医学界新聞

 

荒波の中,自力で泳ぎ続ける能力を培う

第6回EBM&Nワークショップ開催


 昨年11月16日-17日の両日,第6回Evidence-Based Medicine & Nursingワークショップ(主催:同実行委員会,愛知県臨床疫学研究会)が,金沢大学医学部および同附属病院を会場に開催された。今日,「EBM」という言葉が,医学生たちの日常の話題にもなりつつあり,同ワークショップにも多数の医学生が参加した。参加した医学生および,代表世話人を務めた金沢大総合診療部の野村英樹氏に,同セミナーの様子をレポートしてもらった。

(「週刊医学界新聞」編集室)

 


■真北を指すコンパス
――――野村英樹(金沢大総合診療部,同ワークショップ代表世話人)


 「皆さん,真北の方向を指差してみてください!」
 第6回Evidence-Based Medicine & Nursingワークショップの幕開けで,最初に参加者に投げかけられたのはこの問いかけだった。
 このワークショップは,主に臨床現場で実際に患者と向き合う医療者にEBMの考え方とスキルを提供することを目的として,日本でEBM・EBNの普及に努めているグループや個人が協力して年1回開催しているもの。今年は看護系コースおよび質的研究コースが新たに設けられ,参加者・チューターを併せて170名という一大イベントとなった。
 ワークショップはまず,石川県立中央病院内科の松村正巳氏のコーディネートで「日本の診療ガイドライン:現状の問題点とその対策」をテーマとした小グループ討論と発表からスタート。このセッションではケータリングのスターバックスコーヒーを飲みながら,小グループ討議に馴染み,また全員で問題意識を共有した。
 続いて16日の午後から初級コース(ディレクター:和良村国民健康保険病院 後藤忠雄氏,金沢大学医学部保健学科 真田弘美氏),中級コース(豊生会東苗穂病院中川仁氏),質的研究コース(国立病院東京医療センター 尾藤誠司氏,金沢大学医学部保健学科 稲垣美智子氏),教育コース(作手村診療所 名郷直樹氏)に分かれてメインの小グループ学習を行なった。
 最後に17日午後から「臨床の知」と題して北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科の梅本勝博氏によるインタラクティブな講演が行なわれ,学んだばかりのEBM・EBNの手法が医療の中でどのような意義を持つのか,参加者の1人ひとりが理解を深めていった。
 EBM・EBNとは,言わば「激動の医療界の中で,常に正しい目標を見失わず,自らの力で泳ぎ続ける能力」である。学生や研修医も多数参加したこのワークショップで,参加者たちは「真北を指すコンパス」を手にすることができたのだろうか?

■EBMへの扉が開かれた
――――上山伸也(金沢大5年)


 医学教育において十分に時間が取れていないものにはいくつかありますが,このEBMもその1つではないでしょうか。EBMのように医師国家試験に直接結びつかないものは,なかなか学生の関心を引くことが難しいように思います。しかし,私は逆に,時間のある学生のうちにこそ基本だけは理解しておきたいと思っていました。そんな折に今回,金沢でワークショップが開催されることを主催者でもある野村先生よりお聞きし,すぐに申し込みをしました。
 まずsmall group discussion(SGD)でお互いに意見交換しながらEBMの理解を深めていき,SGDで得た結論や解決できなかった疑問点などをその後の全体セッションにて発表するという形でワークショップは進められました。さまざまな分野の方が入り乱れ,白熱した議論とユーモアたっぷりの発言が交錯し,参加者は幾度となく笑いの渦へと巻き込まれていました。そのため初心者でもEBMに対して構えることなく,楽しく学ぶことができました。またそれだけでなく,さまざまな分野の方々と議論できたことも大きな収穫だったように思います。
 EBMはツールであり,一度勉強して終わるものではなく,継続することが大切です。この2日間で学んだことを,参加者だけでなく,参加できなかった方々ともshareしていきたいと考えています。このような企画に参加できたことをとてもうれしく思っています。今回のワークショップに関わられたすべての方に感謝すると同時に,今後のさらなる発展をお祈りしています。EBMへの扉が大きく開かれたとても有意義な2日間でした。

■医学情報収集・検討・適応法
――――竹越大輔(京大5年)


 「EBM」という言葉でくくっていなくとも,医学情報の収集法・その検討法・適応法については当然大学のカリキュラム中に組み込まれているものだと思っていた。それは法学部生が六法の読み方の学習をするくらい至極あたりまえなことだと認識していたが,学年が上がるにつれ,今の医学教育の現状ではそのような技術についての教育はほとんどなされていないということがわかってきた。そういったことに気がついて暗鬱としていた時に,今回のワークショップのことを知り参加することにした。
 事前に配布された資料は大変よくできており,ワークショップを企画なされている方々の熱意を感じることができた。実際参加してみてもスタッフの皆様の意気込みが随所に感じられ,大変心地のよいものであった。今回から小グループでのディスカッションを中心に据えて,参加者がより直接的に参加できる形をとっているのもよい試みである。
 ただ,残念だったのは急増した参加者に対応するために急遽小グループの数を増やしたためか,グループによっては時に準備不足の点があり,効率的に学習ができたとは言い切れない面もあったことである。僕の知る限りでは,「参加者に積極的に発言させるようにもっていくことと自分が黙っていることとをチューターが時に混同してしまって議論が進まなくなってしまうことがあった」とか,「まったくの初心者なのに議論を丸投げされて困った。やはり包括的な基礎知識の講義もしてほしかった」などの意見があった。今後はEBMの知識に加えてワークショップ自体の技術的なノウハウが洗練されていくことで,このワークショップが回を重ねるごとにさらにすばらしいものになるであろうと期待している。

■質的研究コース
――――寺澤富久恵(筑波大5年)


 今回のセミナーは前回の札幌に続き2度目の参加でした。前回は中級コースで量的研究の検索法・吟味・患者への適応を学んだので,対比として今回は質的研究コースを選択してみました。事前に課題の論文が送られてきましたが,実は私は質的研究の論文を真面目に読んだのはそれが初めてで,どう吟味してよいのか非常に戸惑ってしまいました。混乱のまま会場にたどり着き,セミナーが始まったのでした。
 スモールグループセッションがワークショップの中心でしたが,7名ほどのグループで,チューターの先生の助けを借りながら,論文を吟味し,どう患者に適応していったらよいのかを,EBMの4つのSTEPに従って考えていきました。医師・薬剤師・大学院生・医学生と参加者のバックグラウンドはさまざまでしたが,「質的研究とは何か」,という根本的な議論までできて楽しい一時でした。ワークショップでは質的研究の検索方法も実習があり,有料の検索サイトや無料のMEDLINEを用いた効果的な検索方法の紹介がありました。MEDLINEでは,質的研究に効率よく対象を絞るMeSH(physician-patient relationshipやdrug adherance,health behavior,attitude to healthなど必要に応じて)があると習い,実習してその有用性を確かめることができました。
 今回のワークショップを経て,「質的研究とは何か」,ということが見えてきたように思いますし,また臨床での疑問の解決に質的研究を加えるとまた臨床の深みが増していくような気がしました。