医学界新聞

 

《プロフェッショナルな外科医を育てる-心臓血管外科領域の新しい動向》

心臓血管外科の専門医制度

北村惣一郎氏(心臓血管外科専門医認定機構代表幹事・国立循環器病センター総長)に聞く


●「心臓血管外科専門医認定機構」の新設

―――昨年,新たに心臓血管外科領域の専門医認定に「心臓血管外科専門医認定機構」が設立されました。
北村 その前段階として,外科関連学会が統一をはかり,外科関連サブスペシャリティになるためには外科の知識を広く修得するべきと,心臓血管,呼吸器,消化器,小児外科の4領域については日本外科学会の専門医取得を必須とすることで外科関連専門医認定委員会(古瀬彰委員長)で合意されました。
 一方,日本胸部外科学会には認定医制度がありましたが,学会(現専門医)認定制協議会等から,「胸部外科認定(専門)医では患者さんにわかりにくい」という指摘を受け,専門医制度を標榜科名と合致させ心臓血管外科と呼吸器外科の2つに,さらに,食道外科部門を消化器外科に分けました。
 そこで,心臓血管外科領域については,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本血管外科学会の3学会の協力を得て,3学会の集約体として,そして将来的には学会から独立した組織も視野に入れて「心臓血管外科専門医認定機構」を発足させました。ここでは,日本胸部外科学会認定・指導医制度を継承しながら,新たに3学会の連合の心臓血管外科専門医制度の整備,認定・登録・更新業務,認定修練施設の認定などの事業を行なう予定です。
 一方,胸部外科学会と呼吸器外科学会とは協力して「呼吸器外科専門医認定機構」をスタートさせています(日本胸部外科学会の認定制度は昨年で終了し,専門医制に継承)。
 新システムでは,2002年11月から認定施設の申請を,専門医の申請は今年3月に開始して,秋に試験をする予定です。資格基準は以前に比べて厳しくなり,この通り研修すると,中規模クラスの病院から受験資格者を毎年輩出するのは難しいと言われています。
 「専門医」の名に恥じないよう,研修をきちんと受けた優秀な人にのみ「専門医」の資格を与えるべきだという意見がある一方,いくつかの問題も抱えています。1つは,新制度設立により日本胸部外科学会の衰退を危惧する声があること,もう1つは,これまで学会が認定してきた認定医をどのように専門医に移行するかです。これまでの認定医も研鑚を積んでいて,それを「全部捨てなさい」では,先輩が築いたものをみな潰してしまうことになるため,日本的な発想ではありますが,暫定的な移行措置を行なうとし,日本胸部外科学会認定医・指導医制度を継承する型をとります。専門医制では研修を受け,また試験に合格すれば複数の専門医資格を取得できますが,移行措置では胸部外科の一部門の専門医のみとし,明確に患者さんからもわかる形とします。

●日本の心臓血管外科領域の課題

「専門医」-「診療報酬」と「広告開示」の間での整合を

北村 昨年,厚生労働省から手術件数の施設基準が示され,それに満たない施設は3割減算となりました。そこで,日本胸部外科学会も含めた種々の外科系学会が意見を提出し,専門医が執刀する場合は減点されないとなりましたが,その時に「専門医」として名前があがったのが,胸部外科学会の認定医でした。厚生労働省は「広告には法人化が必要」と規定していますが,胸部外科学会は法人格がないため専門医広告はできないにも関わらず,診療報酬では「日本胸部外科学会認定医」となる事態が起こっています。日本胸部外科学会認定医には心臓,呼吸器,食道・消化器の専門医が含まれるため,特定の診療行為との連携には難しさがあります。この点が新しく名称を考えることの大きな意義です。
 つまり,厚生労働省保険局のいう診療報酬を結びつけた「専門医」と,医政局の言う広告開示のできる「専門医」とは食い違っているので,ここらを省内で整合していただきたく思っています。
 私たちは現在,広告の開示もできる専門医制度を構築したいと考えているところで(法人格未取得),その専門医をもって診療報酬の減点を免除されるとなれば,整合性があるというものです。
 先日,厚生労働省からドクター・フィー(医師の技術料)を導入する方向性が示され,医師の技量が評価されるとの話がありました。これがどうなるかはまだはっきりしませんが,専門医制度がそこに組みこまれていく可能性もあり,医師にとって有効なインセンティブになるでしょうし,そうあってほしいと思っています。

専門医数のコントロールと抱える矛盾

―――海外では,専門医の質を保つために専門医機構(ボード)が専門医の数をコントロールし,1人の医師が多くの症例をみると聞きます。
北村 現在,日本で年間4万6千-4万7千例ほどの心臓血管手術が,500を超える施設で行なわれています。平均すると1施設90例ほどです。「バイパス手術年間100例」という基準でみると,平均的にはすべてそれに満たない施設になります。しかし,何施設が適当かというのは都市部と地方部でも違いがあり,クリアには言えませんが,数だけで言えば専門医は500人,施設は250-300と,現在の半分くらいでよいのではないでしょうか。
 日本で癌を扱う有力な施設は全国で250ほどですが,心臓外科バイパス手術が可能な施設は500,PCIを施行する施設は1000を超えています。多くの大学教授が,今の日本に心臓外科の施設が多すぎることはわかっていますが,一方では,自分が育てた人たちに手術を行なう場所が必要だと思っています。この2つが矛盾しているのです。
 日本では若い医師に手術周辺の雑務をさせていることが多く,助手として手術に立つチャンスも少なく,経験できる症例数が非常に少ないのが現状です。いくら若い医師が辛抱しても,10年経てば「自分が手術をやる」と思うようになります。その時に,「施設が多すぎて困る」と言っている同じ者が,手術ができる場所を作ってしまう。アメリカは,外科医の雑務の問題に対して,手術周辺での雑務を引き受ける「surgeon's assistant」という職種や,「clerk」という秘書的な職種を作り,手術室や病棟での低技術作業や事務的・雑務的な仕事を任せることで解決しています。

専門医制度に対する国の姿勢を明確に

北村 専門医については,行政の指針がないために学会が認定していますが,将来的には初期臨床研修を必修化したように,医師の専門領域における臨床研修のあり方についても,国で1つの形を作るべきだと考えています。また,行政が専門医制度と診療報酬を結びつけて考えていくのであれば,専門医制度はアメリカ同様にきちんと管理する必要があります。今後は,行政指針や法律でまとめて,その代わりにインセンティブとリターンがある形にする必要がありますが,残念ながら現時点では日本にはそういう動きはありません。
 専門医の数の調整をするとなれば,試験制度を厳しくしたり,将来的には経験症例数を増やす必要が出てくるでしょう。一方で,それだけ厳しくなれば,その先に何が得られるかが重要になり,努力目標を明確にする必要があります。そこで,この1-2年で見えてきたのが広告開示と診療報酬の2つです。現時点では多くの問題があり,今後,厚生労働省内に専門医制を考える委員会でも設置していただければと考えています。将来的には,専認協が国からの費用も得て,第3者機構として専門医認定を担う方向性に進むことを期待します。
 最後に,専門医にまず大事なのは,技術面に加えて,患者さんと人間同士としてコミュニケーションができることです。それができない医師はやはり問題があるということです。新しい専門医制度では,認定施設の申請用紙に「医療安全対策」,「感染対策」,「医療倫理」などについて継続的に学べる環境にあるかを記す欄があり,これがプログラムに入っていないと認定施設として認められません。医者は技術だけでは駄目なのです。「よい医者とは何か」を問われた場合には,患者さんの気持ちになって考えることができ,患者さんを自分の親や嫁さんや子どものつもりで治療するという気持ちが必要だと思っています。
―――ありがとうございました。

■心臓血管外科専門医認定機構
URL=http://cvs.umin.jp