医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


たゆまず発展してきた腹腔鏡下大腸切除研究会の成果

腹腔鏡下大腸手術 アプローチ&スタンダードテクニック
腹腔鏡下大腸切除研究会(代表世話人:小西文雄)編集

《書 評》山川達郎(帝京大名誉教授)

大腸癌に対する内視鏡外科手術の意義を追求

 大腸癌に対する内視鏡外科手術の意義を追求することに情熱を傾けられてこられた,自治医科大学大宮医療センター小西文雄教授を代表世話人とする,腹腔鏡下大腸切除研究会が編集された『腹腔鏡下大腸手術-アプローチ&スタンダードテクニック』と題する単行本が,このたび発刊されました。先生は,その目的を達成するためには,術式の定型化,データの集積による遠隔成績の分析,トレーニング法の確立が不可欠であり,その手段としてはまず研究会の設立が必須であることを,かつて日本内視鏡外科学会教育委員会委員長を務めていた筆者に,熱っぽく話してくださったことを今も鮮明に思い出すことができます。確か1998年頃だったかと思われますが,大腸癌研究会のプロジェクトに先生の考えがとりあげられたのに相前後して腹腔鏡下大腸切除研究会が設立され,以降,同会はたゆまぬ発展を続けてきました。このたびその成果をこのような立派な単行本としてまとめられたことは,誠にご同慶のいたりです。
 内容は,第一線でご活躍中の著者ら各人が,固執し,試行錯誤しながらきわめた術式の現況を,それぞれ外側,内側アプローチ法,後腹膜アプローチ法などと命名して,懇切ていねいに紹介しています。術式の選択は,一般にいかなる方法で腹腔鏡下手術を始められたかによって決められていると思われますが,原則は皆同じでありますから,これでなくてはならないという規則はありません。ことに手術の難易度は,病変部位,患者さんの体格,手術既往の有無などによっても異なり,また場合によってはいろいろな工夫を必要とするので,まずは今回発刊されたような優れた手技解説書を座右に置き,参考にしながら,いかなる事態にも対処できるように技術を磨き,その手技を自分のものにすることが大切です。

手術に役立つ貴重な手引き書

 しかし,内側と外側アプローチの手法はともに腹腔内の手術であり,その時々の腹腔内の状況によりそれぞれの手技の応用がより合理的な手術につらなることがありますから,両者の手技に等しく通じておくべきです。一方,後腹膜アプローチは,泌尿器や整形外科領域の内視鏡下手術にも応用され,注目を浴びている手技で,知っていると役に立つ手法ですが,バルーンの挿入法1つをとってもちょっとしたコツがあります。そんなところが,本書では大変,要領よく説明されていますので,本書は,実際の手術の際にただちに役立つ貴重な手引書であるということができます。
 しかしながら,一読すると一見簡単にできそうな術式のような気がするかも知れませんが,腹腔鏡下大腸切除術は一種のadvanced surgeryであり,2次元の視野下での高度な鉗子操作技術が要求される術式です。したがって初心者のみならず,ある程度の腹腔鏡下大腸切除術を経験した外科医が読んでも参考になりますので,ぜひ,皆様には本書を座右に置かれ,実際の臨床に役立たせてほしいと念願しています。
B5・頁118 定価(本体8,000円+税)医学書院


一目瞭然,組織学総論の到達点を見事に集約

標準組織学総論 第4版
藤田尚男,藤田恒夫 著

《書 評》山科正平(北里大教授・解剖学)

 お2人の藤田名誉教授による『標準組織学総論』が14年ぶりに大改訂されて,第4版として登場した。第3版と比較しながら頁をめくると,この間に組織学の内容がいかに豊富になったかが一目瞭然となる。

組織学総論の全貌が俯瞰できる

 遺伝子組織化学,一群のニューマイクロスコープ,アポトーシスといった,新たに導入された技術や概念が細大漏らさず組み込まれ,また多数の図についても最新の情報を盛り込んだ改変が行なわれた。特に結合組織や血球の項では,免疫学の発展に呼応した大幅な改変が施されているが,幹細胞についての新しい記載も随所に見ることができる。その他にも多くの新たな用語や解説が加わって,21世紀初頭の組織学総論の全貌を俯瞰できるものへと見事な衣替えが施されている。躍動著しい生命科学の趨勢を的確に掌握し,膨大な情報を取捨選択の上,現時点における到達点を集約して改訂をなされた著者には,深い敬意を払いたい。
 もともと本書は,発見にまつわるエピソードや日本人の業績も多く紹介されていて,楽しみながら読める書物であったが,それに加えて学問的にも芸術的にも見事な写真シェーマを多彩に活用することによって,視覚的な理解と関心を促すところに大きな特色を有していた。今度の改訂でも新たな発見がいくつも追加されたばかりか,科学写真としては最高レベルにある多数の新しい写真の追加に図版のカラー化も行なわれ,この特色がさらに一層強調されている。また,見出しの直後に追加された数行の解説,項目分けの変更,意味合いのはっきりしてきた用語をゴチックに変えるなどの改訂により,読者の理解を飛躍的に助ける効果が生まれた項目も多い。
 本書のもう1つの特色は,非常にたくさんの文献がリストされていることである。そのため,何かの調査にあたっては,まずこれに目を通すのが最も手っ取り早い。今度の改訂でもさらに膨大な数が追加されているため,その利用度が飛躍的に増加したことは言うまでもない。組織学を学ぶ方はもとより,生命体の構造や機能にいささかなりとも関心を寄せる方たちは,どうしても本書を座右におく必要があり,今度の改訂によってその位置がさらに一層明確となった。

次世代に伝えたい学問の到達点

 これだけ内容が充実したにもかかわらず,総頁数は10%ほどの増加にとどまっている。若干の削除に加えて,図版のレイアウトを変えるなどの工夫により,余白を大幅に少なくしたあたりにその秘密があるようである。
 かくして,組織学を体系として解説する書物が装いを一変させた,まさにその折り,医学教育の現場からは“-ology”が捨て去られようとしている。また,活字離れの傾向は医学生も着実に定着して,本書の「総論」,「各論」編2冊を読みこなすことは相当な負担になっているようである。書名にある「標準」の意味がすっかり変わってきたと言わざるを得ない。それにもかかわらず,「各論」編の新装を鶴首して待ちたい。風潮に流されることなく学問の到達点を次世代に伝えるには,書物として残すほかにはなく,本書の両編がその役に最もふさわしいと考えるからである。
B5・頁352 定価(本体8,500円+税)医学書院


難解な腎不全患者への薬剤投与がズバリわかる

腎機能低下患者への薬の使い方
富野康日己 編集

《書 評》斎藤 明(東海大総合医学研教授)

 最近,順天堂大学医学部腎臓内科の富野康日己教授編集による『腎機能低下患者への薬の使い方』が医学書院から刊行された。腎機能低下患者への薬剤投与は,臨床医にとり日常臨床の中でしばしば遭遇し,薬剤の特徴に応じ,また腎機能低下の段階に応じて投与量と投与方法を変えることを必要とされる,難解な領域の1つと考えられる。
 まず,薬剤の排泄部位が腎臓か肝臓かにより薬剤投与量が異なることになる。肝排泄性薬剤では通常投与量でよいが,腎排泄性の比率が高い場合には,腎機能の低下レベルに応じた投与量の減量が必要となる。蓄積により腎障害を引き起こす薬剤やその他の副作用を引き起こす薬剤があり,その薬剤ごとの有効血中濃度と蓄積による副作用の種類や発現との関連性を知る必要がある。一般に,腎機能低下レベルが大きくなるにしたがい,腎排泄性薬剤の蓄積が著しくなり,投与量,投与間隔を大きく変える必要がある。
 末期腎不全にいたると,血液透析,腹膜透析などの治療を受けることになる。その際,薬剤の分布領域,分子量や蛋白結合性が,透析による除去率に大きく影響する。蛋白結合率の高い薬剤は,透析による体内からの除去が少なく,蛋白結合率の低く,分子量の高くない薬剤は透析により6-7割を喪失することになる。適正な投与にはそれらの基礎知識が不可欠である。

わかりやすくコンパクトにまとめられた腎機能低下患者の診療

 本書では,「総論」として,中毒性腎障害,造影剤による腎障害,腎機能の程度にしたがった薬物療法,腎臓の構造・機能と薬物排泄,腎機能低下時の薬剤投与設計などの基礎がわかりやすく解説されている。
 また,「各論」において感染症治療薬(抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬など)および呼吸器疾患治療薬,循環器疾患治療薬,消化器疾患治療薬,精神・神経疾患治療薬,血液疾患,内分泌・代謝疾患治療薬,抗炎症薬,抗リウマチ薬,鎮痛薬,造影剤,診断用薬,その他の薬剤について,具体的に100種類以上の薬剤をあげて,代表的商品名,剤形,適応,常用量,腎排泄率,主な類似薬,腎機能低下時の処方例,腎機能低下時の副作用・相互作用などにつき,わかりやすく,コンパクトにまとめられている。さらに,薬剤ごとに腎機能低下患者への投与時のワンポイントアドバイスを示し,注意点を喚起している点が魅力である。
 本書は,臨床家が日常診察室のかたわらに置いて,または白衣のポケットに入れて,治療の合間に参考にするにふさわしい治療マニュアルである。多くの臨床家の腎機能低下患者診察に大いに役立つものと確信する。
B6変・頁292 定価(本体3,800円+税)医学書院