医学界新聞

 

「アジアの看護」を世界に向けて

第6回「EAFONS国際会議in Japan」の開催にあたって

【インタビュー】南 裕子氏(兵庫県立看護大学長/第6回「EAFONS国際会議in Japan」会長)


 東アジアの看護系博士課程の集まりであるEAFONS(The East Asia Forum in Nursing Scholar:東アジア看護学研究フォーラム)の第6回国際会議が,南裕子会長のもと,明年3月に兵庫県の淡路島夢舞台国際会議場で開催される。本紙では,同会議の開催にあたり,南会長よりその趣旨などをうかがった。


●東アジア6か国の看護学博士課程から

国を超えて刺激しあう意味

 EAFONSは,看護学の博士後期課程(以下,博士課程)の教育を受けた人たちの研究と情報交換の場に特化された,東アジア地区の看護ネットワークのことで,香港,タイ,台湾,韓国,フィリピン,日本の6か国で組織されています。東アジア地区の看護大学で,看護学博士課程のある国は,現在この6か国しかありません。なお,EAFONSの本部は香港大学にあります。会員は,博士課程の教育に携わっている人,または博士課程を修了した人,および博士課程の学生で構成されています。
 香港の看護大学に博士課程が創設された際に,カリフォルニア大学の教授でしたアイダ・マーチンソン氏が指導者として赴任されましたが,EAFONSは彼女の提案で組織されました。看護学の博士課程は,それぞれの国が1か国に1つ,もしくは数校というように,1か国の中だけでは数が非常に少ない状況です。しかし,博士課程では違う大学の博士課程の方と互いに意見交換をしながら,刺激し合い,競い合い,発展していくことが求められています。また,研究を深めながら,学問を進めていく要になる人の育成を目的にしていますので,1か国だけで進めていくには限度があります。そこで,国を超えてつながることができれば,お互いが切磋琢磨できますし,刺激し合うことも可能になるのではないか,互いに情報交換をしていく中で,「看護学とは何か」ということを検証していくことも必要なのではないかという提案が,彼女からされたのです。そうして,年1回の国際会議を開くことにしたのです。

日本での開催まで

 その時期,日本の看護学博士課程は聖路加看護大学のみでした。日本にもEAFONSのメンバーに参加を,との誘いもあったようですが,第4回国際会議までは「日本も参加している」と仮定して,香港,タイ,韓国,フィリピン,台湾と順番に担当し,会議を開いてきました。
 昨年台湾で開かれました第5回国際会議には,兵庫県立看護大が博士課程を設置したことから,片田範子教授が参加をしました。実はその時に,「6か国のうちで開催をしていないのは日本だけだから,次回は日本で開催すべき」と言われてしまったのですね。
 私は,以前から世界のさまざまな学者から,「日本はEAFONSをもっと大事にしなければいけない」というアドバイスを受けていました。アジアの友人たちからも,「日本で開催すべきです」という呼びかけもありました。彼女たちからしますと,日本はちょっと冷ややかで,今はかかわっていないけれど,積極的に参加しなくてはいけない,ということですね。それでも,どのようなものかと思いながら,忙しさにかまけて何もしなかったのが,これまでです。
 現在,日本は博士課程の数が他の国々に比べて16校と群を抜いて多くなりました。その意味でも,日本で開催すべき時期がきたのではないかという判断もありました。そのような経緯から,第6回の国際会議を日本で開催し,事務局担当は兵庫県立看護大が引き受けることになったのです。
 今回の開催に関しては,まず国内委員会を立ち上げ,博士課程を併設している看護系大学院あてに,ことの経緯と情報を提供し,参加を呼びかけました。そして,全国から10数校の博士課程の方々が集まり,企画委員会を設置しました。この委員会でプログラムを考え,日本を含む6か国の各大学に対して案内を発信したところです。なお,今回のメインテーマは「アジアにおける看護学教育の発展に向けて」です。

アジアの看護を見出すために

 私たち東アジアの博士課程の指導者たちは,多くがアメリカに留学し学んできました。香港は,イギリスの影響が強いということはありますが,共通しているのはアジア独自のものではなく,西欧の看護学に影響を受けていることです。しかし,これからの博士課程では,むしろ東アジアから世界に向けて発信していくべきではないかということが,組織化する上での大きな課題でもあります。
 学問的にも,西欧諸国が東アジアから学ぶことはたくさんありますし,アジアから発信していくことで,私たちの考えもさらに向上することができます。今までは,アジアの特徴としての謙虚な姿勢がありましたし,語学力の問題もあり,世界に向けて発信するという機会が少なかった。それが,東アジアの人が横につながり,お互いの共通点や違いについて意見交換をしながら発達させていけば,それは世界の看護学の発展に貢献できるようになりますし,ひいては「アジアの看護」という独自のものが見出せるかもしれないとの考えがあります。

●看護学博士課程の見直しを図る国際会議に

国内初の博士課程だけの集まりが

 これまで,日本では看護の博士課程を修了した人が非常に少なく,私や昨年参加の片田教授もそうなのですが,看護研究の議論をしていく時に不自由さを感じていました。共通する基盤がないために学問の構築という部分は横に置いたまま,仕事をしてきたという側面があります。ところが片田教授の話によりますと,台湾での会議は,久しぶりに大変刺激を受けたと言うのですね。学問を構築していく上で,それを検証し,人に教育していくにはどうしたらよいのかが,本当に忌憚のないところで意見交換ができたとのことでした。
 今回の企画委員会で情報交換をしましたが,これまで国内では,博士課程の人だけが集まる会を一度も設定したことがなかったのですね。看護系大学協議会などの集まりで,学部教育や専門看護師の教育課程が議論されることはあっても,博士課程の教育をどうしたらよいのかという議論はほとんどされてきませんでした。そういう意味では,EAFONSに向けて日本の状況を議論するだけでも意義深かったと思います。

プログラム企画の内容

 国際会議には,他のメンバー国である5か国から研究者や博士課程の学生が集まりますが,学問構築は博士課程だけに限ることではありません。ですから,今回は参加枠を広げて多くの方々に基調講演などを聞いていただくことを考えています。なお,今回のプログラムでは,Susan Gennaro氏(Univ. of Pennsylvania School of Nursing/International Center of Research for Women)を招聘し,学問の発展を促していくために博士課程でどういう教育をしていくかについて,基調講演していただきます。私も,「日本の博士課程における発展と課題」を講演しますが,Gennaro氏の講演は私も楽しみにしているところです。また,6か国より各1名のパネラーが登壇し,発表と討議を行なうパネルディスカッション「Collaborative Development of Doctoral Nursing Programs in East Asia」を企画しています。
 参加者は200人ぐらいの予定ですが,日本の博士課程の学生にも発表の機会がありますし,看護界全体へのインパクトは非常に大きいものになるだろうと思います。
 先日,日本災害看護学会が「アジア災害看護フォーラム」を開催しました。日本を含めて7か国のアジアのリーダーを集めて,「災害看護のネットワーク構築について」をテーマに集まったのですが,それは100人ぐらいの規模でした。その時には,日本の災害看護のエキスパートが参加をしましたが,とても充実した会議でした。学会と違って,小規模の集まりですと,参加した人たちが全員何らかの役割をとり,お互いの顔が見えるよさがありますので,今回もその方向での「会議」を考えています。
 看護学の構築に向けて,博士課程教育をどのように考えていけばよいのかなど,いろいろな研究発表がなされますので,それに対して忌憚のない批判やサポート意見が出てくることを期待したいですね。

古い慣習から新たな教育の模索も

 なお最後になりましたが,日本における大学院教育は,どこか徒弟奉公的です。ある有名な大学の教授が,「博士課程の学生がいると便利よぉ。全部やってくれるから」と語ったそうですが,これではだめですよね。つまり,1人の教授に1人の院生がいて,授業をしないでセミナーばかりをしている,ということが多いのですが,もっと違う博士課程の教育の仕方がある。今会議では,そのあたりに焦点をあてることで,古い慣習に少しは風穴を開けることができるだろうということも,もう1つの目的でもあります。
 看護だけでなく,日本全体で大学院の見直しがされていますから,その意味で,看護学の大学院の博士課程の見直しする,刺激的な国際会議になると信じています。関心のある方は,どうぞ参加をいただきたいと思います。