医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

こんな医療者と一緒に歩きたい

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 ある病院の依頼を受けて新研修医の採用面接に立ち会うことになりました。模擬患者の目で見てほしいと言われたのですが,結局ふたを開けてみると,模擬患者(私)も病院スタッフの方も似たような感覚で見ていたことがわかりました。
 大学という高等教育機関に身をおき学んできたことがその人全体の成長に結びついていると感じられると,今後もさらに研鑽を積む意欲がありそうに思えます。裏を返して言えば,勉強に限らず学ぶという姿勢が感じられない場合は,自分の人生に対しても他人のことに対してもなげやりな印象を受けます。そういう私の目が特殊(意地悪?)ではないということがわかっただけでも貴重な機会でした。
 疾患と患者さんの思いの両方に関心をもてる人,病院の中でチームの一員としてやっていける人,みずから学ぶ人,というのがどの面接官も求めた条件でしたが,これを満たすのは結構難しいようです。ただ,自分が何を考え何を行なおうとしているのかわかって,それを自分の言葉で人にわかりやすく語ることができると,条件をクリアしているのかもしれません。文章に立派なことを書いていても,いざ人の前に出ると何も言えない,言うことが見つからないというのでは,書かれた文章の信憑性が揺らいでも仕方ありません。
 なぜ,そのような面接をするのでしょうか? 書類選考と学力試験をして成績順に採用すれば簡単ではありませんか。

医療者として最も重要なこと

 その病院の考えはこうでした。学力試験は国家試験を通れば問題ないが,会って話をしてみないことには,一緒に仕事ができるかどうか判断できない。なぜなら会ってその人の言葉を聞き,その目を見て,一緒に時間をすごし,問題をともに考えるというプロセスを経て初めて,おぼろげにその人が見えてくるからです。華々しい経歴が並ぶ書類では見えないその人の人間性や他者への態度こそが,その病院の医療者としては最も重要だったのです。
 考えていて,はたと思い当たりました。これは患者さんが医療者と初めて出会ってから最初の信頼関係を作るプロセスの「医療面接」と同じなのです。患者さんは医療者の言葉を聞き,その目を見て,一緒に考えてもらうという時間をすごしながら「この医療者とやっていけそう」かどうかを感じ取ります。一緒にやっていけるかどうか。
 一緒に働きたい,一緒に考えて手を貸してもらいたい,そう相手に思われるためには,まず自分がそこで働きたいと強く願い,一緒に考えて力になりたいと心から思うことです。地に足が着いた思いは必ず相手に伝わります。自分にとっての相手,相手にとっての自分という存在を大事にして,一緒に夢を描くことができれば素敵な出会いではないでしょうか。