800人(これは,予想外!)を超える1000人以上の参加があった(会場スペースの関係で,涙ながらに参加申込みをお断りしたと,お聞きしています)。

高まる期待,認定CRCの誕生

 CRC業務は,(1)事前打ち合わせ,(2)被験者スクリーニング,(3)被験者適格性の確認,(4)同意取得のサポート,(5)スケジュール管理,(6)同種同効・併用薬剤チェック,(7)治験関連検査サポート,(8)被験者ケア(服薬説明,来院連絡,相談),(9)モニタリング・監査対応,(10)症例報告書(CRF)作成サポート,(11)被験者の同行,(12)有害事象への対応,と幅広い。
 2002年7月の改正薬事法の成立を受けて,2003年には医師主導型の治験や大規模治験ネットワークがスタートする。また,市販後臨床試験,大規模臨床試験や医師主導型の治験においても方法論と迅速性について欧米と同水準が求められることから,被験者の安全性,試験の科学性,データの信頼性確保の一翼を担うCRCへの期待は一層高まることが予想される。
 そのような状況の中で,各種研修会や学会において,CRCの資格認定についての議論も生まれるようになった。この問題に最も早く取り組んだ日本臨床薬理学会「CRCの養成・認定に関する委員会」は,学会誌「臨床薬理」の2002年第1号において「日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン」を公表した。そして,予定では,2003年6月には初の認定CRCが誕生する予定である。
 そのガイドラインに基づいて作成されたのが,本テキストである。執筆者の顔ぶれは納得です。内容も,幅広い範囲についてわかりやすくまとめられている(手にとって確かめてね)。本書は,将来CRCをめざす学生のためのテキストとしても利用できる。
 ただ,希望をひとつ。さらに深く学習できるように,規制当局からの関連通知リスト(タイトルと通知日がわかれば厚生労働省のホームページで参照できる)と,重要項目について「臨床薬理」誌など関連雑誌に掲載された有用と思われる論文リストをつけてほしかった(改訂時に期待しています!)。
 CRCは,5年前には存在しなかった新しい職種である。CRC業務に関心のある者は,自分の専門性をベースにして,既成の概念と職域にとらわれずに,フロンティア精神とチャレンジ精神を持続させてCRC業務のさらなる発展に向けて取り組んで欲しい。
 本書が,その人たちの強力なサポーターになれれば,うれしい。
B5・頁288 定価(本体4,200円+税)医学書院


最近の輸血学の成果を取り入れた実践的な解説書

輸血ハンドブック 第2版
霜山龍志 編集

《書 評》前川 平(京大附属病院教授・輸血部/分子細胞治療センター長)

 故関口定美博士の薫陶を受けた北海道赤十字血液センターの先生方の執筆により,『輸血ハンドブック』(第2版)が霜山龍志博士編集により医学書院から出版された。280頁のコンパクトな構成であるが,各章の最初に要点がまとめてあり,わかりやすい図表とともに本書を特色あるものにしている。また,新たに巻末に「輸血療法の実施に関する指針」,「血液製剤の使用指針(要約)」,「血小板製剤の適正使用について」,「輸血におけるインフォームド・コンセントに関する報告書」,「自己血輸血:採血及び保管管理マニュアル」,「輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインIV」など輸血療法に関する種々のガイドラインが要約されて掲載されており,まことに便利である。このようなコンパクトな輸血医学書は,ほかに全国国立大学附属病院輸血部会議によるものがあるが,それよりも活字も大きくより見やすいように工夫されている。
 昨今,過誤輸血などの問題が大きくとりあげられることが多いが,本書の上記巻末付録「輸血療法の実施に関する指針」には,輸血管理体制のあり方も項目を設けて記載されている。具体的な輸血管理については,各病院ごとにマニュアルが作成されているところではあるが,次回の改訂時にはできれば図解するなどして一目瞭然にされることをぜひお願いしたい。また,輸血管理のリスクマネジメントは,その重要性から本編の中に新たな章を設けて解説していただければ,よりプラクティカルなものになると思われる。今回,医学部学生の講義の準備をするにあたり,本書を随分参考にさせていただいた。

求められる臨床の現場に即した輸血医学教育の構築

 私も尊敬してやまない故関口先生の言われる「サイエンスにもとづく輸血医学の確立」と同時に,より臨床の現場に即した輸血医学教育の構築が,今後の輸血医療の実践には求められると考えられる。ボリュームもまったく本書とは異なるが,『Rossi's Principles of Transfusion Medicine』(3rd edition, 2002)には,新たに輸血を受けた症例の報告とその検討などが,“Case”として随所に書き加えられている。こういった観点も今後必要になると考えられる。
 京都大学の輸血医学講義は9コマあり,客員講師に3コマをお願いしている。輸血医学は臨床に立脚したものでなければならないと思われ,学生の講義を行なうにあたり,従来の系統講義だけではなく,可能な限り輸血を受けた症例をまず示して考えさせた。そして,それについての解説を加えるというスタイルにしたところきわめて好評であった。各講義のテーマを前もって示しておき,予習プリントを配布しておく。勉強してくる学生は,自分で基礎知識を調べてくる。学生から何かよい本を教えてほしいと問われ,迷わず本書を参考書として推薦させていただいた次第である。
A5・頁280 定価(本体3,400円+税)医学書院