医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


プラス思考による援助の姿勢を強調

痴呆性高齢者の残存能力を高めるケア
パム・ドーソン,ドナ L. ウェルズ,カレン・クライン 著/山下美根子 監訳

《書 評》高崎絹子(東医歯大教授)

 2004年10月に世界アルツハイマー病協会の国際会議が京都で開催される予定ですが,日本でも痴呆ケアに対する研究や対策に本腰を入れる必要性が認識されるようになりました。しかしながら,一般的には老人性痴呆は高齢社会の象徴のようにマイナス面だけがいたずらに強調されることが多いといえます。そうした中で,『痴呆性高齢者の残存能力を高めるケア』という本書の前向きなタイトルは,非常に魅力的です。内容も,高齢者ケアに対する理念と理論,さらに長年クリニカルナーススペシャリストとして勤務していた著者自身の豊富な実践経験に裏打ちされており,小さな判型の本ですが,読み応えのある1冊です。

重要な「プラス思考で看護する」姿勢

 本書の特徴は,予防や治療法すら明確ではない痴呆性疾患の現状の中で,介護する家族や看護者は,「プラス思考で看護しよう」という姿勢が何より重要であると強調されていることです。“イネイブルメント”(enablement;できる能力に働きかける過程)という概念を中核にし,痴呆症の患者の機能が最高のレベルを維持できるような“コンテント・メソドロジー”(content-methodology;内容方法論)を開発することを目的にしています。
 イネイブリングの目標は,「他者が成長し,回復し,セルフケアを遂行できるように促す」ことですが,その人の“できる能力”に焦点を当てているという点が,痴呆性高齢者の心身の病理とそこから生じる能力の喪失に焦点を当てる臨床医学のアプローチとは,対照的な考え方です。
 痴呆疾患によって障害される「社交性」,「セルフケア」,「対人関係」,「認知機能」の4つの分野に焦点を当て,痴呆性高齢者が自分の能力を日常生活の中で最大限に発揮し,痴呆のために生じる予期しない出来事に「うまく対処できる」ように支援することが重要であるとしています。例えば,アルツハイマー病の高齢女性が目の不自由な人に向かって声を出して本を読んであげている場合,たとえ彼女が読んでいる内容が理解できなくても,読む能力があることは彼女自身の満足感につながると同時に,聞いている人の役に立っていることに意味がある,と著者は述べています。この考え方については,日本でも馴染みのあるジョンズホプキンス大学のラビンス博士の理論やアプローチと共通するころがあります。
 本書の各論では,「社交性」,「セルフケア」,「対人関係」,「認知機能」の内容について,臨床上の特徴と影響を受ける能力,アセスメントの方法,看護介入に関し,日常遭遇する具体的な例を豊富にあげて説明がされています。医師や看護職はもちろん,PT,OTを含む医療職や介護職などさまざまな職種の方にも読んでいただき,実践の中で活用することをお勧めします。
A5・頁184 定価(本体2,600円+税)医学書院


急激に進む病院のIT化に対処する看護職の必読書

ナースだからできる病棟情報システム化プロジェクト
福井トシ子,竹内千恵子,有江典子,根本康子 著

《書 評》坂本すが(NTT東日本関東病院看護部長)

緊急の課題 病院の電子カルテ導入

 厚生労働省は,「保健医療の情報化にむけたグランドデザイン」において,2006(平成18)年度までに400床以上の病院の60%に電子カルテを導入することを目的にあげている。補助なども行なわれることから,医療界は病院のIT化に向けて,コストに苦慮しつつも,大きく動きつつある。
 電子化システムの導入にあたっては,経験上,私は病院内の標準化が最優先課題であると思っている。よって導入が成功するかどうかは,病院のチーム医療,チームへの結集力が試されることになる。病院の中で,それぞれの部門が役割分担し,決められたルールにのっとって業務を行なうこと,当たり前のことではあるが,それが医療情報のシステム化には必須である。そして特定の部門は参画しないなどということはあり得ない。職員の全員参加,コンセンサス,調整が重要になる。

病院電子化システム成功への貴重な道筋を開陳

 特に,看護部門は多くのスタッフを抱えていること,いつも最も患者の身近にいること,生活関連の業務が多いことなどから,IT化に関するほとんどの事柄に看護部門は関係する。よってIT化においては看護部の働きが最も重要な鍵となると言ってもよいだろう。
 本書の「はじめに」の部分に書かれているように,外来オーダリングは医師中心,病棟は看護部門中心となって電子化システムの導入を図ったとのことだが,本書では,その成功への道筋が詳細に記されている。特に看護職の読者は,看護部門がいかにして主体的に取り組み,いかにして医療情報システム構築の推進者として活動できるのか,プロジェクトに参画できるのかに注意して読んでみるとよいだろう。
 まず導入にあたってシステムの骨組みの中心になる病院の体制づくりから,それに関連した看護部の体制づくり,キックオフミーティング,メーカーとのつき合い方,ワーキンググループ活動の実際,運用マニュアルの作成,操作説明・操作訓練・リハーサルそしてシステムダウンについてまでもが詳細に報告されている。特にマニュアル作成の章は,ぜひ目を通しておきたい部分だ。
 読んでいて,システムの構築場面が目に見えるようだった。NTT東日本関東病院では,このような本がない時期に試行錯誤しながら総合的な医療情報システムを構築した。そのためかこの本の内容がリアルに,実感としてよくわかるし,われわれの時にも本書があれば随分参考になっただろうと思う。なぜこれほどに現実状況が明確に書かれ,またシステム構築の問題や解決プロセスがわかりやすく書けるのかと言えば,それはまさしく看護職がプロジェクトリーダーだったからであろう。
 医療情報システムの電子化構築を進める病院が増えつつある中で,病院職員が一丸となってシステムを構築すること,看護部門の関わりが重要であることは先に述べた通りであるが,ことはそう簡単ではない。
 本書は,看護部門が電子化システム導入のリーダーになり,その役割をいかに果たしたか,そしていかに成功したか,その重要な報告書である。これから病院のIT化に関わる看護職には,必読の書である。
B5・頁104 定価(本体2,000円+税)医学書院


組織でも個人でも即実践できる与薬事故防止策の集大成

ヒヤリ・ハット報告が教える内服与薬事故防止
川村治子 著

《書 評》秋吉静子(横須賀共済病院看護部長)

医療事故防止策は,病院生き残りの最重点課題

 ヒヤリ・ハット報告が教える内服与薬事故防止の本を,雑誌「病院」で連載もされていた川村治子先生が発行された。度重なる医療事故に対し,2002年10月から院内医療事故予防対策が未実施の場合,減算10点が開始される。今や医療の質保証として医療事故防止対策は,どの病院でも生き残りをかけた優先度の高い課題である。インシデント,アクシデントの報告の迅速性やシステムとしてとらえた業務改善は,チーム医療としての全体的視点とともに組織横断的に関係部門の業務範疇の見直しや確認,あるいは新たな視点での業務整理が必要になると考える。
 特に医療事故の大半は,看護師の業務内容と関連する。看護職の業務は,病院組織の前方機能であることから,必然的にケアの最終提供者となることが多く,かつ多くの関係部門と接点を持っているがゆえに,アクシデントになる時は,いくつかのチェックをすべてくぐり抜けて起きる。一刻も早く事故予防の決め手を繰り出したい現場の思いはあるが,取り組む内容が多岐にわたり,遅々として進まずの感があるのは否めない。

1200事例の業務プロセスを丹念に分析した知見

 この本は全国のヒヤリ・ハット事例1万の中から,与薬の1200事例を丹念に整理し,多くの病院で起こり得るケースの最大公約数的な事例が紹介され,懇切ていねいに根拠を明らかにし,予防策が示してある。したがって,事故予防策としてすぐに役立つ内容である。著者は事例を解析し,現象の裏にあるシステムやヒューマンエラー特性,人間工学,看護教育のあり方などの関連要因を,医師として臨床を熟知した立場で鋭く問題を浮き彫りにし,医療界の今後の課題を明快に示唆している。またナースたちにとっては,「事例の何に着眼し,何が重要であるのか」について学ぶことができる待望の書と言える。
 私は,この本の使用方法を4通りに考える。1点目は,院内全体のシステム改善として病院管理に役立てることができる。与薬に関わる医師,看護師,薬剤師,事務職などの業務規定や分担システムを医療安全管理委員会で検討するのに有効である。また研修医,新人看護師や薬剤師などの集合教育に活用できる。2点目は,看護管理に関わる人々に役立つ。具体的には業務師長や教育師長,各科の師長・主任たちが活用する機会は多い。内服自己管理の基準,責任の所在,業務基準の見直しや検討,現任教育や職場内教育にも大いに参考となる。3点目は,スタッフナースの自己学習の参考書となる。4点目は,看護師以外の職種の方々も日々確認するためのテキストとして活用できる。与薬事故予防策の推進に大変役立つ本であり,私たちには朗報の1冊である。
A5・頁104 定価(本体1,600円+税)医学書院