医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


わが国の医学教育の問題点をストレートに示す好著

“大リーガー医”に学ぶ
地域病院における一般内科研修の試み

松村理司 著

《書 評》吉田一郎(久留米大教授・医学教育学)

プロフェッショナリズム教育の見事な成功例を示す

 今回,大リーガーのホームランのようなすばらしい本が出版された。医学教育が明治以来の大改革の時代,タイムリーな出版である。米国から優れた指導医を20年近く招聘され,こんなに見事なプログラムを展開しておられることに,心からの敬意を表したい。
 欧米の医学教育の新しいカリキュラムで,現在強調されていることは,プロフェッショナリズムである。このコンセプトが医学生や研修医に植え込まれれば,知識,技術,態度の教育はもとより,患者さんへの思いやり,気づき,向上心,医療事故防止などすべてがうまくいくという考え方である。プロフェッショナリズムは,CBTやOSCEでは評価できない。そのため米国では,CBTやOSCEに引き続き,医師国家試験でのポートフォリオ評価を検討している。一方,効果的なプロフェッショナリズムの教育は,「あのような医師になりたい」と思わせる人間モデルを示すことである。この本に登場する名医の方々は,人間モデルにふさわしく,若い医学生や研修医に大きなインパクトを与え続けている。
 舞鶴市民病院での研修後,多くの医師が米国はじめ,海外へ飛び立っている。これは,プロフェッショナリズム教育の見事な成功例であり,教育理論に人間学を持ち込んだボルノウの「ヒトは出会いによって,大きく成長する」ことの実証でもある。

卒前教育が変わらないと,卒後教育も変わらない。
貧しい卒前教育のつけが卒後教育へ

 卒後2年間,基幹科目中心のローテーション方式は,今からわが国が卒後研修必修化として導入するものである。しかし,米国では,現在インターンという名前こそ残っているものの,大半はストレート研修の時代になっている。先進諸国では,医学生の臨床実習は最低2年間,ばっちりと本格的に行なわれ,卒後に繰り返す必要がないのがその理由である。
 一方,わが国が今から卒前医学教育に導入するモデルコアカリキュラムは画期的ではあったが,臨床実習の期間など,先進国レベルに達していない。しかし,英米式をストレートにまねても,効果的なよい教育は困難であろう。なぜなら,わが国の教育スタッフ数は米国の1/5から1/10で,教育関連病院も少なく,しかも医学生や研修医の教育を熱心にしても報われなく,指導医の関心が教育よりも研究や診療に向かうのは自然なことであろう。この本の中には,米国人医師の目からみた舞鶴市民病院の医師の過重な労働が,繰り返し述べられている。しかし,大学の医師はもっとハードであろう。日本がきわめて低い医療費にもかかわらず,生存率,生命の質,費用-効果効率からみて先進国の垂涎の的という米国人医師の感想が本書で語られている。日本の医学教育が貧しいのは,医療費が低いため,医学教育への還元が少ないこととも関係があろう。
 本書の中には,米国人の目でみたわが国の大研修病院での医療の質が,東南アジアのシンガポール総合病院よりもずっと劣っていることが述べられている。また,医学生や研修医のいる病院では,臨床医は誰しもがクリニカル・エデュケーター(教育を行なう臨床医)でなければならないのに,わが国では,このような教育のできる臨床医が大変に少ないことも本書の中で指摘されている。米国では,クリニカル・エデュケーターが養成されるシステムが完成しているが,これもマンパワーの豊富な米国であるから可能ともいえる。

全篇にあふれる医学教育にかける熱意とチャレンジ精神

 数多くのすばらしい箴言の数々や珠玉のことばが,本書をさらに魅力的なものにしている。
 「患者さんを診たら,5秒以内の全体的判断が最重要です」,「At least do not harm」,「脳幹部病変と末梢性多発神経症の診断能力を見れば,神経専門医の水準はすぐにわかります」などなど。「日本の研修医と医学生は,診断がまだついていない患者さんをもっと勉強したほうがよいと思う」も的確なコメントであろう。また日本の開業医への辛口のコメント,「勉強しない日本の開業医をみると,ケンタッキーのインド人医師でもウイリアム・オスラーに見えてしまう」は随分と耳が痛い。
 波乱万丈の人生で米国に渡り医師になった多くの方々のことが,本書の中で興味深く紹介されている。このような多民族,多彩な文化を受け入れる米国の度量,また米国の同僚からどうして日本のような国にいくのか,と言われながらも,日本に来られる米国人医師の奉仕精神,生きざまにも感銘を受ける。一方,英国でもGMC(General Medical Council)は英国の医学部の卒業生が将来,国外に出て,多様な民族,多様な文化に適応できるような教育を強調している。また,本音で言えば日本の医学への評価の低いことも本書中に述べられている。いずれにしても本書における最も大きな魅力は,「大学病院や都会の名門研修病院に負けない」という著者の医学教育にかける熱意とチャレンジ精神である。この本は,間違いなくわが国の臨床医学教育を変える1冊となるであろう。
A5・頁328 定価(本体2,200円+税)医学書院


グローバルスタンダードの内容,追随を許さない勝れ物

小児科レジデントマニュアル 第2版
安次嶺 馨,我那覇 仁 編集

《書 評》山城雄一郎(順大教授・小児科学)

 沖縄県立中部病院では,いまだ米軍統治下の1967(昭和42)年の開院以来,ハワイ大学と提携して米国式の卒後研修を行なっている。今ではその研修終了者の中から教授や指導的上級医師を多数輩出しており,わが国有数のレベルの高い研修教育病院の1つであることは,今さら述べるまでもない。それ故,高いモチベーションを持った研修希望者が全国から押しかけ,選抜試験が行なわれている。講義などのため筆者は,過去に中部病院を何度か訪問した際に研修医と接する機会があり,彼らの充実した研修内容はよく承知している。

安心できる小児科最新情報,頼れるマニュアル

 今回,沖縄県立中部病院小児科のレジデントマニュアルの第2版が出版され,書評を依頼された。編者の安次嶺馨副院長(米国小児科専門医)が序文で述べられておられるように,初版を一新した形の改訂マニュアルが生まれた。
 初版も出版当時,本邦で出版されていたマニュアル本に追随を許さない勝れ物であった。
 第2版は,初版の経験を基盤にその後の研修者と指導者の体験,学問の進歩,社会と医療情勢の変化などをも考慮して,記載項目を増やし,かつより詳細な内容となっている。その結果,記載内容がレベルアップされたが,決して情報の過剰感はなく,簡潔でわかりやすく感心するくらいむだな文章がない。急を告げる多忙な救急当直外来で,研修医が本書の頁をチラッとめくって安心できる情報を得るのにちょうどよく,研修医の頼れるマニュアルになることは間違いない。
 グローバルスタンダードの内容で,現時点での国際的な最大公約数的コンセンサスが反映されていて,若い医師の教育上も片寄った学説に引きずられていないので,安心して勧められる。この本を出版するまでに個々の執筆者がよく文献を読んで勉強し,全体のバランスを考えながら,編者との間で相当活発な討論と綿密な打合せを重ねたことであろうと想像に難くない。common diseasesとcommon conditionsに対処できることがレジデント研修の主眼であるが,本書はもちろんこの点に重点をおいて編集されている。
 大項目が「小児救急」,「小児疾患」,「新生児疾患」,「小児保健」,「検査・手技」,「検査基準値」そして「薬用量一覧」の7項目からなっている。
 各大項目,例えば「II.小児疾患」の中に「呼吸器」,「循環器」などの小項目があり,小項目中に各臓器のcommon diseasesやcommon conditionsが述べられている。

魅力的で秀逸な小児救急の記載

 筆者の私的な観点から言うと,中でも「I.小児救急」にある全17項目の記載内容は,秀逸で魅力的でさえある。「発熱」,「痙攣」,「意識障害……」とcommon conditionsの小項目があり,まず一般的注意説明に続き,診断や検査のポイント,そして治療の記載が続く。これには,minimum essentialsに加え執筆者の体験,および中部病院小児科で蓄積された救急患者管理のノウハウが,プラスアルファとして遺憾なく述べられている。とりわけ,救急研修の充実を誇る中部病院の面目躍如たるところである。だらだらとした文章は避け,重要ポイントを簡潔に箇条書きにして示してある。
 1つのcommon conditionについての記載は,5-6頁に留めてあるが中身は濃い。治療に関しては,EBMを重視し本邦で慣用されている処置に対しても,効果が認められているものと不明のものとははっきりとしたコメントを付してあり敬意を表する。
 代表的な内外の参考文献を計2-3編紹介し,短いが適切なコメントもあり,さらなる勉強に役立つことを意識した配慮である。患者家族への説明のポイントにも触れており,後々の訴訟トラブルなどを起こさないためのrisk management面的な点まで考慮されている。Side memoやinstructive caseは,研修の幅を持たせることに役立つと思うが,超短編読み物としても興味深い。
 中部病院研修のエッセンスが詰まった研修医必携の書である。筆者の所属する施設の研究医にももちろん勧めている。
B6変・頁528 定価(本体4,500円+税)医学書院


わが国の心身医学のバイブル改訂

心身医学標準テキスト 第2版
久保千春 編集

《書 評》野添新一(鹿児島大教授・心身医学)

医療動向の変化に伴い増加する心療内科の標榜

 わが国では現在経済の低成長が続く中,医療費の高騰などが問題となって,さまざまな改革が行なわれている。入院期間の短縮,医療費自己負担の増加があり,まもなく包括医療の導入も予定されている。これらは,生活習慣病や機能性障害など慢性疾患の増加と無関係ではない。近い将来,医療費と日頃各人が実践している健康行動,セルフケア行動はより密接な関連を有することが明らかにされるであろう。必然的に身体のみでなく,心理・社会因子を含む医療のあり方が医療者,患者の双方に求められてくるに違いない。これらの動向は,巷に心療内科の標榜が増えつつあることからもうかがうことができる。

一層はかられた内容の充実,即日常診療に役立つ内容

 このような状況にある時,九州大学心療内科久保千春教授編集による『心身医学標準テキスト』が内容を一新して改訂出版された。初版は,1996年で執筆者は心療内科スタッフと教室出身の方々が中心である。すでに心療内科医や,臨床各科の医師,コメディカル,医学生にとっては心身医学のバイブルとなっている。
 本書はもともと,全国から心身医学を学ぼうと心療内科での教育研修に参加する方々のために準備されたテキストが発端となっており,毎年のように内容について吟味がなされてきた。改訂版では,全体的に図が見やすいように工夫され,初版以来数年間で明らかにされた内外の新しい知見が随所に加えられている。また癌と心身医学では,初版では「ストレスとの関連は可能性あり」から,改訂版では「賛否両論がある」との記述に変えられており,執筆に対する真摯な態度がうかがえる。
 全体の構成は大きな違いはないが,I章の心身医学総論では,現在社会的にも注目されている「産業心身医学」が新しく加えられた。II章の心身医学の基礎では,情動と生理・内分泌・アレルギーの項目で新しい知見が加えられている。III章の心身医学的検査では,脳機能画像などいくつかの新しい検査法が加えられた。IV章の心身医学各論では,摂食障害,慢性疼痛,癌と心身医学などは,教室でもっとも力を入れている分野であり,読み応えがある。また,小児心身症も加えられた。V章の心身医学的治療では,はじめに治療手順が詳しく解説されており,即日常診療に役立つ内容である。薬物治療でも最近認可されたSSRIについて薬物動態の解説が加えられている。また,チーム医療,行動療法,ブリーフセラピーが新しく追加され,内容の一層の充実がなされている。
 本書は心療内科医だけでなく,臨床各科の医師,コメディカルの方々にとっても入門書となり得るばかりでなく,日常診療における座右の書となり得ると考え,推薦する次第である。
B5・頁368 定価(本体9,200円+税)医学書院


ほとばしる著者のリウマチ診療への想い

内科医のためのリウマチ・膠原病診療ビジュアルテキスト
上野征夫 著

《書 評》七川歓次(滋賀医大名誉教授)

患者を目の前にした真剣な目差しの記述

 本書は,わが国のリウマチ学の歴史の中で画期的なもので,おびただしいリウマチ性疾患患者に接する医師が,どのように診療を進めればよいかの指針を,率直に,クリアカットに,しかもていねいに,リウマチ病全般にわたって述べている。これまでの長い経験から,これだけは知っておいて診療に生かしてほしいという著者の想いが伝わってくる。どの病気の記述も,患者を目の前にした真剣な目差しが感じられ,なおかつビジュアルで,カラー写真やX線写真,手技の図が豊富である。きわめてわかりやすい,しかしながら経験に裏打ちされた簡単な記載にも深い味わいがあって,さすがと思わせる。従来のリウマチのテキストブックと比べるとその違いは一目瞭然で,診断基準に長々と頁を費やし,多くの先達の過去の意見が述べられても著者自身の顔が見えてこない,といったものではない。そのうえ,たいていのテキストブックは,編集本であるからなおさらこの本との違いが際立っている。

日常診療を配慮した心憎い目次の配列

 本書は,リウマチ患者を診療するにはこの程度の知識と手技を身につけていなければならない,ということを示そうとしているように見える。したがって目次の配列も,多い症状,多い患者の順から述べられていて,まず関節炎の鑑別の記載から始まり,臨床検査の中でも,X線写真の読み方,オーダーの仕方,関節液からの疾患の鑑別に多くの頁を費している。これは著者が比重の置き方を心得ているからで,私にとっては心憎い思いである。次いで関節の見方から問診のとり方などとともに,眼や皮膚の症状がカラフルに示されている。さらに筋肉の痛みの診断,関節穿刺の手技について述べ,治療薬剤にどのようなものがあるか,その用い方と副作用が説明してある。
 疾患の記載も,まず局所的疼痛性疾患から始まるのは,日常遭遇する患者の数を考慮したものであろう。次いでRA,OAとなり,結晶誘発性関節症,線維筋痛症,骨粗鬆症,結節性紅斑,最後に全身性炎症性結合組織病が記載されていて,リウマチ患者を扱う臨床医にとってはなるほどと思わせる配置である。
 考えてみれば,このような240頁余りの分厚くない,しかし重厚なリウマチのテキストブックは,わが国では余人には書けないだろう。著者は米国に長く居て,この国の専門医のタイトルを持つ,わが国唯一の内科医であって,私は彼と一緒に10年近く働いたが,すぐれたリウマチ専門医がどういうものであるか,その知識と経験と技術とに感銘を受けた。このような本はもっと早く出ていなければならないのに,やっと上梓されるにいたったのは,わが国のリウマチ学のレベルが国際的なものに近づいてきたことを示していると思われるが,このテキストブックの題名に「リウマチ・膠原病診療」と著者も述べているように,「膠原病」という他の国では使われなくなった言葉を加えないと“リウマチ”にならないわが国特有の事情を示していて,著者にとって不本意なところがあるだろう。
 表題が「内科医のための」となっているが,これは関節炎患者の診療に日常携わっている整形外科医にもぜひ読んでもらいたいものであり,総じて,痛みを訴える患者に接する医師すべてに,座右の書としてすすめたい。このような本を出版した上野先生に私は讃辞を惜しまない。
B5・頁244 定価(本体6,800円+税)医学書院


臨床の場で即有用なIVR書

IVRマニュアル
打田日出夫,山田龍作 監修/栗林幸夫,中村健治,廣田省三,吉岡哲也 編集

《書 評》松井 修(金沢大大学院教授・経血管診療学)

大きな成果をあげているIVR

 IVRは多臓器,多疾患に応用され大きな成果をあげている。しかしながら,専門的な技術を必要とするために近年放射線科医が中心となって施行する施設が急増している。すなわち,少数のIVRに習熟した医師が広い領域をカバーしている。またIVRは,救急医療には欠かせない手技となっており緊急に施行される場合も少なくない。IVRについての研究や論文,総説,教科書は多数あるものの,このような臨床の現場ですぐに参照できる“IVRマニュアル”は,わが国ではこれまでに十分なものはなかったと言っても過言ではない。
 その理由としては,IVR手技は過去20数年間にわたり進歩し続けており,コンセンサスが十分確立していない場合が少なくないこと,EBMに基づいた臨床研究が十分なされておらず,各施設の“流儀”的な要素が少なくなかったことなどが考えられる。しかしながら,臨床の現場では,その場で参考にできる信頼性の高いマニュアルが切望されていた。欧米ではこうした観点からいち早く優れたマニュアルが発行されているが,対象疾患,手技にはわが国独特のもの,あるいはわが国にオリジナルティがあるものなどが少なくなく,わが国の臨床の場では即有用であるとは言えなかった。

IVRの現場に必須の好著

 今回,わが国のIVRの創始者とも言える打田日出夫前奈良医大教授,山田龍作前阪市大教授が監修され,両教授の門下生あるいは強い薫陶を受けた関西の新進気鋭のIVR専門医が中心となって発行された『IVRマニュアル』は,まさに待望の書と言える。直接の編集は,栗林幸夫慶大教授(前国立循環器病センター),中村健治阪市大助教授,廣田省三兵庫医大助教授,吉岡哲也県立奈良病院部長の4人であるが,それぞれが知る人ぞ知るvascularあるいはnon-vascular IVRのわが国の第一人者であり,かつ現在アクティブに実地に関わっている方々である。まさに最適の人選と言える。
 内容は,vascular interventionとnon-vascular interventionに分けられ,それぞれに日常診療で遭遇する必須の手技が網羅されている。手技の適応,禁忌,術前処置,手技,術後処置,合併症,治療成績が簡便にポイントを確実に押さえて記述されている。また手技のコツについても明確に言及されている。自分の習熟した手技でも,IVR施行直前に復習を兼ねて読むと参考になる部分が少なくない。これらに加えて,総論として,インフォームド・コンセントのあり方や薬剤の投与方法,重要な画像解剖,カテーテルなどのIVR器具の特徴やメーカー名なども記載されており,まさに編集者あるいは著者ら自身が現場で感じる必要な項目を網羅していると言える。IVRの現場に必須の好著である。また,広範囲のIVRをカバーする放射線科医にも広く推奨できる。これからIVRを学ぶ研修医の座右の書として,また放射線科専門医あるいはIVR指導医試験の参考書としても大いに役立つ書と言える。
A5・頁348 定価(本体5,800円+税)医学書院